第214話 本戦ー最終日・終わりに凶星は昇る その3

超大型ボス星喰らいのケモノとのレイド戦が始まって暫く。


一部の出しゃばったプレイヤーを食って強化された星喰らいを俺たちは何とか抑えていた。あれ以降はボティスがしっかり怪人メンバーたちの手綱を握っているので大きなミスもない。


接近されたら瞬殺だが、射程だけはこっちが圧倒的に上回れるからな。

超遠距離射撃の要でもある塔を庇いながら重心にしてぐるぐると周り、距離を離しつつ引き撃ちを続けている……といった状況だ。


これだけ聞くとレイドボス相手に随分余裕と思えるが、それにはヘンダーの功績が大きい。


「そこ、下がる。そこはもっと詰めて! あ、予備動作来た、構えて!」


この日のために手持ち資料を何度も見て星喰らいのパターンを覚えてきただろうヘンダーの指示は的確だ。そのヘンダーの指揮の下、攻め時と退き際をコントロール出来ているお陰で今所(最初の以来は)事故は防げている。


さて、そんなこんなでどうにかぎりぎり距離を確保してリジェネ分よりかは削れてるわけだけど……こっちの体力だって無限じゃないしイベント終了までという時間制限もある。このままだとジリ貧で実質負けだ。


「本当にどうするんだヘンダー」

「みんな星喰らいの動きに慣れてきたし、頃合いかな……ね、後輩くん。星喰らいの弱点ってなんだと思う」

「は? なんだよこの忙しい時に!」

「それはね……単一属性であること!」


そう言いつつ、ヘンダーがいつの間にか生成した炎の竜巻を星喰らいにぶつける。


「やっぱりあの星座の集合体は星属性の塊で出来てる。なら、複合属性をぶつけるだけで……ほら!」

「#%*&@$%¥*&%@~ッッ!?」

「おお、相当削れた!」

「単一は複合属性には敵わない。それは星属性でも変わらないってこと」


星喰らいはHP表示までデカいので意外と体力変化が分かりやすい。比率的に1、2ミリの差でも小さいこっち目線ではかなりの長さがあるからだ。


お陰でヘンダーが撃った火災旋風っぽい魔法で星喰らいが今までにない大ダメージを負ったのが丸わかりだ。


それに複合属性が当たった箇所は身体自体が簡単に欠損するようで見かけ上のダメージもよく分かる。


見た限り、2属性混ぜるだけで通常の攻撃より2、3倍……いや、もしかすると以上効いてる。


「でも俺複合なんてそんなに使えないんだが……」

「ふふふ、そこも抜かりはなし。これを見たまえよ、後輩くん」

「こ、これは……!」

「魔石があると光属性は一応は扱えるからね」


ヘンダーが取り出したそれを見た俺は驚きで目を見張る。


消滅属性魔石を控えめにしたような2色1体の魔石……間違いない土と光の複合属性の魔石だった。


そうか、4属性複合の消滅属性が作れるんだ。それより少ない数の複合属性を作れない道理はない。


精霊術と錬金術の融合は計り知れない可能性を秘めていると、俺はこの時に確信した。


「融合する一番の手間はそこにいる精霊たちが肩代わりしてくれるよ。思いっ切りやったれ後輩くん!」

「おう!」

「きゅ!」


それからヘンダーは精霊術で、ヨグは自作の属性合成弾で、俺そしてファストは複合魔石でそれぞれ星喰らいへと挑む。


―― そこからの戦局は熾烈を極めた。


ヨグの合成弾は、仕組み自体はシンプル。弾頭に同比率の魔石を加工したものを詰めて爆裂させる、それだけだ。

後に聞いた話だと2属性が混じっている、という以外はなんのメリットもないものでこういう時でもない使わない欠陥品だそうだ。


アガフェルは戦闘が始まってから常に敵、味方双方の視線を意識しなら『運技・神楽』を切らさずいる。かなり長引いているレイド戦の最中、少しの息継ぎだけで舞い続けているアガフェルには正直驚愕した。どんな体力お化けだよ、ほんとこいつは底が知れねー。


ヘンダーは『精霊術』をフル稼働して何十もの魔法を精霊に撃たせては本人は魔石なりポーションなりでリソース確保に専念している。

今さら考えるとヘンダーのやつ1から10まで戦闘はスキル頼りねーか! そんなばっかしてるからβ版組のくせに俺とPSがどっこいどっこいなんだよ。


怪人の巣ヴィランズ』はあれから迂闊に前に出たりはせず、ヨグから齎された武装類で足止めと牽制に専念しているって感じだ。特に蛙怪人、スリップフロックがタンクとして優秀で大ぶりの技は例の『大滑』スキルですべて叩き落している。

お陰であれ以降の死亡数はゼロに抑えられている。


星喰らいの奇怪な巨体を囲み、色とりどりの魔法と爆薬の轟音が絶えず響き渡るそこはまさに怪獣映画のワンシーン。


で、そんな中俺らはと言うと……。


「らぁ! 次の光熱石いくぞ!」

「きゅ!」


石に光を閉じ込め光熱で真っ赤なった石を投げるという凄まじく地味な作業をしている。


だって咄嗟にいいのが思い付かったし。あってもいきなり難しいのとか使えないし。


ファストも出力なら俺を遥かに上回るが、魔法制御はそのものは流石に本職の俺よりは拙いしで、もうね……こんな適当な名前のやつで限界だったんだや。


ちなみに『神獣化』をしない理由はそれだとデカくなったファストだけがいい的になるからだ。変身してもファストにメインタンクを張れる耐久力はないから、今回『神獣化』は封印かもしれない


とは言え、俺は『スターリング』で、ファストは自慢の蹴りでそれを飛ばしているので結構な射程とダメージは出て貢献はしている。


ただそれでも間に合わず接近されかけることは何度かある。そんな時は……。


「くっ、もうだめか! みんな離れろっ! 今度は俺が逝く!」

「自爆だ! 退避ー!」


戦うリソースが尽きたか、疲労に限界が来た怪人たちが無謀にも前へと飛び出す。


「ヒャッハー! きたねー花火を食らえやオラァー!!」

「$#%@#*!*%$%――――ツ!?!」


当然打ち払いにくる星喰らいにまたさっきの再現になるかといったところで、前に出た怪人たちが一斉に爆発する。


それに怯んだ星喰らいが奇声じめた悲鳴を上げて後ずさる。見た目も派手で地面にクレーターを作る大火力なのでさもありなんだ。


「怪人たちはみんなノリノリで自爆していくな。ってかなんか手慣れてない?」

「ふははは! 死して爆発は怪人の花であるからな。当然、我らクランのモノは全員自爆機能は完備している!」


それ散り際のやつじゃん。負けた時の備えまでしてるとは筋金入りだ。


方向性は違えど同じ悪役ヒールプレイ、真似は出来んがこの精神見習うべきものがある。


と、俺が妙な感心を抱いているとついに星喰らいに変化が訪れた。


「残りHPバー8割、パターン変化来るよ!」

「早くないか!?」

「超大型レイドボスから皆こうだから、覚えといて! 今はとにかく防御を固めて――」


ヘンダーがそう指示を出そうとした時、星喰らいの身体からブォーン!、と凄まじい風切り音が轟く。


「なんだこの音!?」

「わかんねーけど、なんかやべー! 止めるぞ!」

「撃て撃て!」


その音のせいで指示が届かなかったせいか、驚いた怪人の一部が反射で攻撃した。が、その攻撃の軌道が何かに攫われたように逸れていく。


俺の目には強風にでも攫われたように見えてたが、いったい……。


「ヘンダー、今のはなんだ」

「風の膜? こんな技、記憶にない……どうなってるの」

「ヘンダー?」


俺の質問にも反応せず困惑するヘンダーを他所に、星喰らいはさらなる変容を遂げていく。


意味もなく引かれた線と点で構成された空虚な身体へ突然肉が……いや、そのものが溢れ全身を覆っていく。


それを皮切りに産まれた大地に河川が湧き出て、水を吸っては草花が茂り、挙句には大地が隆起しては溶岩と灼熱を吹き荒れる。


その姿はまるで島の……というよりもケモノの形をした世界の誕生。


変容が終わった頃には星喰らいはもはや小さな世界とでも言うべき姿へと変わっていた。


「なん、だ……あれ」

「ごめん、私にも分からない。本当にどういうこと……」


おそらくβ版時代から調べ、星喰らいのケモノについてもっとも詳しいヘンダーが未知の変化に瞠目する。


「それにここに来て未知の形態。はっ、まさか……っ!」


そして何かに気付いたヘンダーは即座に複数の魔法を放ち、星喰らいへと浴びせていく。


「&*$#%&$*#――!」


だが、驚くべきことに星喰らいはこれらをすべてしてきた。


火には火を、水には水を、土には土を、風には風をぶつけては容赦なく魔法消し去っていく。


「魔法へのオートカウンター!? あんなこと、星喰らいのケモノは出来なかったはず……やっぱり」


全身をぶるぶると震わせ、何かを溜め込むようにしてたかと思えば……。


「のわあああぁあああーッッ!! あのくそ運営、サイレント修正したなァ!」


……次にはヘンダーの憎悪のこもった声がピリピリと大気を震わせた。



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