第215話 本戦ー最終日・終わりに凶星は昇る その4

星喰らいのケモノが驚異の形態変化を遂げてから、既に結構な時間が流れた。


「くっ、厄介な……というか、私と相性悪すぎない!?」

「無駄口叩いてないでもっと撃て! 反撃が来たらこっちが持たない!」

「分かってる!」


星喰らいのオートガードは本当に厄介でこちらの遠距離攻撃のほとんどが無力化されていた。


魔法は先刻通り属性合わせのオートガードを放ち相殺し、矢玉や銃弾などの物理は星喰らいが今も絶え間なく生成される質量に阻まれている。


だからって亀みたく籠もっているわけでもなく、こっちが逃げに徹したり防御を固めたりして攻勢を緩めるとオートガードに起きた現象が攻撃用に変容される。


具体的には身震い岩を落としたり、火口で特大の炎を吹きかけてきたり、湧き水を飛ばして水鉄砲にしたりと様々だ。


そのせいでさっきからまともなダメージが通らず、でも反撃を止めるわけにもいかずに無為に疲れる時間だけが過ぎていく。


ただ悪い報せばかりなわけでもない。


「あの形態になってからHP再生が止まってないか?」

「モノを生み出すのにその分の力を使ってる、ってことなんじゃない? まあ、これも“前の変化”はそうだったてだけで確実じゃないけど」


本来ならヘンダーは前の星喰らいの情報を元に攻略法を練っていたらしい。


「まさか、一度大々的に公開されたものをここまで大胆に改変してくるとはね。多少の誤差は承知の上だったけど、これはキツい」

「おい、大丈夫なんだろうな」

「……なーに、大丈夫だよ。こんな時も対応するためのクランだからさ」


ヘンダーがそう言った直後、爆音が鳴り響き星喰らいが奇怪な悲鳴を上げた。


「%@&*&$%@@$*~!?」


上空に浮かぶ鈍色の機影から乱暴だが頼もしい声が降りる。


「うっしゃ! やっぱそうか。おい、クソババア! こいつ防御する属性を瞬時に変えることまでは出来ねーぞ!」

「そっか! じゃあ少し時間差を置いて……こう!」

「%@&%@$@%ーッ!?」


火属性の火球が飛んだ後、それを追う形で土属性が土槍が飛ぶ。


水属性のオートガードは火球を防御し、すかさずに入って来た土槍がそれをあっさり突破する。それは確かに命中し星喰らいの身を削り取った。


「見たな、防御させた後にその弱点で攻めろ! 単一属性しかないモノはツーマンセルで誘発と攻撃役に分担せよ!」

「「おうッ!」」


ただ、その方法だと俺がちょっと困る。俺は道削ぎで適正を減らしたので使える属性が限られる。


一応3属性あるが俺のだと星属性は直接攻撃にならず、光属性単体での攻撃が接近用しかない。協力する友達もない。


ヨグもヘンダーもひとりでやらせた方が絶対に結果が出るタイプだからな。ファストも……その戦術だと俺が足を引っ張る、圧倒的に反応速度で負けるから。


俺がちょっと悲しい気持ちで突っ立ていると、何かを察したアガフェルがいつの間にか寄ってきていた。


「なるほどですわ。ボス……少しこちらへ」

「なんだアガフェル。置物と化した俺を笑いにでも来たか」

「そんな暇じゃありませんわ。星の輪っかにこれを。エンチャント:ファイヤー」

「おお! 魔法にエンチャント!?」

「少しコツは要りますが妾、こういうことも出来るのですわよ」


エンチャントにこんな使い方あるなんて知らなかった。武器とかに一時的に属性を付与するとか効いたことあるけど、まさか魔法でも出来るなんて。


……いや、これは『スターリング』内の魔法が超単純なのと俺の魔力と干渉を起こさせないアガフェルの器量あってだな。


これが普通と思っては痛い目に遭う、うちのメンバーを常人と同じと見てはいけない。俺はヨグとの付き合いの過程でそれを学んだ。


とにかくこれで俺も攻撃に参加出来る。


「よし、チャージ溜まったね。大技行くよ!」


ヘンダーがいつもデフォで着ている鎧の逆境鎧『リベンジ』。


そのスキル『逆境超克』の効果でうちの眷属ペストが齎して状態異常をコツコツと吸収してた成果が赤いオーラとして表れていた。


「おっし! こっちはガード誘導に集中、絶対に当てさせるぞ!」

「「了解」」


それに合わせ、『戯人衆ロキ』総出で念には念を入れ4属性すべてのガードを誘発させる。


全削平定フル・デリート咆哮ロアー!」


直後、いつもの動作で不懐の大剣へと力を集めて、これまでに絶対防御不能を貫いた必殺技が放たれる。


だが、この時はまだ誰もが気付かなかった。


この形態の星喰らいのケモノはある条件を満たした時にヘイトとルーティンを無視し、それに真っ先に対処するということを。


「あ」


俺たちの攻撃への防御がすべてキャンセルされ、星喰らいは消滅属性が迫る方へとぐるん、と首を回す。


それに気付いたヘンダーが声を漏らした瞬間には星喰らいの行動は終わっていた。


星喰らいが持つ属性魔力が瞬時に集いブレスの形となり、やつの口から放たれる。


最速最短で行われる―― 消滅属性への最優先カウンターアタック。


何重にも強化されたはずのヘンダーの攻撃も、さしずめレイドボスと真っ向勝負は力負けするしかなく……。


ヘンダーはあっさりと消滅した。


「んな!?」

「おい、嘘だろ!」

「ッ……皆さん落ち着くのですわ! 今のはどう見ても特殊行動、ヘンダーが戻るまで今まで通りして時間稼ぎを!」


今まで全体の指揮を執っていたヘンダーの唐突する死にレイドパーティー全体に動揺が走るもアガフェルの神速な対応でどうにか前線崩壊は免れた。


もしかすると事前にヘンダーから非常時の対処を言い渡されていたのかもしれない。


ヘンダーとは特に仲が良いし、常に注目は集める彼女に適任の役割でもあるだろうからありそうな話だ。


アガフェルに臨時の総指揮が移って暫く経ったあと。今まで教えられた行動パターンを何とかなぞりながら、どうにか耐えていた俺たちの前に苛ついた様子のヘンダーが現れた


「あー、やられたッ!」

「ヘンダー!? やっと復活したのか、よかった……」

「よくない。今ので天賦装備ギフトウェポンが封じれた!」

「え?」

「くっそー、よりによって戦士ジョブを盗りよってからに。ツイてないな、もう……」


なお、この時はまだ知る由もないことだが……星喰らいの星失にはある特性があった。


それは星の加護が強いものから順に封じるというもの。ヘンダーの持つものの中で天賦装備ギフトウェポンがもっとも加護を内包していたというわけだ。


とにかく、俺はそのせいで憤然たる様子と思ったヘンダーをなだめすかすつもりだったのだが……


「星喰らいにやられて悔しいのは分かるが……」

「そっちじゃない、運営の話!」

「え、どういうこと?」

「どういうこともないも、サイレントだけで飽き足らず、完全に私を狙い撃ってのピンポイント修正したんだよ。ふ、ふふふ……ほんっとやってくれたねーッ!」


……そこから漏れたのはただの愚痴ではなく、そんな衝撃的な事実なのだった。





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