第216話 本戦ー最終日・終わりに凶星は昇る その5

復活したヘンダーだったが、その戦力は今悲惨なまでに落ちていた。


「うぅーっ! ぷはぁ! やっぱ駄目だ、戦士ジョブなしでこんな大剣使えないよ」

「ええ、マジかよ……」


星喰らいの能力、星失によりヘンダーは戦士ジョブを失った。


天賦装備ギフトウェポンたる大剣を持ち上げようとしたヘンダーだったが、刃先を数ミリ上げるのが限界な有様だ。


「いやー……恨まれるとは思ってたけど、ここまで露骨に対策してくるのは予想外だな。これは前から用意されてたやつだよ」

「いつの間にそんな……」

「恐らく、私のプレイデータを見ながらちょくちょく。と言ったところだろうね。今考えると星喰らいに執着してたのもよくなかったんだろうなー」


例のダンジョンマスタージョブ削除での件で揉めて相当エグい交渉したとは聞いていたけど……いったい何をすれば狙い撃ち修正なんて掛かるんだよ。


割りと好き勝手してる俺でさえ、明らかなホーム機能悪用の時以来はなかったぞそんなの。


「それより、どうにかなるんだよな!」

「…………ごめん、さっきの通り正直もう私は戦力にならないかも! 魔導騎士マジックナイト食われたんじゃ私ただの運動音痴でしかないから。消滅属性も、この剣がないと危ないてまともに使えないし」

「ええ!? それ超困るんだけど!」


何だかんだ言って、うちのクラン最大火力は間違いなくヘンダーだ。


レイドボス戦でそれが使えないんじゃかなり困る。


と、俺たちがワタワタとしている時に……それは響いてきた。


《イベント参加、観覧中の皆様おに知らせです》


《只今より条件を満たしたことによる追加ルールをご説明いたします》


「「は?」」


突然のことに理解が追いつかない俺たちなど置き去りして衝撃的なアナウンスが続く。幸いこと時不思議と星喰らいの攻撃が止まり、こっちも攻撃出来なくなっていたがそんなこと些細な問題だった。


《超大型レイドボス:星喰らいのケモノのに従って、新勢力として星蝕陣営が戦線に加わります》


《新勢力は他のクランと同じルールの元に参加クランと敵対します》


《最後に新勢力の奪取ポイント関連にはプラス補正が掛かっており、奪う、奪われる両方に数値が大きく変動します》


《繰り返すます……》


これってつまり今星喰らいに負けたらイベント成績にも大損害ってこと、だよな……。


「んだよそれ。後出しでそんなありかよ!」

「いや、うん……これは何とも言えないね。特に私達としては」

「な、何でだよ! こんなの大々的に抗議すれば……」

「だって最初強引にジャンルを変えたの私なんだよ。これに今更文句言っても誰も聞く耳を持たない。うちら悪役ヒール張ってるしで尚更……」

「ああ!」


運営が1プレイヤーに対しての後出しに狙い撃ちの修正に、イベント真っ最中での意図的なルール改変。


普通なら運営が徹底糾弾されネット炎上必至の横暴だが……先にイベントを荒らしてのははっきり言ってこっちだ。


ただヒールプレイやってただけならまだ良かったが、こっちの印象を悪くしてはこのレイド騒ぎだ。


この手のサプライズが展開が好きな人たちもいようが、不満を溜めてる層も多いことだろう。


その上“今のヘンダー”が大勢に戦術を見せたのは、前の俺との戦いとこのイベントでの2回。狙い撃ちした、と確信を抱くだけの情報はその他大勢にはない。


ましてや星喰らいを狙ってる個人の事情とか、運営がそこに目をつけていたとか知る由もない。


事実はどうあれ、民心があっち側にある以上どうとでも言い訳がつく。


「ポイントを奪取された時の予想レートは……ああ、ダメだね。5位までは確定かな。残ったポイントでは高いのも買えないや」


そういうヘンダーの声にはやるせなさと諦観がにじみ出ていた。


この状況がまずいのは、俺でも分かる。


正直ヘンダーの知識を当てに出来ない状態での星喰らい戦は危険過ぎる、だって状態異常の星失は蓄積すれば1、2日では抜けなくなるのだから。


今からでも棄権なりなんりしてイベントマップから脱出するべきだろう。恐らくヘンダーも万一それが出来るからここで星喰らいと戦うことにしただろう。


実際に現在運営のアナウンスが止み再び動き出した星喰らいのとの戦闘はすでにこっちが押され始めていた。唐突な動揺とプレッシャーに指揮官の戦意喪失でこちら戦線は浮足立っているのだ。


きっとここでは被害を最小限にしつつ時間切れ逃げる。それもっとも正しい選択だ。


でも、俺は……。


「クランのイメージ戦略ももう十分だし、これで――」

「なーにひとりで勝手に萎えてんだ。まだ何も終わってねーぞ」

「え、いやだって……」

「魔法はまだ撃ってんだろが! 自分でやらかしたんならせめて最後まで責任もって戦えや、この性悪魔王が」

「って、え、ちょ!?」


それじゃ納得がいかない。


「いいか、あんたが諦めても俺はやるし、あんたも引っ張りだして戦わせる」

「いや、なんで!? だって私もう……」

「うるせっ、ゲームで自己満足してるのに理屈なんじゃあるかボケが! お前が、他でもないヘンダー・ケルがで情けない面晒してるのにむかっ腹が立つ。だから無理矢理でも立たせる、それだけだ」


いつになく口調を粗くしながら、渦巻く感情を吐き出す。


ああ、そうか。俺は今こいつの態度に腹が立っているんだ。


そもそもが人を散々小馬鹿にしてここまで引っ張り回してきて、いざなったら真っ先に諦めるだ? 


させるか、そんなもん。


いつもいつもいつも、人の心をかき回しておいて肝心な時にだけ逃げさせてたまるかってんだ。


「ぷふっ、くくふっ……なにそれー」

「な、おま……なにも笑うことないだろう!?」

「あははは、ごめん。後輩くんがあまりも真剣に言うものだからつい」


ひとしきり笑って、


その顔にさっきまで諦めきった雰囲気は薄れていた。


「それでやんのか、やんないのかどっちだ!」

「はぁ……しょうがないなー。イタイケな後輩にこんな列熱に泣きつかれてはおねーさんとしは一肌脱ぐしかないね」

「言ってろ、ネナベババアが」

「口が減らないな、この生意気小僧め」

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