第217話 本戦ー最終日・終わりに凶星は昇る その6

今も他の人たちが必死に星喰らいを相手取っている中、俺とヘンダーは決意も新たに戦場に向き直ったのだが……。


「それで、具体的な作戦はあるの」

「ない!」

「おいこら」


偉そうなことは言った俺がノープランと知るやすかさず突っ込んできたヘンダー。


すっかり調子が戻ったようでなによりだ。


「けど、ひとつ試したいことはある。ただ……それには俺が星喰らいに近付く必要がある」

「後輩くんが、あの怪物に?」

「うん」

「いや無理でしょう」


言いたいことは分かる。


怪人たちが瞬殺された前例を見ても分かる通り、星喰らいの接近戦性能はその巨体も相まって桁違いだ。


今までは徹底的に距離をとってきたから何とかなったが、近くで戦ったら普通に重力操作の魔法と巨体のコンボでペチャンコにされてお終いだろう。


「つってもやる以外にもうないぞ」

「はぁー。こういう無茶に付き合うのガラじゃないんだけどなー」

「あはは! あんまそう言うな。それにしぶとく食らいつくと意外と何とかなるもんだぞ。それは俺が保証する」

「ふふっ、馴れてるもんは言うことが違うね」


決意を固め、踏み出した俺に黒と銀色が混ざった影が遮る。


「きゅう!」

「ファスト、ってなんだその姿!」


見ると『神獣化』を小さいバージョンの姿にしたファストが俺のそばに来ては背を屈めていた。


前の巨獣バージョンも良かったけど、こっちもスマートなフォルムで格好いい!


俺が感動の示しと夜光の衣の黒と混ざり不思議に揺らめく耳を撫でていると、ファストは目を細めながらも顎をぐいぐいと自分の背中をアピールしていた。


「まさか背に乗れってことか」

「きゅきゅっ!」

「なら遠慮なく。おお、想像以上のフィット感!」


促されるままに乗ってみると、ファストが纏う夜光の衣が瞬時に俺の身体に合わせて変形してくれた。


なるほど、今ので察しが付いた。ファストの変容は前より『神獣化』の力を操れるようになったお陰なんだな。


逆に言うとモルダードとの戦いがここまで成長しないといけない激闘だった証。記録はあるだろうし、後でじっくり眷属の勇姿を見届けなくてはな。


と、思考が明後日に飛んでいたらそこでヘンダーが近づいてきた。


「知ってる動きが来たら私が指示するからその通り動いて。知らないのは……臨機応変に!」

「はいはい、自分らでどうしろってことな。了解!」

「きゅ!」

「というわけで、私も乗せて」


おっさんアバターの図体に似合わない媚びた声で頼むヘンダーにファストは鼻を鳴らしたかと思うと……。


「ふへ?」


耳部分の衣を変形しヘンダーの両腕に巻き付けた。


あ、これはもしかして。


「どわあああー!? み、水の精霊よ、覆え!」


……ファストは走り出しヘンダーが投げ出された後だった。


幸い咄嗟にヘンダーは直後に水の膜を足に纏わり付かせ衝撃を吸収、その後スライドすることで事なきを得ていた。


「危なっ! ちょ、普通に乗せてファストちゃん!?」

「きゅ」

「やだ、だってさ」

「ファストちゃん私に厳しすぎでしょぉぉおー!」


俺が端的にファストの返事を告げると精霊任せの魔法で何とかしがみついているヘンダーから悲鳴が上がる。


ファストは前にやられた以降から未だにヘンダーが嫌いらしい。


うちの子は想像以上に根に持つタイプだったようだ。


「ははは! やべー。これは爽快だ!」

「君はそうだろうねッ!!」


普段ファストが見てる世界を、一体となって駆けている。


スピードなんじゃ俺が飛ぶときの比にもならないほど速い。


目に映る景色が線となって流れる光景はまるで俺たち以外は置き去りしてきたようで、何だかとっても幻想的に見えた。


なお、後ろで何か恨み言がっぽいのが聞こえる気がするが……うん気のせいだな!


「こんにゃろー自分だけ……ッ! 避けて、右!」

「きゅ!」


星喰らいの色んなものを巻き付けて変化前より色んなモノを纏い肥大した爪が大地を抉りながら降りてくる。


それを気付いたヘンダーの指示を受けたファストが即回避行動を取りそれを躱す。個人感情はともかく、連携には問題ないようで何よりだ。


「このまま突っ切るぞ!」

「きゅ!」

「ええい、こうなりゃやってやる!」


1名やけくそ気味ながらも俺たちは星喰らいへとどんどん接近していく。その間何度もやつの爪が襲ってくるがファストの速さに翻弄され掠りもしない。


お陰で意外と容易にかなり近くまでくることが出来た。


だがここからが星喰らいのケモノの本領だというように、これまで以上の猛威を振るってくる。


早速、身体に掛かる負荷が増し今まで軽快に走っていたファストのスピードが落ちる。


「今度は魔法、星属性の重力操作か!」

「ど、どうするの。私重力操作までは無理だよ!」

「分かってる、これは俺に任せろ」


俺は星属性の魔法を全開にし、星喰らいの魔法へとぶつけた。


「この、散れッ!」


裂帛の気合いとともに不自然にのしかかっていた重さが霧散する。


「思った、通り! 補正はこっちが上だな!」


属性魔法というのは補正の影響がかなり大きい分野だ。1段階補正に差があるだけでかなり効率、出力、操作性とあらゆる面で差がつく。


俺の星属性(正確には星への魔法干渉力)の補正が小だから、星喰らいは極小といったところか。


何というか最初見た時から規模のわりに練度が甘いというか、使い方が雑だったのでもしやと思ったら的中だった。


「はぁ、はぁ……。まあ、魔力はごっそり持ってかれたけど」


それでも流石のレイドボス、数値の暴力は半端じゃない。相手のジャブ程度の魔法を防ぐのにこっちはMPがカラまでいった。


ヘンダーが物資はバッチリ用意しているので補給は出来る。他に手もないし星属性はこれで凌ぐしかない。


で、星属性は俺が対処することで問題ないが


「@$&%#@*&@*%~~ッ!!」


星喰らいが唐突が叫び、癇癪を起こしたように暴れだす。すると今まで謎の力で身に纏っていたモノが細々と落下を始めた。


ただ“細々”と言ってもそれは星喰らいの巨体準拠での話。こっちからしたら高空から大質量の物体が雨あられと降り注ぐ地獄絵図だ。


「属性系範囲攻撃!? さっきより数が多いし範囲もデカい!」

「っち、しょうがないね! 精霊よ――」


火のついた大岩、瓦礫混ざり水流、火炎を飲んだ暴風と……先程の比ではない規模のまさに天変地異が降ってくる。


それに対し早口で命令文を並べ立てたヘンダーから消滅の極彩色が噴き出す。


それらは今殺到していた星喰らいの属性攻撃をすべて消し去るが……


「うわー……大分持ってかれた。一点物のリベンジから鎧変えといてよかったよ」

「大丈夫か、それ!?」


……それに伴い指の一部が鎧ごとこっそり欠けたヘンダーに思わず安否を確認する。


魔法は遠くから構築するのは難しい。


特殊なスキルや深い集中がないと精々数メートルで構築、形成させるのがやっとだ。だから大抵の人は目前や体内から魔力を構築して魔法を放つ。


どんなものでも関係なく消しさる消滅属性でそんなことしたらどうなるか?


そうじゃなくても治してずらい消滅属性の巻き添えを喰らう。これが、他のプレイヤーたちがあまり消滅属性を使わない理由だ。


「精霊に複雑命令出してる暇もないし、これでいくしかないよ後輩くん」

「そうか……ファスト急ぐぞ。ヘンダーが穴だらけのチーズみたくなる前に!」

「きゅう!」

「君たちほんと私へと扱い酷すぎない!?」


緊張を解すために戯れる余裕があったのもそこまでだった。


なにせ星喰らいは近付くば近付くほどに攻撃の頻度も規模も増すのだ。


それを時に掻い潜り、時に迎え撃ち、身を削りながらの行進は想像より精神をすり減らす。


1手誤れば即ゲームオーバーのスリルを何十回、来た道がぐちゃぐちゃになるまで続けて10分ほど経過し……やっと俺たちは星喰らいの足元へたどり着いていた。


「もう、少し……」


すでにファストの息が上がり、俺のリソースも目減りし、ヘンダーも3分の1ほど身体が溶けた。


だが、ここじゃまだ足りない。


俺の考えを実行するには出来ればやつの中心近く、それも胴体の底辺りが望ましい。


というかそこを突き抜けて体内に侵入するのが一番確実だ、だから。


「ここで飛ぶ! ファスト!」

「きゅっ!」


『フライ』で飛翔した俺の足裏に、最大限に夜光の衣を圧縮した蹴り足を添えるファスト。


「そういうこと、なら私も!」


ヘンダーもこっちの意図を察したのか、風の魔法を精霊に使わせ俺に纏わりつかせる。


それら力が俺の『フライ』後押しし……ゴゥッ! と空気を劈く音を残し俺の身体が発射された。


ちょっとしかビルほどの高さを一瞬で昇る。このまま後数秒で届くいう場面。


が、星喰らいもここで本気を出してきた。


火、石、水、風それに星の重力……あらゆる属性が混沌と絡み合うあって数百、いやもしかすると千という数の攻撃が俺に向かってき始めた。


初手の事故でも分かる通り星喰らいは近いプレイヤーへと強制的にヘイトが向く。ヘイトが完全に俺に向いたのか、他のプレイヤーへ攻撃する分までこっちに向けて集約しているようだ。


先頭の火の渦が『リジェクトシールド』に弾かれるも、それを押し流す勢いで後続の様々な攻撃が殺到し光の障壁を叩き潰す。


その度張り直して耐える……が、攻撃が途切れる気配はない。これじゃいくら『リジェクトシールド』を張っても間に合わない。


重力増加も同じく重力を扱う『フライ』で弾いているが何時までもつか。


「く、そが!」

「ふははー! 我ら参・上!」

「えっ?!」


そう思い、いよいよこっちの底が見え始めたその時だ。


ゴキブリ怪人にぶら下がった蛙と悪魔……ボティスとスリップフロッグが俺の側にまで来ていた。


「『大滑』っ!」


そのまま前方へと躍り出たスリップフロッグが張り手を連続で突き出し、スキルの力を乗せて正面から攻撃をそらしていく。岩も火も水も風も関係なく天災を掻き分ける様は圧巻の一言だ。


「いつの間に……」

「ないやら企んでる主らを見てな。もしものために『霧隠』で姿を隠しこっそり付いてきていたのだ」

「はは、そうか……ナイスタイミングだ!」


これで助かった、と思う間もなく星喰らいは次の手を打ってきた。


ある一定距離に来た瞬間今までは大雑把にこっちへと集められていた各種攻撃が、突然挙動を変えた。縦横無尽に飛び回る属性攻撃が整然と俺たちを取り囲みだしたのだ。


「何だ、これ!?」

「そうか、間近だから制御力が上がって……!」

「おいおい、全方向は俺様でも無理だぞ!」


今度こそ万事休すかとなった時。不意に、見覚えのある金色の揺れが視界に飛び込む。


途端、俺たちを正確に狙って属性攻撃群は不自然な軌道で外れたり、お互い追突を始める。


「まったく。世話が焼けますわね」

「アガフェル!」


恐らくにボティスと同じく妖術スキルで身を隠していたアガフェルが呆れた、でもそれ以上に得意げな顔で現れていた。


ただ、アガフェルが空を飛ぶために乗っかるのって確かヨグのファンネル的なやつのひとつじゃ……。


「テメェ! 人の機体からだを足場してんじゃねぇ!」

「ああ、やっぱり! ヨグも来たのか」


噂をすればなんとやら、ヨグまでもこちらへ。


「成り行きだが、来てやったぜ。せっかくだ、こっからどうするんだボス!」

「ちょうどいいとこに来た。皆のお陰であと少しだ、俺は星喰らいの体内へと突入する! 道を開けろ!」

「へっ、了解だ。ボス」


俺の答えにニヒルな笑みを浮かべたヨグが空中で身体を変形し、巨大な砲身を構築する。


「貫通特化型多重式徹甲弾、セット。一発しかないとっておきだ、無駄にすんねーぞ」


そこに弾かれるように特大サイズの砲弾が装填され、間を置かずに発砲。


「あれの後を追え!」

「わかった!」


今まで間近で見たヨグの技術に最大の信頼を寄せてその指示に考える間もなく飛び出し、俺の倍はある砲弾に追従する。


暫くは星喰らいの攻撃を薙ぎ払い突き進む砲弾だったが、圧倒的物量を前にすぐに減速。


が、その直後に砲弾から何故か砲声が鳴る


外殻がパージし、散ったパーツが爆発を起こす。


その煙が晴れて見た前方には別の一回り小さな砲弾が飛翔していた。


「マトリョシカかよ」


あれでよく内部爆発とか起きないもんだ、と思った時偶然残骸の一部が目についた。


「ああ、これ俺に外注したパーツ!」


大小様々な鉄板に圧縮から膨張に切り替わる魔法陣をひたすら書かされたのでよく覚えている。はは、なるほどこれなら確かに爆発しないし、そう簡単に機能消失も起こさない。


「こりゃますます失敗出来ねーな!」


まともな勝ち目が消えた時から、俺の行動はただの餓鬼の我儘だ。


それをこんなところまで付いて来てはお節介を焼いてさ……


「まったく、最高の馬鹿どもだよ。あんたら」


俺が決意を新たにしていると、ついに着弾した弾が今度は大爆発した。それも星喰らいの奥に向けて連鎖的にだ。


恐らく刺さった弾がそのまま内蔵した次弾を発射して奥へ奥へと押し入ってせいであろう。確かにこれは“貫通特化”だな。


そしてその爆発が10を超えた辺りだろうか、ついに星喰らいの土手っ腹に大穴開いた。


「「行っけ――――ツ!!」」


声援とも怒号ともつかない声に押されるようにして、俺は星喰らいの中へと突入したのだった。


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