第218話 本戦ー最終日・終わりに凶星は昇る その7

※追記

予約投稿の時間を間違えました。

眠い状態で弄ってたので8時を18時と間違えたみたいです。これからも通常は18時投稿ですので混乱の無きようここに訂正しときますm(_ _)m

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皆の協力のお陰で何とか星喰らいの腹の中に突入した俺はまず辺りを見渡した。


「ここが、星喰らい中か」


第1形態で見た通り上下左右、全方向が巨大な星と星座の線で構成された空間。俺は今その中を漂っていた。


「変な空間だな」


身体を構成する星座に実体はない。だが、何かの力……恐らくひとつひとつに微細な重力が発生しているのか『フライ』が制御し辛い。


「これが根本原理がファストの『神獣化』と同じだとすれば…………あ、あった!」


それは言うなれば星喰らいという小さな宇宙の一番星。


「あれが恐らく核……ううん、正確には星喰らいそのものなんだ」


試しに『スターリング』を撃ってみる。が、周りの星の重力が邪魔で何度やっても真っ直ぐ飛ばない。


特に核(紛らわしいので便宜上は核と呼ぶ)の周りは特に強い重力場が守ってらしく、遠距離攻撃は掠る気配もない。


ならばと接近を試みたのだが……。


「あっつッ!? 今のHP半分逝った、太陽かよ。これ以上近付くのは無理だな」


かなりの熱とHP減少を感じ、ぱっと後退する。あれ自体は超高エネルギーの塊で常に俺など一瞬で丸焦げに出来る高熱を発してるようだ。


あれを直接どうにか出来れば楽に済むかと思ったけど、やっぱそんな甘くないか。


「寄り道ここまでにして、本命といくか」


前に魚人族の戦士フォルに聞いた神話では、神は最初無から生まれて星の力を通して世界を作り上げていったと語っていた。


それが事実なら、分類上同じ神である星喰らいとて例外ではないはずだ。


最初の出現した時に見た、あの星座めいた身体構造が分類上は“星”なんだとしたら……俺の魔法で出来る。


魔力を解放し、星喰らいへといつか空に向かってしたように干渉を行う。


「やっぱり、こいつの身体は星そのものでもあるんだ」


それに分かる。星喰らいに宿る莫大な加護の情報が。


俺ごときの脳ミソじゃとても読み切れない、膨大な情報の渦。今までに喰らった大小問わずの加護とそれの細かな利用法……それらが数千数万と雑然に伝わってくるのだ。


今情報除く俺や事前に研究してたヘンダーですら、こいつのポテンシャルの半分も理解できちゃいない。今ならそう思える。


こいつがもし強い力を本能のまままき散らす“ケモノ”ではなかったら、俺たちは相対することすら出来ずに負けていた。


内側で弱体化を狙うつもりだったが……これを好き勝手して無力化したり、ましてや操るなんて俺には出来そうもない。


「なるほど、正にバケモンだな。」


俺はそこで考えて……逆ならどうか、と思った。


「よし。いける!」


ある方法を思い付いた俺は星喰らいのある力が籠った星座の星たちに魔力を注ぎ込む。


「お、おい! なんだあれは」

「今度は眷属召喚系か。また面倒な……」


でも、それは阻害や攻撃するものではなくその逆。力を与えるように、だ。


そうなると当然その機能が活性化し、自分の強い力を本能で放つ星喰らいはそれに飛びつくように使い始める。


星喰らいの身体の至る所がどろりと溶け出し、ボコボコと泡立つ。そこから滲み出るように星喰らいと身体構成を持ったデタラメに書いた棒人間っぽいモンスターが多数出現する。


ぽとりぽとりと、星喰らいから生まれ落ちたそれら彼のものの眷属。無尽蔵に吸収してるエネルギーを使い創られた無限の兵隊だ。


それにただ数が多いだけでなく、吸収した力の一部を少しながら受け継ぎ状況に応じて臨機応変に対応出来る万能性も秘めている。実際にちらほらと最初食われた怪人の特徴やヘンダーのに似た大剣を持っている個体が見えている。


「はは、ははははーっ!」

「ヨグ殿?」

「お前は本当に面白い思い付くな! それでこそだぜ!」


―― 一方、外でその軍団見ているヨグは愉快な高笑いを上げたまま、腕を変形させていた。


それはつい今先星喰らいの腹に突入した自分たちの後輩兼新任ボスが、とんでもないことしでかしたと気付いたから。


「ひゃっはー! いっただき、万物吸牙マテリアル・ハント!」


それはいつの日か見た暴食の永久機関、その顎。


何十もの機械の牙が導線で尾を描き、星喰らいの眷属たちに突き刺さる。


「さっすが最強のバケモンの眷属どもだ! エネルギーもたんまり溜めてんなぁ!」


―― 弱体デバフが効かないなら、こっちの有利な強化バフをくれてやればいい。


何のことはない。以前に俺が自分のダンジョン8階層でやったことの応用だ。


「いい効果はレジスト出来ない。ゲームの基本常識だ、この獣畜生が」


まあ、今やってるのただバフどころではなく強制的なだがな。


星喰らいは超大型レイドボスの名に恥じず、何段階もの形態いわゆるフェーズが存在する、というのは皆知っていよう。


今やっているのは本来なら一定値のHPなど条件でのみ移行するこれを“強い力を優先して使う”星喰らいのケモノの特性を利用した星属性の術者のみに許された裏技。


補正だけでなく、大き過ぎる星喰らいからを魔法スキルの範囲内に納めるという意味でもだ。俺は下腹部ぐらいあるからそこから上の殆どを魔法スキルの範囲内に入れている。


だから俺は今都合のいいフェーズとそこで必要な能力だけを何とか抜き出し強化、表に出したとう訳だ。


「いくぜ、全武装展開フルアームド・オン


星喰らいの体内まで響く爆音と揺れが俺にまで伝わる。


それがヨグの最大火力が暴れ狂い、星喰らいを粉砕し焼き焦がし、星喰らいに風穴を開けたせいだとすぐに気付かされた。


連装リレーファイヤー!」

「%@&#%@&*@$#@――――ッッ!?!?」


前までならそれで一旦終わりだったが、今は違う。無限の眷属という無限のエネルギーを一時的にながら手に入れたヨグの砲火は止まらない。


「さあ、次いくぞ。今度はアガフェルだ」


流石は超大型レイドボスと言うべきか、星喰らいはいくつか属性範囲攻撃を持つようだ。


俺はその中で、もっともランダム性が強いある無差別広範囲連射攻撃を強化。


するとまた星喰らいは条件を満たしたと錯覚し、この攻撃を優先して使う。


今まであった火山がさらに大きく隆起し、巨大な背中を埋め尽くす。そこから急速に火山活動が始まり今までとは比にならない規模の噴火が巻き起こる。


一方、外のアガフェルは瞬時に意図を察し理想の立ち位置へと移動していた。


「ふふ、なるほどそういうことですわね。ほんと退屈しない方ですこと!」


そう言いながら心底が楽しげな笑みを浮かべたアガフェルはスキルの効果を星喰らいに集中し始める。


「いいですわ、そういうことなら遠慮なく乗っからせてもらいますわよ!」


アガフェルが『運技・神楽』を再調整するとともに最大の不幸を降ろす。


同時に星喰らいの噴火攻撃に異変が発生する。


本来周りに飛び散り破壊をまき散らすはずの噴火物は、謎の軌道を描き星喰らいだけに落ち、派手に自爆しだした。


「今だ、我らも続くぞ!」

「「おう!」」


自爆の影響はそれだけではなく、自分に落ちる噴火物を防ぐためにオートガードが実質剥がれた星喰らいに怪人たちも畳み掛ける。


「はっ、手数が減ったならこっちのもんだ。『大滑』!」

「ほっほぉ! わしももうひと踏ん張りするかのう!」


しかも一部の戦闘力トップクラスの怪人たちも攻撃手段が偏ったことで前に出れたのが大き。


特にスキルで爪攻撃を逸らして体勢を崩すスリップフロックはもちろん、素早く飛び回り全身にチクチクと銃弾をばら撒くゴキブリ怪人もなかなかのものだ。


どっちもダメージは控えめだが、かなり動きを阻害してくれている。


「ガァアアアアー!!」


そしてその隙を逃さず『神獣化』を巨獣モードに切り替えたファストが猛攻を仕掛ける三段構えだ。


今の状況でなら集中的に狙われることもなく、ファストは存分に暴れられる。


星喰らいの好きに攻撃出来ないのをいいことにファストはお得意の蹴りにのせた『滅脚』の連打、『星肺』のブレス攻撃とを順々に叩き込む。


暫く星喰らい行動を眷属召喚と噴火攻撃を切り替えながら戦っていると残りHPが半分近くまでハイペースに削ることが出来た。


「あはは! 苦しいかこの野郎! 次はお前の出番だ天眼魔石アストロ・アゲート!」

「――ッッ!?!」


ただこのままではこいつが自力でフェーズ移行しそうなので、その前にまた別のフェーズで手を打つ。


もっと先の言わば最後の足掻きみたいなこのフェーズ、これがいい。


それにはもっとも膨大なエネルギーを秘めた星……星喰らいの核らきし小太陽に干渉する必要がある。


普通の魔石じゃいくらあっても無理だが、こいつの出力ならいける。


念のために持ってきて正解だった。魔石化のデメリットが大きすぎて普通の対人戦闘メインの今回に出番はないと思っていたが、まさかこんな形で役に立つとはな。


「派手にフィナーレと行こうか」

「@%$&$@%*#%&&――!!」


俺が天眼魔石アストロ・アゲートから搾取した力で核に干渉・強化する。


同時に色とりどりの大魔力が星喰らいの頭上に溢れ、膨大なエネルギーを渦巻かせる。


「今度はなんだ!?」

「なんか大技出てきたぞ!?」


俺は度重なるダメージで丁度外に向けて空いた崩落に向けて力一杯に叫ぶ。


「ヘンダー! こいつの属性補正はお前より低い、後は分かるな!」

「! はは、そういうこと。ほんと無茶苦茶するな君は!」


4属性同時の広範囲攻撃。消滅属性こそ乗らないが、周辺を埋め尽くすタイプで逃げ場はなし防御困難の大技。


通常なら星喰らいが追い詰められた時に出す、切り札がひとつ。


だが、魔法は大技であるほど制御が難しくなる。そしてヘンダーは星喰らいより高い補正と魔法制御力なら随一のスキルを持っている。


「精霊よ、空を満たす魔を攫み混ぜよ!」


ヘンダーが『精霊術』でそう命じた瞬間、その星喰らいの魔力が揺れる。


揺らぎはやがて奔流となり、一か所へと集約し収束しだす。


スキルと補正の暴力でヘンダーが星喰らいから簒奪した魔力は綺麗に整い消滅の輝きを宿す。


「―― 沈めよ!」

「@#@&$@**&@$@――ッ!!?!?」


ヘンダーの力強い言葉と同時に破滅の球体が落下する。


自分の魔法を奪われ、真下で大技使用特有の無防備を晒していた星喰らいは消滅属性の直撃を受けて苦悶の声を上げた。


「追撃だ、ここで出し尽くせ!」


ここが勝負どころだと気付いただろう。カウンターを喰らい抵抗出来ないやつにすかさず他のメンバーたちも総攻勢を仕留めに掛かる。


これなら本当に勝てるかもしれない。


が、ここで問題がひとつ。


「ああ、これ俺もやられるな」


正直、さっき核への干渉でリソースを使い果たした。天眼魔石アストロ・アゲートを使ってもまだ足りなかったんで仕方がない。それに身体は半分近く魔石化している。


つまりもう逃げる力も残っていないのに俺は爆心地に居る。


まあ、自分でやれることはやった。ならこれで倒せるならそれでも……と、俺が星喰らいと心中を決める直前だった。


「きゅうー!」

「ファスト!? 今は危な……って、うお!?」


目にも留まらぬスピードで俺の下に駆け付けて着たファストが俺の首根っこを咥えて瞬時に引き返す。


「くっ、間に合うか……!」


それでも完全に回避する遅かった。破滅の余波が俺を撫ただけで機械の脚が砕け、魔石になった腕がへし折れる。


ファストも身体に一部を削がれながら走り続けた結果……。


「あはは、ぎりぎり間に合った」

「その有様で間に合ったの。身体、胴の上と右腕以外ないじゃん」

「あの星喰らい相手だぞ。しなやすだしなやす」

「きゅう……」

「そんなわけだからファストも気にすんな」


俺を守り切れなかった思ったのか落ち込んだファストを慰めて自分の身体を見る。


脚はともかく、腕が消し飛んで出血の状態異常もないのは根元がすでに魔石になってからだ。


それがなかったスリップダメージで今頃死んでた。まさか魔石化に助けられるなんてな。


とにかくこれで俺たちの勝ち――


「おい、あれ」

「まさか」

「おいおいおい!」


総攻撃による土煙が収まると徐々にその向こうのシルエットがハッキリとなる。


煙が晴れたそこで、星喰らいはまだ生きていた。


頭らしき含め上半身が消し飛び、残った身体も纏ったモノ、星座の光含めてボロボロの満身創痍だが……確かにまだ生きてやつは徐々に再生を始めていた。


「なんて、しつけー野郎だ」

「き、きゅう……」

「あはは……流石に、私もうすっからかんだよ」

「ちっ、こっちもだ。もう弾1発補充するアテもねぇ」

「妾も、正直……疲れましたわ」

「我らにも余力はないぞ。皆物資も尽きて疲労困憊だ……それにもう時間がない」


もう数時間は立っている。その間休みなしで戦い通しだ。


ここにいるメンバー誰もが、とっくに限界を超えている。


イベント時間ももう10分もなく戦線を立て直すすべはなかった。


―― だが、そんなもん知るか。


「問題ない。止めは俺が刺す」

「後輩くん!? 流石に無理だって!」

「大丈夫だ、方法ならある」


俺は今ここでこいつを殺らないと、もう気が済まないんだよ。


だたやりたいからやりきる。今までだってそうしてきたのだから。


それにまだ勝機はある。


俺が核と呼んだ、星喰らいの本体それに今変化が起きている。


度重なる欠損で外に露出したそれは、さっきは膨大な熱を発して太陽と見紛うほど輝いていたが、今は随分とくすんでいる。


あれなら、もしかすると接近出来るかもしれない。


「残り滓でもいい。俺に残り全リソースを回せ」

「きゅうー!」

「いいぜ。ここまで来たら最後まで付き合ってやるよ」

「ふふ、仕方ない方ですこと。でも盛り上がる閉幕ですわ」

「ふーはっはっはっ! 最高だな、最高に楽しませてくれる我らの新しい長は!」

「あー、もう! 揃いも揃って……やればいいんでしょ、やれば! まったく、しくじらないでよね後輩くん」


それぞれの応えに背を押され、振り絞ったすべてを受けて取って俺は杖に突いて無理矢理に立ち上がる。


「かなり辛そうないか、バケモン」

「……――――ッ」


バランサーを壊されて、覚束ないながらも幽鬼が如く空を浮かんだ俺は、やつににじり寄る。


表情どころか目も口も定かではない星喰らいが、この時は妙に人間臭く怯えているように見えた。


「『リジェクトシールド』展開。『フライ』最大出力っ!」


再生に全リソースを注いでいるからだろう、やっとの思いで俺がやつの上空を取るまで反撃が来ることはなかった。


そのまま角度を調整し、俺は星喰らい目掛けて落ちる。


光の障壁に包まれたせいで遠目では流れ星のように見えるかもしれない。


「おうおう、熱くなってきたなぁ!」


さっき程ではないが、やつの本体に近づくにつれてかなりの熱を感じ身を焦がす。


ここで俺は防御力を上げるために減った身体を出来る限り丸め、その面積分『リジェクトシールド』を圧縮しから杖の先を星喰らいに向ける。


その杖を起点にして『ブレード』を生成する。職業装備ジョブウェポンは破壊不能、これならあの高熱の塊にもぶっ刺せる。


「はは、こうなったのもある意味僥倖だな。散々苦労させてくれたてめぇを直々に打ちのめせるからよ……ッ!」


気炎を上げ、真っ直ぐに飛び込む俺の影へと……星喰らいのひと粒から落ちた虚無が伸びる。


消滅属性とも違う破滅。射線にある光や空間さえ無へと還しそこに“何も無い”なという事実のみで認識出来る規格外の魔法。


それは星喰らいの身体たる星座を切り取って放つ捨て身の必殺技。


ここに来て俺が見逃した、恐らくそうなるよう隠された星喰らいの真の隠し玉。


星を落とした周りの星座たちを粉々にしてまで放ったそれが胴を貫き……俺のを霧散させる。


「残念、外れだ」


ここに来て、機会がなくこいつには一度も使ってない『映身』が役に立った。


俺はすでに幻影などとうに追い越し……その瞬間星喰らいへと光の矛先を突き立てていた。


「こっちから呼びつけておいて悪いがな……」


止めに残った力をすべてを杖を通して、光エネルギーを内側で解放し星属性での干渉を星喰らいの本体へと流し込み崩壊へと導く。


限界を超えた魔力の負荷で星喰らいから溢れる断末魔めいた明星を見たものたちは、後にこう語る。


突如としてイベントに舞い降りた凶星は――


「いい加減、てめぇの生まれた場所に帰りやがれェー!」

「――――ッッ!?!?!」


――新しく登った『凶星』に塗りつぶされたのだと。

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