第212話 本戦ー最終日・終わりに凶星は昇る その1
《世界の空白より超大型レイドボス:星喰らいのケモノが顕現しました!》
「%#*&ッッ$@――ッッ!!!」
悲鳴とも鳴き声ともつかぬ意味不明な咆哮が、空気を劈く。
「これが、星喰らい!」
「きゅう!?」
動画ではネタバレ防止で運営側がぼやかし徹底してたからこうやってちゃんと姿を見るのは初めてだ。
強烈な光から伸びる光の線と線が絡まって歪な四肢を作り、しっかりと地に立っている。
それにあまりの巨体で頭部と思われる出っ張りは霞んで輪郭すらよく掴めいないほどだ。体高なんてそんじょこらのビルは軽く越してるだろう。
ただぱっと見では不細工な毛玉人形にも見えるので突っ立ってるだけでも違和感がまとわり付いてくる、何とも不気味な出で立ちをしていた。
「おー。生きの良いのが出たね。前に見たのより迫力があるよ」
「おい、ヘンダー! お前なんつーもん呼び出してんだ!」
呑気に星喰らいを眺めているヘンダーに詰め寄る。
「っちっちっち。後輩くん分かってないな。これはね最大のチャンスなんだよ」
「はぁ?」
「忘れたの? このイベントがどうやってポイントを加算していくのか」
「それが……あ」
―― 勝敗は各クランの総合貢献度という数値を元に割り出され、これは戦闘、生産ともに様々な行動で上昇する。
ここの“戦闘”には当然モンスターとの戦闘も含まれる。このイベントマップには素材用のモンスターもあるし、何よりテイマー系ジョブとの戦闘も想定がいるから当然の仕様だ。
そして今まで貢献度の推移からみて★ランク高いものを倒した時、もっとも貢献度を稼げる。
つまり格の高い相手を倒すほど、より多くの貢献度を稼げる=本戦ポイントが稼げる可能性が高い。
「は、はは。だからあれを呼んだのか」
「そういうこと」
……やっぱすげーなこの人は。
普通こんなクラン同士の戦うイベントの最中に、ポイント高そうだからレイドボス呼ぶか、とはならない。
手段も他人も関係ない。誰に何と言われようと自分の欲は譲らない。
これこそ、ヘンダー・ケールというプレイヤーを『魔王』たらしめた根本だと俺は誰よりも実感していた。
「ってか、動かないな。星喰らい」
「そりゃ自分から動く必要なんてないからね。ほら、よく見て」
「ん? …………あ、なんか星喰らいの接地面から地面削れていってる? いや、あれはまさか吸収してるのか!」
「正解。ほっとくと大地も大気もぜーぶ食われて皆まとめてジ・エンドってわけ」
え、えげつねー……あれなら確かに自分から動く必要なんてない。ただそこにいるだけでいずれ敵を駆逐し破滅を齎せるのだから。
これが星喰らい……“星を喰らう”ってのは比較でも何でないということか。
「いや、それなら吞気にしてないで早く倒さないとマズいだろ!?」
「大丈夫、その準備しっかりしてあるから」
ヘンダーの身体から赤と極彩が立ち昇る。
「待たせたな。マップで採れるもん根こそぎ食ってきたやったぜ!」
「こちらも必要なバフは掛け終わりましたわ」
遠くでヨグの無数の兵器がけたたましい駆動音を鳴らして照準を開始する。
アガフェルもいつの間にか自分の役割をこなし、凛とした姿でヘンダーの横に待機している。
「ふははは! まさかこんな大決戦になるとは。我らも気合い入るというものだ!」
「ったく、いきなりレイドかよ。とんでもねぇことしやって……燃えてくるじゃねーか!」
怪人たちもそれぞれの溜め技らしきものを発動し、開戦に備える
そこで俺はハッとする。
「え、俺だけなんも準備してないんだけど!?」
「私を誰だと思ってるの。後輩くんの塔にも隕石も沢山装弾しといたよ!」
「抜かりねーな、畜生っ!」
言われて上……塔の上空を見上げる。
すると俺の魔術『ザ・ケージ』で建てた塔にはまた目がかすむ程の『スターリング』がこんもりと覆いつくしていた。一度描いた魔法陣は見合った魔石さえあれば誰でも使える。そして星属性の魔石は俺が素材農場を回してたんまりと回収してある、それを使って再装填したのだろう。
それも、隔離塔の4つ全てにだ。
ヘンダーがハッキングした前例の通り魔法陣自体は誰でも使えるから、こういうことも出来るわけだ。
「『陽水』の残りがあって助かったよ。あれが魔法陣に繋がってなかったら間に合わないところだったから。それでもまだ余ってるんだから、『陽火団』には感謝だね」
「……本人たちが聞いたら発狂しそうな発言どうも。や、原因俺だけど」
兎にも角にもこれで後は俺の魔法を流して安全装置として仕込んだ魔法陣の待機状態を解除すればいつでも撃てる。
正直まだまだ疲れが抜けきってないが、ここまでお膳立てされて尻尾巻いて逃げるのも格好がつかない。今も生配信はされてるだろうし、それはよろしくない。
それに噂に聞く星喰らいのケモノってのがどんなものか……ひとりのゲーマーとしては興味がある。
「先に言っとくがあれ全部当てるとかは期待すんなよ!」
「それはご心配なく。妾がいる限り無駄玉など出させませんわ」
やけくそ気味にそう言う俺の前に9つの狐尻尾を揺らしてアガフェルが躍り込む。
そのまま流れるように踊りだし、今回いくつもの戦場を惑わした災厄と祝福の神楽舞が再生される。
「『運技・神楽』」
「
「
それに呼応してかヨグ、ヘンダーも自身の最強の技を口ずさみ発動一歩前へと移行する。
相手が動かないなら初手は皆でド派手ぶっ放すって流れだ。そこに乗るのはもちろんだが……この中で俺だけ技名がないのは格好が付かないな!
というわけで今咄嗟だが、いいのが思い付いた。だからちょっと借りるぜファスト。
「
杖を空高く掲げ、魔法を放つ。『伝魔・天』の力で広がる魔力は上に行くほどに長く広く逆円錐状に展開されていく。
その効果範囲は塔の天辺にいる『スターリング』の群れを纏めて制御下におけるまでなると、俺は意識を集中し大雑把な着弾地点を定める。
「
「
「
すべてを消し去り進む極彩と赤の魔力波が
空を裂き飛び交う鉄塊と熱の線の束が
摩擦で大気を燃やし轟音で砕く流れ星の群れが
招厄の神楽に導かれて、星に降り立ったばかりの怪物へと収束する。
「%#*ッ$@$#!&――ッ!?」
普通のボスモンスターなら数回消し飛ぶ攻撃の雨あられを受けた星喰らいは全身の随所破壊されていき、今度は苦痛の色が混じった意味不明な悲鳴をまき散らす。
俺たちの特大攻撃と少し遅れて飛んできた怪人たちの大技も合わさり、星喰らいの巨体は特大の土煙に飲まれていった。
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