第211話 本戦ー最終日 星喰らいのケモノ

まだまだだるさがこびりつくまどろみの中、俺は目を覚ます。


「んぅ……ふぁ~。よく寝た……あー、俺どんだけ寝てたんだ」

「きゅう!」

「あ、ファスト……そっか、寝てる間に復活したのか」


寝る前にはステータス越しに死亡を確認していたファストがいつの間にか俺に丸まっている。あとクイーンや地味に中央塔でデバフ支援してて巻き込まれ死してたペストもふたりくっついてちょっと離れたとこで寝ている。


少なくとも眷属が復活する時間以上に、つまり割と長く寝ていたいらしい


「と、言ってもまだ日は昇ってない。夜明け前ってところだな」


そう言えばと思い出したイベントの残り時間を確認しつつ呟く。


「あら、やっと起きましたわね」

「アガフェルか。他の人たちは?」

「まだ作業中ですわ。流石にもうすると戻ると思いますけれど……あ、噂をすればですわね」


多分俺と同じでやることがなくて待機してたアガフェルがこっちに気付く。


ならばと状況を聞いてみようしたのだが……。


「おーい、フェルちゃんー、後輩くんー!」


コトの張本人の方が向こうからやってきて中断した。


アガフェルと軽い挨拶を終えた頃を見計らい、ヘンダーに声をかける。


「ヘンダーが言ってた準備は、もう済んだのか」

「うん、大まかにはね。後は仕上げで終わり。というわけで行こっかふたりとも」

「結局何なんだよ……いい加減教えてくれ」


今に至るまでに、詳細の一切が分からないんだけど。


本当に何をするつもりなんだ、この性悪魔王。


「あはは! そうだね、焦らしすぎもよくないし。と言ってもこれをマップ中にばら撒いただけなんだけど」

「その魔石は……」


ヘンダーの手元には均等に4つの色を宿し、綺麗に輝く変った見た目の魔石が握られていた。


境界線に沿ってカラフルな色が合体しているから、おもちゃ感が凄い。有り体に言ってまるで揃ったルービックキューブのようだ。


「私が作った消滅属性の魔石。どう、凄いでしょ」

「ああ、凄いけど……なあ、ヘンダー」


これが例の地雷の正体か。こんなものいつの間に地面にこっそり埋めていたんだ。


得意げにその魔石を自慢するヘンダーだが、念のため起きた直後に発動していた『ディテクト』に映ったあるモノに方に俺の関心は傾いていた。


「なに、後輩くん?」

「その魔石中に入ってるのは、? 生きてるのか?」

「……はぁー。後輩くんの『真鏡』って本当に厄介だね。でも、まあバレたんだなしょうがない。特別に説明しよう!」


だって、魔石の中に蠢く明らかに意思を持つ何者か。『真鏡』の効果でその影を捉えた俺に、ちょっとうずうずした感じのヘンダーが声を張り上げる。


明らかに待ってましたという反応だ。まあ、気持ちは分かる。


自分だけの新技術とか、誰かに自慢したいもんね。俺もヨグとよくお互いが作った魔術と機械を見せ合ったりしてる。


「私の魔法使いのジョブは精霊術士エレメント、のひとつ上。サードジョブ大精霊術士エレメントマスターだよ」

「どっちも聞いたことないジョブだな」

「当然。どっちもほんと死ぬほどクエスト発現条件が厳しいからね」


―― 精霊術士。


ヘンダーの天賦・魔法使い枠であるこのジョブは、相当特殊なスキルを備えているようだ。


その名も『精霊術』、精霊を呼び出しMPを代償に魔法行使を代わってくれる破格のスキル。


MP消費が倍どころじゃ増えるデメリットはあるものの、それを解消出来ればその利便性は計り知れない。


PSプレイヤースキルが低いはずのヘンダーがあんなにポンポンと消滅属性を撃てるのもこれのお陰、と言えばそのヤバさ伝わるだろう。


で、これでどうやってあの魔石が生まれたのか。単純な話がメインジョブ3つによる合わせ技だ。


まず『精霊術』で4つの属性魔法を行使した精霊を『魔法剣』で魔石の素体を無理矢理くっつけた武器に送り込む。その状態で『錬金術』の基本技、分解を行い素材状態にして切り離しそのまま魔石に仕上げる。


後はどのタイミングで消滅属性を生み出すか魔石にいる精霊たちに設定すれば完成というわけだ。


方法自体はそれほど難しくないが、何気に天賦装備ギフトウェポンを持つヘンダーにだけ出来る方法だな。


ちなみに「『魔法剣』の工程要る?」と聞いたら、「後輩くん、精霊は生産作業は代わってくれないんだよ。やるのは魔法の代行だけ」と真顔で返された。


消滅属性の魔石とか当然既存レシピにないからオリジナルレシピ。それを精霊の補助なしにヘンダーの腕で作れるかと言うと……ああ、うん。難しいかもね。


何処までもスキル頼りの性能なのがある意味ヘンダーらしい。


「錬金術師の取得と、精霊術士の強化。これをイベントまで両立するの中々苦労したたんだよ。大精霊術士になるクエストとかクリアしたのイベントまでの期限ぎりぎりだったかららね」

「……またとんでもないものをさらりと。そんな物騒なもんで何するつもりなんだよ」

「それはこれから見せるの。これを見ているすべてにね」


そう言うとヘンダーは大剣を取り出し、天へと掲げる。


「きっとこれを見てる皆はとんだ蛇足だと思うだろうね」


続いて何か感傷にでも浸った風に呟いたヘンダーは。


「蛇足結構。私は私の勝ちを益を、欲を決して譲らない。そうでないとここにいる意味がない」


大剣へとお馴染みの消滅属性を込めて。


「さあ、消し去れ。『消界アストロ・アポカリプス』ッ!!」


それがきっと『精霊術』で仕込んだキーワードだったのだろう。


いつぞや焼き直しが如く、夜明けの空に大剣を振り膨大な力を解き放つ。


夜空に極彩色が散らばって落ちた―― その数瞬後、世界が極彩の色へと塗りつされた。


遠くから押し寄せるように来る破滅には音も揺れも衝撃も熱も冷気もない。


消滅の力はどれほど破壊を齎そうとそれすら飲み込んでしまうのだから。


だが、はその後だった。


大地ごと空間を抉られ空っぽになったような限定された世界に何かが満ち始める。


最初はただ漠然と“ある”としか分からなかったそれは、気付けば虚空で寄り合い現世へと滲む。


なんの色か定かでヘドロじみたそれは徐々に体積を増やし、蠢く。


そして蠢きがどんどん激しくなって最後、爆散した。


「自滅、した?」

「違うよ。


ヘンダーそう言った瞬間、四方八方に飛散した欠片たちから光が溢れる。


それは虚空へと欠片が散りばめられ、不気味な輝きを宿し地上に星を刻む。


……俺はちょっと前から不思議に思っていたことがひとつあった。


星を神の御業と崇めるこの《イデアールタレント》の世界には何故、星座の話はちっとも出てこないのか。


この理由を俺は今日身を以て知る。


《WARNING! WARNING!》


《この周辺の加護が急激に減少しました、ランクの低い者は急いで避難して下さい! 繰り返します……》


今まで聞いたことがないほどにけたたましいブザー音と警告が暫く続く。


その間も欠片の光はお互いが惹かれ合って線を描き、複雑に絡み合う。


デタラメに引かれた線は飛び交い、絡み合ってどこまで大きく高く束ねてゆく。


そして――。


《世界の空白より超大型レイドボス:星喰らいのケモノが顕現しました!》


「%#*&ッ$@――――――ッッ!!!」


―― 星座を束ねたケモノの姿として、この世に降り立った。



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