第133話 15階層ー2
15階層ボス戦の最中、予想外の衝撃にカベウラが吹き飛ぶ。
「くはっ!?」
何度か地面をバウンドし、視界が回ってからようやく止まって体勢を立て直す。
「今、何が?……はっ、まずい!」
いったい何をされたのか、わけが分からず混乱しそうなるも、すぐにそれどころではないと思い出す。
盾役である自分が退けられた。これでは後方が危ない。戦線が崩壊しかねない。
慌てて立ち上がった彼が見たのは、蟹ボスがいつの間にか剣の如く変化、肥大化した水晶の爪を後衛に振り下ろす光景だった。
間に合わない。そう思っていた時、その前に飛び出していた影がひとつ。
「皆さん、僕の後ろへ!」
全身を覆うほどのタワーシールドを持ったストスが剣の爪と後衛の相手に割り込んでいた。体格的にもジョブ的にも普通に考えれば無謀でしかない。
「
ストスがキーワードを叫んだ直後、蟹ボスの爪が盾に直撃する。それと同時に盾から爆発が巻き起こり、その衝撃で弾かれる爪に引っ張られ堪らずに蟹ボスがのけ反る。
魔力を流し込み起動すると、衝撃を受けた際に3層構造の真ん中にある魔法陣が爆発する、装甲車の爆発反応装甲を真似た代物だ。
素材の調達と魔法陣の発注にかなり制作費が掛かるのに使い捨てというピーキー過ぎる性能で、これも売れはしなかったが……どんな大物の攻撃も弾き返せる優れ物だとストスは自負している。
「総員、一斉に攻撃よ!」
隙きを晒した蟹ボスにクラリスの号令で攻撃が乱れた飛ぶ。それにより、蹌踉めくように後退した蟹ボスを見てカベウラも持ち場に復帰する。
「全員、無事か!?」
「ええ、ストスくんが守ってくれたわ」
「そうか、よくやった!」
「は、はい! ありがとうございます! カベウラさんこそ大丈夫ですか? 凄い吹っ飛びましたけど」
「俺はタンク系ガン積みのビルドだからな。あれぐらいなんてことない」
お互いの無事を確認し、喜ぶのも束の間。蟹ボスが再び身体を震わせ殻の形を変える。近付き過ぎるのも危険という判断か、今度は剣から槍に形状を変えていた。
「にしてもあの殻、自在に変形出来るのか!」
「いえ、あれは……ちょっと違うんじゃないでしょか?」
「どういうこと?」
マシュロが疑問に答えるようにストスは見立てを話す。
光球で溶けた時、さっき盾の爆発を当てた時。あの甲殻の下に違う色……それこそ普通の蟹と同じ普通の殻が見えたと。
そして甲殻が増えたり、変形したりするの挙動が魔法のそれに似ているとも。
「じゃあこれは、実質……土属性の魔法なのか!」
「恐らくですが……」
「うーん、そうなの?」
なお、そうして会話してる相手にも蟹ボスは水晶の槍になった爪を繰り出し、カベウラがそれを盾で捌くという攻防が繰り広げられている。
「多分、あってる……魔力、感じた」
「えっと?」
「殻が再生する時にそれらしい魔力を流れ感知したって言いたのよね。ごめんね、その子ちょっと口下手で」
何気にいつもの同行している『陽火団』の斥候役がぼそりと言葉足らずにストスの意見にどうする。
全身ローブに覆面までしてるので見た目はでは分からないが声からして女性だったようだ。
「つまり、あれは本当は水晶を魔法で着てるだけで生身はあの下にあるのは確定ってことね」
「そうなります」
「なら、まずその自慢の鎧を引っ剥がしてやろうじゃない!」
そう勢いよく啖呵を切ってマシュロが新しく魔法を構築する。
空気を圧縮し、固く重くなるように。
「あ、そうだ。これも加えて……えいや!」
そこに思い付きで即座のアレンジが加わる。星属性で圧縮した空気の重さを増大させ……それを水晶の鎧を叩き割るべく、蟹ボスに叩きつける。
どうやら打撃を重視した魔法でもって水晶の鎧を砕く算段らしい。
「よし、大破!」
そして目論見通り、圧縮空気弾を炸裂させた蟹ボスの甲殻が盛大に割られ、その下の生身を僅かに晒す。
「なるほど。それなら、私も久ぶりこれで行こうかしら~」
それに続くようにクラリスが水を生み出し、空中に停止させる。そこから集中するため目を閉じると水は挙動が代わり流体から固体へ……氷へと変わった。
水が変じた氷塊は豪速で撃ち出され、またも水晶の殻を叩き割る。
「僕も、これで!」
またそれに次ぐ形で、長柄のウォーハンマーに持ち替えたストスが蟹ボスに接近し、強烈な一撃を叩き込む。
「おっと、もう逃さねーよ」
その間、もちろん反撃に出ようよした蟹ボスだったがそれらすべてカベウラの盾に出鼻を挫かれ失敗に終わっていた。
蟹ボスも何度も鋏の形を変えて虚を突こうとするも、手の内はもう分かったとばかりにどんな変形でもカベウラは瞬時に適応、対応してくる。
そのまま何度も何度も攻撃が突き刺さり、あと少しで蟹ボスの甲殻もなくなるといったところ……だったが。
蟹ボスの身体からオーラのようなもの……魔力が膨れ上がる。それと同時にもはやこびりついているだけの僅かな水晶の甲殻が四方八方に弾け飛ぶ。
「くっ!?」
「きゃっ!? 何よもう!」
生身の甲殻に切れ目が入り、胴体が縦に3分割する。左右の身体が上に中央の身体が下にスライドし、一本の長い胴体へと纏まった。そこから更に長い胴体に今度は横の切れ目が入り、緩やかな曲線を描く。
最終的に平べったかった蟹ボスの身体は、全体像からしてザリガニやロブスターのような姿に変形していた。
「これは……」
「第2形態!」
―― 瞬時に変容を遂げたボスとの戦いは、まだもう少し続くのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます