第5話 『地底の魔宮』-2
キャノンタートルとの弾幕ゲーすること約1時間。
「よっ、ほっ!」
「きゅっ、きゅう!」
昏倒回数7回、別個体乱入3回、HP瀕死圏内で撤退16回……通算26回失敗し今が27回目のチャレンジとなる。
嫌がらせとしか思えないほど、撃つたびに変わる岩砲の軌道を読みながらどうにか石礫を避ける。それでも目が慣れてきたのか最初に比べればずっとましだ。ファストも腕の中できゅ、きゅと合いの手を入れてリズム感をあたえてくれている。
そしてついに……。
「よっしゃ、見切ってやったぞ! でも即撤退!」
「きゅう!」
クエストの達成度を確認してすぐに脱兎の如く逃げ出す。もうここに用はない。キャノンタートルは足が遅いので走ってたら追いつかれることはない。このまま走って下の階まで直行だ。
ふぅ、それにしてもこの間PKでドロップした装備がなかったら危なかった。装備の詳細を見るにプレイヤーメイドのようでショップ売りのよりも性能がいい。同名の装備と比べてだいたい2倍ぐらいは。もしかしたら特注品だったのか、β版のプレイヤーで引き継いだものだったのかもしれない。
「4階層、到着。ここも一筋縄じゃ行かないぞファスト」
「きゅう」
前の階の亀にも苦労したがここも相当に厄介だ。今日中に終わらせたいがどうなるかな……。今までの階層よりも幾分幅広い通路を歩く。というかこの4階層は通路しかない迷路階層。となるとモンスターも当然通路で湧くことになる。
自分のマップに迷路をマッピング(自動機能あり)しながら進むこと10分ほど。ようやくそいつは現れた。
「やっとお出ましか」
そのモンスターを一言に表すとすれば岩の甲殻を纏ったダンゴムシだった。ただし、通路がほぼ塞がるほどデカイ。ずりずり這いずっていたダンゴムシは俺たちを認識したのかびくりと体を跳ねさせる。それに対して俺たちは……。
「そんじゃ……ファスト、ダッシュだ!」
「きゅう!」
一目散に逃げる。攻略の都合上ファストも降りて自分で走る。同時に体をボール状に丸めたダンゴムシ型モンスター、回岩虫(ローリング・バグ)。その名もズバリのスキル『自転』を持っており、この『地底の魔宮』を訪れた何人ものプレイヤーたちを轢き殺してきた処刑人。
「結果は分かってるが一応……一発!」
走りながらもためていた魔法をさっと胴を捻って発射。が、ローリング・バグのHPは1ドットすら減らず猛烈な勢いのまま突き進んでくる
「知ってたけど!ここまで効かないのは地味にショック!」
ローリング・バグも進化1段めのモンスター。土属性のスキル以外にもうひとつ『猛進』というスキルがある。効果は突進してる間の一定以下のダメージ無効化。ただし直線にしか動けない、スキル後に硬直状態になるなどのデメリットがある。
ただまぁ、せまい迷路階層に躱す場所はない訳でそうなると逃げるしかない。迷路の壁にぶつかってもダメージはないので足止めぐらいしか効果がない。それを機に素早く方向を転換してまた追ってくるだけだ。
ここまでくると詰んでね、と思いがちだがここの攻略はチャートが既に出来上がっている。
「もう1匹いた!ほら、喜べお仲間とのご対面だ」
逃げ回ること5分ほど。ついに目的のもの、ローリング・バグの別個体を見付けた。
こちらに|背(尻?)を向けていた正面のローリング・バグを飛び越す。そうするどうなるか。
大衝突、そして轟音。
硬い甲殻同士がぶつかり、砕けて剥れ落ちる。お互いのひるみ状態解除後に始まるのは激しい同士討ち。そして俺たちの仕事はここからだ。
「ファスト、俺たちは負けそうな個体のフォローだ。戦闘を出来るだけ長引かせろ」
「きゅう!」
ローリング・バグの土属性のスキルにはある発動条件がある。それは相手のHP残量が1割以下になること。だが、ローリング・バグの攻撃力はかなり高く普通に戦えばHP1割以下にならずに死ぬ。おまけにこいつら見た目の割に防御ステが低い攻撃力特化型なのだ。
互いの図体のせいで満足に動けないのだろう。その場で長い胴体を絡ませて押し潰し、噛み付きあう。その度にガリガリとHPが消し飛ぶ。その勢いを何とか抑えようとと弱めの魔法弾を頭にぶち当て、ファストが『跳躍』スキルで飛び跳ねて蹴る。こちらの攻撃が強すぎても死んだり、ヘイトが向いたりしてしまうので細心の注意が必要な作業だ。
そしてやっと後に会った個体のHPが1割を切った時、スキルが発動した。
「よし、いけ!」
「きゅう!」
地面から土の腕が迫り出してローリング・バグの体に掴み掛かる。そのまま地の底に引きずり込むように土の腕は下に下に下がろうと、した。
が、土の腕は脆く崩れ去る。その後スキルの硬直で動けないもう一体のローリング・バグは無防備に攻撃を喰らい光の粒となった。運用観察もスキルが途中でキャンセルさらたので成されていない。
「ハズレた、ちくしょー!」
土属性の即死スキル『土葬』。効果はHP1割以下の敵を確率で即死させるというものだ。
要は……またもや立ちはだかる確率の壁。こんな重要クエストにまで乱数入れんでいいだろうがぁ!
俺はその鬱憤を吐き出すように残る瀕死のローリング・バグを最大威力の魔法弾で撃破。完全に八つ当たりである。
「ふふふ、だが俺はすでに地獄と言われるテイム乱数を乗り越えた身だ。即死技の乱数だってバッチコイだ」
……この後、普通に30周を越すまで即死は当たらなかったとさ。
当たった時には日が沈んでいて、俺はゲームを落ちてからふて寝した……おのれ運営。
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