第32話 トリックスパイダー
※現状ファストのステータス
ファスト・蹴兎LV30☆
スキル・『跳躍』『蹴撃』『蹴砕』
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「ふぅー……容赦ないな、この化け蜘蛛めが」
「きゅ、きゅう!」
部屋の空間を余さず戦場にした3次元機動の応酬は20階層ボスの巨大蜘蛛……アイテムで鑑定して名を
ここが既にやつの巣穴だったこともありボス部屋の至るところに糸で罠が張り巡らせてある。それを気にしながら移動なり魔法なりをしなといけないこっちははっきり言って後手に回っているからだ。
「ボス部屋丸ごと表面をひっくり返したいけど。それだと流石に隙が出来る」
変則的過ぎて未だに動きが読みきれてないこのトリックスパイダーを相手に隙を晒すのは自殺行為だ。隙きを見せた瞬間斬撃の糸でざっくり逝かれるのが落ちだろう。ファストも罠を見抜けないみたいなので単身突撃は危険過ぎる。
それに……流石は20階層のボス部屋モンスター、さっき19階層で戦ったエリートモンスターとも比較にならない程のスピードと身のこなしを見せつけてくれる。
そのせいでこちらはひたすらに攻撃を回避か防御で精一杯で防戦一方の状態が続いている。
むぅ、せめて氷結弾が残っていれば……いや、無いものねだりしても仕方ないか。現状で出来る対応を考えないと。
避けながらでも考えろ。やつに攻撃を当てるにはどうすればいい。
一番手っ取り早いのは魔法での範囲攻撃。だがこれは先程言ったようにこいつ相手には隙が大きい。せめて何か時間を稼げれば。
「きゅう!」
「え、お前が行くって……俺はサポート出来ないんだぞ、分かってるのか!?」
そこでまさかのファストが時間を稼ぐと買って出た。魔法を溜めてる間は当然他の魔法は使えない。魔法は基本思考操作で操るもの。漫画のキャラじゃあるまいし、一度に2つの思考を同時にやるなんて少なくとも俺には無理だからだ。
玉兎たちでは時間稼ぎにもならないから復活出来るファストのこの提案は正しいんだけど、完全に納得出来るわけでもない。
「きゅ!」
「……あーもう分かったよ。どうしてもやるんだな?」
「きゅきゅう!!」
わけではないが俺が甘ったれたこと言っても状況は変わらないから、やってもらうしかない。
……相変わらず紙装甲の癖になんでこんな無鉄砲なのかね。ったく誰に似たんだか。
「なら行って来い。あっさり捕まるなよ」
「きゅ」
俺の作っていた安全地帯から抜け出すファストを見送り、魔法構築に集中する。出来るなら一撃で始末……それが出来なくても大ダメージを与える魔法にする必要があるから今の俺でもそれには十数秒は掛かる。それまであの子が持ってくるかどうかが勝負だ。
「頑張れファスト!」
「きゅ」
力強く地を蹴り、『跳躍』するファスト。そのまま飛翔し降り注ぐ糸を掻い潜りボスのトリックスパイダーに真っ直ぐに突っ込む。
トリックスパイダーもそれを見て糸を集中させて迎撃。ファストは空中で体を捻ってそれすらも躱してみせるが目標に到達した頃にはやつは既にそこにいなかった。
天井に足が着いたファストはそのままの勢いで宙に跳んで逃げていたトリックスパイダーに『跳躍』から『蹴撃』を見舞う。普通なら躱せない中空からの攻撃、だがなんとトリックスパイダーは何もない宙で体を真横にズラしファストの足から逃れた。
「やっぱり糸を使っての3次元機動が問題か」
そうじゃなくても蜘蛛の8本足による安定性と駆動力は相当なもの。それにあの糸による変則的な挙動が追加されたことにより、一気に動きが読めなくなる。トリックスパイダーって名前は伊達じゃないということか。
「きゅ!」
また攻撃が空振ったファストの隙きを見逃すほど敵も甘くない。空中で体勢を崩したファストに向けて斬撃の糸が迫る。それを下に全力で落ちることで避けたファストは地面に叩き付けられる。
再び立ち上がりまた跳ぼうした……が地面から足が離れない。地面に撒かれていた粘着糸に掛かってしまったのだ。間抜けな獲物が罠に嵌ったのを認識したトリックスパイダーは躊躇なく牙を剥き獲物に喰らいつこうと飛び掛かる。
それを認めたファストはさらに強く地面を蹴る、蹴る、蹴り砕く!
『跳躍』『蹴撃』『蹴砕』のすべてのスキルを総動員して糸の付いた地面ごと粉砕する。間一髪で難を逃れたファストだったが無傷とはいかず、トリックスパイダーが伸ばした槍のように鋭い蜘蛛足に引っ搔かれてしまう。
今のでさえかなりのダメージ負って少しふらつくファストと口惜しげに口から紫の液を滴らせそれを見詰めるトリックスパイダー。どうやら毒にするスキルか何かを持っていたようだ。
それはそれで耐久力のないこっちにはかなりの脅威だが……さっきのが最後のチャンスだったな。
「……準備は整った。ファスト引け!」
「きゅう!」
地底の王直伝の技だ。耐えられるなら耐えてみろ。
ボス部屋全体が激しく揺れる。床が罅割れていく。
やがて俺の杖の先にある床すべてが崩壊し渦を巻いて中心に集う。
当然のトリックスパイダーは糸で崩れ落ち散る地面から逃れようとする、が。
「残念だけど、俺の相棒はしつこくてな」
俺の魔法に気を取られる隙きに天井まで跳び上がり、足に残っていた石片の塊と一緒に着いてきた粘着糸を利用して待ち伏せしてファストがトリックスパイダーを地に叩き落とす。これでさっきのファストの意趣返しも無事に出来たな。
トリックスパイダーが落ちた先からガリリリリっとグチャグチャという騒音が同時に響き、近寄る一切合切を粉砕する。
後に残ったのは凄まじい力で圧縮された巨大な岩塊とすり潰して出来た砂のクレーターと……そこから漏れる光の粒だけとなった。
あくまで魔法で真似ているだけだからあの
「やったー! やっぱりお前は最高だファスト!」
「きゅう~!」
安全のためにほんの僅かだけ残してある足場で俺とファストが抱き合い、その場でモフモフと揉み合うのであった。
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