第31話 『真鏡』
「これで面倒なのは片付いた訳だけど……」
インセクトマスターのドロップを検めながらダンジョン内部を見回す。
こうして見てもなんの変哲もないオーソドックスな洞窟型のダンジョンだ。
「さっきの違和感は何だったんだ? ちょっと試してみるか」
『魔法・大地』の限界を絞り現在の階層周辺を蠢かす。それを手を変え品を変え色んな場所で行う。最初はそれでもよく分からなかったがふと思い付きジョブを測定士に変えた時今まで感じた違和感の正体に気付くことが出来た。
「ここは……構造が雑然とし過ぎてる」
運営が用意したダンジョン構造はうちのダンジョンとは少し違う。
うちのダンジョンはホーム故にすべての構造物が破壊不可だが通常の運営が作ったダンジョンは属性で有利不利が出ないように内側の地面や天井を通常、それ包む外側を破壊不可のオブジェクトとしている。
これらの構造物を多様なパターンを用意し組み合わせて運営側のダンジョンが整然と構築される。だと言うのにここは……
「まるで1から作ったような雑さというか……手作りっぽさがあるんだよな」
測定士の『測定』で測ってみてもどの通路や部屋も面積とかの数値が一致しない。念の為18階層に戻りそこも測って見たがここは同じような場所は完全に数値が一致していた。
「これは何かあるな」
そこは分かったんだが、俺の頭だとこれ以上のことは推し量れそうもない。
「だから、ちょっとズルい気もするけど……これを使う。『真鏡』」
手鏡サイズの『真鏡』が俺の手元に現れる。それを特に普通の階層と数値の差が大きな場所を中心に翳して何か映るか探る。
「……違う、ちゃ違うけど。なんだこれ?」
なんかこう小さな隙間がぽつぽつあるというか、そういうのは映ってるけど。これだけだと下に通じてないみたいだ。試しに隙間がある部分を魔法で開けてみたのだが。
「表面は問題なく退けられるけど、破壊不可の部分がびくともしない」
露出した破壊不可の部分をよく見ると本当に小さな、それこそ針が通るかどうかの穴が見えた。『真鏡』が映したのはこれみたいだけど、これだけだとな。
「下に通じてもない上に穴を広げようとすると何故か魔法が弾かれる。むむ……」
どうする? 手掛かりになりそうなものは見付けたがどうすればいいのか見当もつかないぞ。
「あともうひと押しな気はするんだけどな……そうだ、あれをやってみよう」
ヒントが足りなければ増やせばいい。
ということでエルの真似をしてみることにした。『魔法・大地』の補正をフル活用して出来るだけ広い範囲を影響下に置き認識する。それを元にこの階層の形を『映身』でにて投影。それをさらに手鏡サイズの『真鏡』に映る形に落とし込む。
「出来た、けどちっせぇー!」
成功はした。が、小さい。全体を正確に把握するには小さすぎる!
でも今はこれで頑張るしか……くっ、目ん玉かっぴらいて『真鏡』睨んでいても見ずらい! しかもスキルの制御鬼ムズイ、少しでも気を抜くと幻影ごと透過してしまう !
くそ、いったん現状が落ち着いたら絶対に3rdステージにランクアップしにいってやる!
「でも……これでようやっと分かった。ったく、ここの運営も意地が悪いにも程があるぜ。いや、意図というか心境は分からなくもないけど」
魔法で階層のあっちこっちに広まっている細い隙間を一番地表に近い順に集める。この隙間は広げることは出来なくてもそのままの状態で移動させるだけなら出来るみたいだ。
その作業を上から順に繰り返し糸を重ねるように隙間を繋いでいくと。
「見立通り、階段が出来たな」
「きゅう!」
俺が色々としてる間、警戒と護衛していたファストも傍に戻り驚きの声を上げる。『真鏡』で見た時に隙間の空洞の高いがまるで図ったように段々と下がっている角度が何度もいたからもしやと思ったのだがビンゴだった。
「糸並みに細い空洞を集積させて階段を形作る。3Dプリンタの逆バージョンってとこか?」
これの嫌らしいところはこの空洞は別に異常な状態ではなく、元々のダンジョンの構造でしかないってところだ。異常や虚偽の情報を見抜くのが主な鑑定や看破系だと今回のように逆に異常な状態が正解の際に分かりづらい。
「そりゃガッチガチ定番ジョブで構成された最前線組みには苦労するだろうよ」
俺も大地術士、測定士、鏡面士という普通の攻略志向のプレイヤーなら絶対に取らないであろうジョブがあったからこそ気付けたようなもの。
『Seeker's』は企画以外ではネタプレイしないから定番もど定番のパーティー構成。他の前線組も……『Seeker's』を参考にするやつも多いので、まぁ殆ど似たりよったりだろ。『快食屋』に関してはモルダードのせいでほぼ脳筋か料理バカしか集まっていない。
多分運営からしたら折角色んなジョブを作ったんだからもっと使って欲しいって魂胆なんだと思うけど……流石にここまでするのはちょっとどうかと思う。
「まぁそれはともかくとして……見つけてやったぞ20階層!」
こればかりは本当に俺が初発見の可能性が高い。そのゲーマーとしては興奮するシチュに心が躍る。
ただここから先は『ノースライン』の傾向上、多分ボス部屋だ。前も10階層にでっかい狼のボスがいたし警戒は怠れない。
「この先は未知の階層……何が起こるか分からない。慎重に行こう」
「きゅう」
織り成された階層を下り20階層に降り立つ。予想してた通りに下は大きなドーム状の部屋があるだけで他に通路などは見当たらない。ただ部屋中央には巨大な影が浮かんでいた。
シルエットからして恐らく蜘蛛型のモンスター。大きさは体高が俺の腰までは来る大型犬を連想させる大きさだ。そこまで認識した途端に部屋の隅にいる灯りがぼんぼんぼんっと順次に灯されボスの姿を顕にする。
「いつ見ても思うが……虫型のモンスターってデカければデカいほどキモいんだよな」
VRではリアリティが増して10倍はキモい。別に虫は苦手ではないしインセクトマスターは甲冑みたいなカッコよさがあってまだ良かったが、これはない。
と余計なこと考えているとキラリと何かが飛んで来るのが見えた。咄嗟に魔法で足場を動かし避けると、さっきまで居た地面や天井に深く鋭い切り傷が生まれる。その線上を辿って見ると見えたのは細く頑丈そうな糸。
「あれを振り回して切ったのか。糸を巧みに操るタイプのやつな訳ね」
しかも注意深く見ないと見えないほどの細さ。粘着糸でのトラップも警戒しなといけない。かなり厄介なボスだ……それになんか、あの階段の細工も設定とかではこいつの仕業ってことにされてそうだな。
こっちが糸に警戒して動けずにいると見るや巨大蜘蛛は天井をカサカサと登ったかと思うと……上空で糸の雨を振らして来た。斬撃やさっき思ってた粘着糸が混ぜられた飽和攻撃。
「これ止まってたらやばい! ファスト足場を作る乗れ!」
「きゅう!」
魔法で何重もの土の傘作り盾とし、ひっくり返すた地面を滑らか蠢かせて急造の足場とする。
ここから俺とファストの本格的なボスバトルが幕を開ける。
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