第30話 『映身』
「私『Seeker's』所属のプレイヤーのメキラて言うんだけど。ちょっといいかしら」
いやなタイミングで最悪の人とエンカウントした。
『Seeker's《シーカーズ》』
それは《イデアールタレント》内のトップクランの名……ってだけではない。
彼らはVRゲームプレイを専門にエンタメ活動を中心とする民間企業である。まぁ言うなればゲーム実況者が起業したようなものってことだ。
手を出したきたVRゲームは多岐に渡り、チャンネルの登録数も優に200万を超える。VRという仮想の世界そのものを渡り歩く者たち、それが『Seeker's』の由来なのである。
その中でもこのメキラって人は『Seeker's』の情報収集担当。他のゲームでも裏方に回ることが多く、ここ《イデアールタレント》でも高位の鑑定役としてクランを補佐している。
つい最近『快食屋』との共同戦線を張ることで3rdステージに進出したお陰で彼女は鑑定ジョブの中でもトップのステータスを持つ。動画内で公開したそのステータスにはなんとサードジョブの
圧倒的な格上の鑑定ジョブ持ち。よりによって今一番会いたくなかった人物とばったり出くわすとは。せめて俺のことを知りませんように!
「プレジャってPKプレイヤーを知らない? 個人的な伝手で頼めれてね。今聞き込みしてるの」
「……知りませんけど」
終わった。ピンポイントで探されてた。咄嗟に誤魔化したけど『鑑定』スキルを使わると意味はない。
どこのどいつだよ、こんなのに俺の捜索依頼したの。他のプレイヤーに恨まれるとは思ってたまさかここまでするやつがいるとは思わなかった。
「そうですか……念の為に鑑定してみてもいいでしょうか」
「あ、どうぞ」
「では、『鑑定』」
もう誤魔化しても無駄だし、ここは諦めていったんうちのダンジョンに死に戻るつもりでいこう。
でも完全には諦めた訳じゃない。いつか必ずまたここに来るからな。
「……うん、問題ないですね。それでは失礼しました」
「はい……うん、え?」
そのまま本当にスタスタと去っていく有名トップ鑑定士。
え、どういうことだ。バレなかった、のか? あんな格上相手に。
「なにがどうなって………………まさか」
人混みの中で立ち尽くして数秒。長考の末にある可能性に気付いた俺は街にある雑貨屋に駆け込む。
そこで使い捨ての低位鑑定アイテムを買い込み実験を行うこととする。何度か『映身』を使ってアイテムを条件を変えながら鑑定して検証を行った結果以下のことが判明した。
・鑑定系の能力は使用者の視覚に依存して対象を選ぶ
・『映身』の幻影は鑑定は出来るが情報は幻影の元になったものの鑑定結果が出る
ここまで来て俺はこのスキルが何故『映身』って名前なのかを理解した。
このスキルの幻影は判定としては本当に映し鏡そのものなんだ。
見えているのは『映身』で映してる方であってその中の実物はそもそも見えてすらいない。さっきのメキラにも『鑑定』で見えたのは俺がそこら辺で適当に姿を借りた誰かのものだったはずだ。看破系のスキルを持っていても情報そのものは本物だから幻影それ自体に反応する種類じゃない限り問題ない。
『擬態』と違うのはそこだろな。あれはあくまで視覚情報を誤魔化してるだけで幻影が生まれる訳でも実体が何かに隠れる訳でもない。
欠点といえば元がなく1から作った幻影の場合は鑑定結果までしっかりイメージしないと行けないが、そんな多少の手間は些細な問題だろ。手間以上の圧倒的なメリットがこのスキルにはある。
「つまりは絡繰りがバレない限りトップクラスだろうと俺の偽装は見抜けない」
想像以上に凄いジョブだぞ鏡面士。先々のダンジョンの偽装手段に悩んでいた俺にはまさしく救世主のようなジョブだ。
「っと、また何かトラブル前に今度こそダンジョンに入るか」
「きゅう!」
こうして予想外の事態に見舞われたながらも鏡面士の新しい可能性に気付いた俺たちはそそくさと北のダンジョン……『ノースライン』へと足を踏みれた。
◇ ◆ ◇
「やっと19階層か。まさかまる1日も掛かるなんてな」
「きゅう」
攻略情報を見ながら最短ルート進んでこれだ。敵の強さは最初から問題ない。ここまではまだ推奨ランク★1だから2の俺らからしたら殆ど雑魚だ。
罠などもこれまた鏡面士が大活躍した。『真鏡』を呼び出して照らしながら行くと大抵の罠は見抜ける。正確には隠されている仕掛けとか見える感じだがそれさえ分かれば対処のしようはいくらでもある。
ただ問題は広い、ただひたすらに広いのだ。
北のステージ境界線を覆い尽くすダンジョンだけはあって1層を降りるだけでも相当な時間が掛かる。昨日入って限界まで探索してダンジョン内のセーフティーエリアでログアウトして探索を続行して、また朝から昼までかけて漸くここ19階層まで来れた。
「しかも定番と言わんばかりに下に行くほど広くなるときた」
これで他のプレイヤーがNPCから得た情報によると半分もいっていないと言うのだから驚きだ。何なら1割も進んでないのではとすら言われている。
「ここで20階層を探すのか……これは骨が折れるな」
「きゅう」
注意深く周りに視線を送りながらダンジョンを進む。
この階層に来るまでは何があろうと……それこそ宝箱があってもスルーして最速で進んできたが、ここからは調査がメインだ。慎重に小さな違和感すら見逃がないようにしなければ。
と言ってもいくらなんでも俺とファストだけでこのだだっ広いダンジョンを隈なく探すのは無理なので……。
「さぁ玉兎たち。今日もバリバリ働いてもらおうか」
「きっ!」
またうちの頼もしい捜索隊の出番だ。
俺たちの後を追う形でバラバラに侵入した玉兎たちの総数200。たまに見つかり狩られ、また『繁殖』で増えるということを繰り返してここまで来た頼もしき援軍たちだ。
これで時間を掛ければ流石に見つかるだろう……と思っていたのだが。
「ま、マジか。数時間かけて19階層を全域を回ったのに……鼠1匹通る穴すら見つからない」
「きゅう~」
くそ、トップ層が未だに見つけられなかった事実を甘く見ていた。正直この人海戦術で手掛かりぐらいは出てくるだろうと思っていのだが完全に当てが外れた。
「ここまで無いとなるともしかして別の階層に入り口があるとか? でもそれだとなおさらヒントが無理じゃ……」
「きゅ!」
「どわ!?」
中々掴めない20階層の在り処について悩んでいるとファストが脇腹を蹴って俺を横に突き飛ばす。その直後に頬を撫でを風切り音。
「っとと。あっぶな! ありがとうファスト」
「きゅう!」
「あはは、悪い油断してた。それよりこいつは……エリートモンスターか」
カブトムシのような硬質な黒い甲殻、同じ材質のカマキリの鎌。虫のみたいな特徴とは対比して人間的な足と胴体。無機質な複眼が着いた顔。
『ノースライン』11から19までに出没するエリートモンスター、
「あくまで真っ向勝負ならな。ファスト俺の後ろに隠れてろ」
「きゅう」
エリートモンスター対策は既にしてある。それに結構金が掛かったから寧ろ現れてくれて良かった。
「まずは氷結弾のプレゼントだ。受け取れや、拒否権はなしな!」
広範囲に水属性攻撃をばら撒く使い捨ての爆弾アイテムを起爆させる。洞窟フィールドのダンジョン内は狭小で冷却を含んだ霧が広がり敵だけでなく俺にも被害を及ばせる。
「だが俺は大地術士。水とは相性がいいんだよ」
《イデアールタレント》の属性関係図は……
火→風→土→水→火
※矢印を指す属性に強い。
……となっている。防御の属性すら土に変わる大地術士は水属性には滅法強いのだ。実際のところ氷結弾で俺のHPは1割も減っていない。これならHPポーションをちびちび飲むだけで死にはしない。ファストも魔法で壁を作り体を盾に守ったので無傷。
インセクトマスターは逆に火と水が弱点だから今ので全身霜が降って、かなりのダメージを負っている。
「で、当然死にものぐるいで反撃して来ると」
躱せない以上長期戦はやつに不利しかない。なら短期決戦で決める。当然の判断だ。
「守りに入った大地術士を崩せれば、だけどな」
鎌の腕を振り被り捨て身で突っ込んでくるインセクトマスター。それに対して俺は杖を振り土の壁を作る。
次の瞬間壁を紙切れ同然に切り裂いて体当たりに繋ぐインセクトマスターだったがそこに既に俺はない。壁を作ると同時に地面をベルトコンベアみたく動かし体を横にズラしてたからだ。
盛大に空振ったインセクトマスターにまた氷結弾を投げてつける。それで俺の位置を捉えたインセクトマスターはまた突貫して来るが今度も壁を生み出しその隙きに居場所をズラす。
そのような攻防が何度となく繰り返し、位置をズラす場所を前後左右、なんなら地面や天井なども利用して動きを読まれないように務める。
「ゲームを始めたばっかりの頃はこんな出来なかっただろうな」
好きこそものの上手なれと言うが、これも毎日ダンジョンで魔法をいじくり回した成果だと思うと感慨深い。少なくともここでいくつかのスキルで自己強化しているインセクトマスターのスピードに負けずに高速で魔法を放てるのは弛まぬダンジョン管理のお陰なのは間違いない。
「うーんにしても。なんだろこの違和感?」
「きゅう?」
さっきから妙な感じがするんだよな。魔法でダンジョンの外壁を操る時になんとなくこう、ここが変だなって部分が目につく。それが何なのか言葉に出来ないが間違く何かがおかしい。
「ってそんなことより、今は戦闘に集中集中! ファストそろそろ出番だぞ!」
「きゅう!」
インセクトマスターのHPは度重なる爆撃でもう1割をきり体も氷結の状態異常を起こして動きが鈍っている状況。これなら俺が補助するファストの空中機動には付いてこれまい。
インセクトマスターを囲むように石柱を生成。そこにファストが飛び込み柱を足場に宙を舞い、槍のように突貫する。インセクトマスターももう逃げられないと悟り鎌でのカウンターを狙うもそう問屋がおろさない。
ファストがやつと接触する前に細い石柱を跳躍の射線上におく。それだけでこちらの意図を察したファストは細い柱を足を載せ軸にして回転しならカウンター軌道から逸れる。
そのまま勢いに乗ってインセクトマスターの背後に回り、背中からやつを粉々に蹴り砕いたのだった。
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