第28話 《かご鳥の導き》ー3
眩い光が収まると、突然の発光に目をやられた組織員たちと何故か無事な俺とトゥエルお嬢様が浮かび上がる。状況が上手く掴めず呆然としていた俺の手を掴んだトゥエルお嬢様とまた走り出す。
「何がどうなってるんださっきから」
「詳しい説明はあとにして、今はここから逃げるんでしょ。まずはこの鏡を見て走りながらでいいから」
そう言われてトゥエルお嬢様の顔の前を先導するように飛んでいる鏡を覗く。そこにあったのはこのアジトの隠し通路含む見取り図、人の配置、物の配置まで周辺ありとあらゆる情報が映し出されていた。
一言だけ言わせて、何このチートアイテム。
「え、これこんな効果あったけ」
「ないわよ。これだけだとね」
「じゃあなんで……?」
「これには私の魔法を付与してるの、形が変わったのもそのせいね。家の中でも私にしか出来ないんだから。むふー」
何その見事な凄いでしょって言わんばかりのドヤ顔、かわいいかよ。まぁそれほどもあるから納得感しかないが。
「なるほど……だから闇爺さんが失礼のないようになんて言ったのか」
まるで闇ギルドの天敵みたいな能力だ。そして味方なら闇ギルドとってこれほど頼もしい能力もないだろう。
でもこんな隠し要素があったなんてどの攻略サイトでも見た事がない。ってことはもしかして俺が初見、なのか?
「いやいやプレイ人口数万人はあるんだぞ。そんなまさか」
「なーにまたぶつくさ言ってんのよ。ここからはあなたの仕事でしょ大地術士」
「っ、そうか!」
そこではっと気付く。確かにリアルタイムでこんなに正確に内部構造を知れるなら……。
「まずはこっち!」
走っていた通路の壁と床に魔法を使い道を開ける。当然それを追って組織員が追ってくるが。
「そこ罠だよ」
「え」
「ぎゃぁぁああッ!?」
連中が俺が開けた壁を通った瞬間その場の床が下斜めに下がり滑り台になる。しかも床の開いた下は傾斜のある隠し通路がある。大の男共がそんな坂に転がり落ちればどうなるか言うまでもあるまい。
どたんばたんと音を鳴らしながら悲鳴を上げて転げ落ちる組織員を背にその場を去っていく俺とトゥエルお嬢様。
それからも何回か同じ手で追手を撒きながら俺たちはアジト内を奔走する。
「あはは、見ろあいつらまた嵌ってやんの。中々愉快な気分だ!」
「きゃはは、やるじゃない。しかもなんか手慣れてない?」
「罠は得意分野だからな」
なんだかんだ忙しいかろうが毎日ダンジョン拡張・改修に勤しんでいたんだ。罠とか消費される毎に張り替える必要があるから嫌でも慣れる。ま、だからこんぐらいは出来て当然ってことだ。
「この調子でどんどん先に行くぞ」
「ねぇ、ちょっと寄り道していかない」
「は? お前また……」
「正直言ってね私もムシャクシャしてたのよ。親や使用人たちにあなたの力は貴重だから狙われやすいからあれはしちゃだめだの、ここは危険だのって小言ばっかり言われて。それが窮屈でだから家を飛び出したの……で、このザマよ」
「……」
「そりゃ最初は後悔したわ。こんなことならちゃんと言いつけを守ればよかったなって。そっちが私にとって賢い生き方なんだからそうするべきだって。だから最後にここに……多分家の依頼で助けに来るあなたにやりたいこと全部ぶちまけてやろうと思ったのよ。鏡なくても私の魔法で来るのは分かってたからね」
なんつー迷惑な。あのワガママ放題はそういうことだったのか。
文句のひとつも言ってやりたいが……そんな寂しいそうな顔されちゃそれも言えない。だから俺に出来てたのは悪態で誤魔化すことぐらいだった。
「要は俺はトゥエルお嬢様の思い出作りに利用されたと。将来はとんでもない女になるな、これは」
「もう、なによそれ。あとそのお嬢様さまってのやめなさいよ。なんかあなたに言われるとむず痒くなる……これからはエルでいいわ」
「お、おう」
「なに嫌なわけ?」
「いや……まぁいいか。じゃあこれからエル、で。一応俺はプレジャな」
「うん、よろしくねプレジャ」
NPCの幼女相手に変な感情など湧くはずもないが……いきなり女の子を愛称呼びは流石に動揺した。ゲームのキャラを尊称で呼ぶのも恥ずかしかったので別にいいのだが……俺はいつから紳士たち向けのラブコメ世界に迷い込んだのだろうか。
「それであなたが予想以上に素直なものだから、途中から私何やってんだろうなってね。これ以上初対面の人に迷惑かけるのも悪いしもう帰ろべきだって……」
「で、逃げてる間に気が変わったと」
「ううん、そうじゃないけど。ただここで諦めるのが惜しくなったから……思いっ切り遊んでから帰りたくなっただけ!」
「結局ワガママだな、お前……ったく」
そんなこと言われりゃこっちも頑張りしかないだろ。あと何より。
「俺もまだ今日はまともに楽しいんでないんだ。こうなれば付き合ってやるよ、どことんまで」
「そうこなくちゃ~♪」
もうスニーキングとかやめだやめ。ストレス解消ついでだ。無駄に苦労させやがったこのアジト、今から徹底的荒らしてやら!
◇ ◆ ◇
それから数時間後。
「ヒャッハー!」
「きゃははは~」
混沌……今のこのアジトを表すならこれがびったりだろう。
壁は穴ぼこだらけになり、通路はめちゃくちゃに混ぜられ、柱は曲がりもはや原型は掴めそうもない有り様。こんな状態でも崩落せずにいるのは構造を精密に伝えるエルとそれを元に修正補強する俺の魔法があるからだ。
なんでこんなことしてるかって? 特に意味はないムシャクシャしてやった。それに尽きる。
「こ、こいつら好き放題やりやがって」
「俺らのアジトが……」
「テメーらただで済むと思うなよ!」
とは言え……こんな状況だからもうアジト中の人員が俺たちに集まっている。正直アジトを文字通り丸裸したから中にある珍しいものは全部見れた感じだ。玉兎たちにも協力させて隅々まで調べたから見逃しは流石にないと思われる。
「どうするエルまだ見たいものはあるか!?」
「そうね……なら最後に空がみたい! ここ家の屋敷より高いからきっといい景色が見れると思うの!」
「了解!」
最後、か。それはこのクエストの終わりをも意味する。この子とももう会えないかもだし……シメはもっと派手に行くとするか。
「俺に掴まれ」
「う、うん!」
俺が手を差し出すとエルが手を掴み体にしがみつく。しっかり固定されたか確認した後全力で魔法を発動。建物を材料に足場をせり出させて屋上まで一気に登る。
「わあああ! すごーい、すごいわ!」
「ああ、こんなの俺も初めてみた」
巨大な山が連なり、その間を雲が橋をかけてそこを縫うようにして広い滝が轟々と流れ落ちている。それが全方位を滝で出来た湖を囲んでおりこのアジトは水飛沫の虹とともに湖の真ん中の島に建っている形だ。
なかなかにして幻想的な場所だ。こんなところに犯罪組織が潜んでいるなんて誰も思うまい。
「プレジャ、今日はありがとう」
「楽しかったか」
「うん! あなたこそどうなの?」
「……ま、俺もそこそこ楽しかった!」
その景色に妙な充実感を感じながら俺は笑って答えた。多分エルもそうだと思う。
「そっか、ならよかった。じゃあまたどこかで合いましょう」
彼女のその言葉をきっかけに景色が歪み……収まる頃には俺は闇ギルドに移動させられていた。
「あ、そっか。鏡とエルを外に出したからクエストはクリアか」
そこになって漸くそのことに気付く。どうやら俺は想像以上に夢中になっていたらしい。
「また会えるといいな」
そんなあるかないか分からない未来を夢想しながら俺は静かに目を閉じて感傷に浸るのであった。
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名前:プレジャー ランク:★★
セットジョブ
大地術士LV10☆:『魔法・大地』
密偵LV10☆:『擬態』
*装備
上衣:増魔のローブ
下衣:増魔のサルエル
武器:地脈の長杖
装飾:親愛の証
装飾:地属の琥珀輪
所有ジョブ(残り枠0)
大地術士☆
従魔(眷族2/3)
ファスト・蹴兎LV30☆
クイーン・女王兎LV30☆
1Fグループ・TN300
ボールグループ・TN100
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