第27話 《かご鳥の導き》-2

初めの頃に言ったと思うが俺は基本陰キャだ。ゲーム内では意図的にテンションを上げてそこそこ陽気に楽しめているが教室だと隅っこに縮こまっている存在。


そんなやつが気の強い女子に命令口調で何か言われたらどうなるか?


「こっちについて来なさい」

「あれ面白そう!」

「遅いわよ、早く早く!」


「……はいはい、わかりましたよ。はぁ」


ご覧の通りである。

俺含む内気な陰キャは大体この類いの女子が苦手だ。大きな声で何か言われるとなんでもなくてもピクッとなるしものを強く言われると物事を否定、拒否しづらくなる。


トゥエルお嬢様はその全ての要素を持ち合わせた典型的超ワガママご令嬢だった。犯罪組織のアジトという普段の絶対に来る筈のない場所の何もかもが珍しいのかやたら目移りしてふらふらと放浪を続けている。彼女からするとここは何が出るか分からないびっくり箱みたいな感覚なのかも知れない。


俺はそれを宥めてここからこのワガママご令嬢を脱出させないといけないだが……うるさいとか黙ってとか言われるとつい萎縮して言葉が詰まる。結局トゥエルお嬢様の言いなりになって『擬態』でバレないようにサポートしながらワガママを聞くかままになっている。


「なんでこんなことに……」

「何ぶつぶつ言ってのよ? 次はあっちだからさっさと来なさい。置いてくわよ!」

「はいはい。……はぁ~」


その後もアジトの屋上で景色を見に出たり、武器庫を覗いたり、組織員の溜まり場に入ってうっかり見つかりそうになったりと色々とあった。トゥエルお嬢様俺を振り回して回るのがよっぽど楽しいかったのか途中から随分と上機嫌だ。こっちはクエストの段取りが台無しなったってのに目出度いことだ、まったく。だからか、つい口から益体のない愚痴が漏れた。


「何がそんなに楽しいんですか、お嬢様」

「はは、楽しいわ! だって屋敷の外をこんなに自由に闊歩するなんて、普段なら絶対に有りえなかったもの」

「そりゃ良かったですねー」

「そういうあなたは楽しくなそうね」


誰のせいだと。そもそもが俺はゲームでこんなストレス受けてるんだ?

こんな悩むは現実の教室だけでゴリゴリだってのに。もういっそのこと無理矢理にでもこいつを連れて……。


「はは、そりゃそうよね。あなたは私を助けに来たんだだもの。こんなことしてる場合じゃないのよね……あなたも私も」

「トゥエル、お嬢様?」


今までワガママ放題だったトゥエルお嬢様の唐突のしおらしさに先の思考がとまり疑問が生まれる。なんだ今の言動は。そういえば最初にあった時もまるで俺が来るを知ってた風だった気が……。


とその時に遠くから響く不規則な沢山の足音。これには聞き覚えがある、それもクエストの予習で見た攻略で散々と。


「んな!? 発覚イベント、そんなはず!」


今も、どこでも見つかるヘマはしていない。というか発覚イベントは見つかったその場で即座に起きるもののはず。いったいどうなっているんだ? ここに来てイベントフラグのバグか?


「ええい、こんな理不尽で失敗してたまるか! おい、逃げるぞお嬢様」

「え……ちょ、優しく引っ張りさいよ!」

「無茶言うなこっちも必死なんだよ!」


今日はとんだ厄日だ。苦手な相手に散々扱き使われた挙げ句こんな形でクエストが台無しになるなんて。これ以外にもこっちは色々と忙しってのに、もう。


「待ちやがれ!」

「あっちに行ったぞ、てめぇら囲め囲め!」

「野郎はぶち殺せ、小娘だけは出来るだけ無傷で捕らえろいいな!?」


とか喚きながら追ってくる組織員の群れを土属性の魔法で障害物を作りながら遅らせる。それで一瞬足は止まるが直ぐに数の暴力で蹴破られほんの足止めにしかならない。

しかも出口側に逃げようとしても先回りされどんどん奥まってところに誘導される感覚がある。相手のテリトリー内で逃亡戦とかそうりゃそうなるわ。俺も自分のダンジョンでたまにするもの。


「だぁー! 攻撃しても無効化されるしこのままじゃマジで詰む」

「ねぇ」

「なんだよこんなクソ忙しい時に!」

「私を差し出すなりなんなら囮にすればあなただけでも助かるわよ?」

「んなこと出来るか! こんな時ぐらい黙って付いて来い」

「っ! どうして」


どうしても何もお前が捕まってもこっちはクエスト失敗なんだよこんちくしょうが。でもそんなことをNPC相手に言っても意味ないしな。

ただまぁ、それだけなら別に再挑戦してもいいわけで。だから、こいつに言えるそれ以外の理由があるとしたらそれは……。


「もううんざりなんだよ。どうしようもない、こんなの無理だって諦めて窮屈に生きるのは。だから誰がどう言おうがあいつらからは逃げるし、お前も助ける。そうしないと今日俺がぐっすり眠れない!」

「……なんか考えはあるの?」

「ない! お前のワガママとかこの状況とかムシャクシャしてやってるだけだからな!!」

「ぷっ……あははっははー! なにそれ、本当にバカなのねあなたって」

「バカで悪かったな! しかも小心者で何かと気掛かりがあると無駄なことごちゃごちゃ考えちゃうからこれからもこんないきあたりばったりばっかりするだろうよ。こんなだからどうせ賢い生き方なんじゃ出来ないんだよ俺は!」



自分の背の半分もない幼女NPCにバカって笑われた挙げ句に喚き散らす。情けなすぎて涙も出ねーが気分はだけはスッキリしたぜ、わっはは! もうどーうにでもなれ。


「でも私はさっきのビクビクしてたあなたよりも、今のあなたの方が好きよ!」

「は? いきなり何言って」

「仕方ないから私が手伝ってあげる。鏡を出しなさい持ってるんでしょ?」

「え?」


なんでそれを知ってるのか、なんのためにだとか予想外過ぎる指示に困惑しきりの俺の背中にいつの間にか回り込んだトゥエルお嬢様は……。


「もうほんとにどんくさい人ね。背中のそっれ!」

「あ!」


……ひょいと、このクエストのキーアイテムである不気味な鏡を取り上げる。トゥエルお嬢様が巻いていた布を取り払うと出てきたのは当然目玉の付いた不気味な鏡……ではなく黄金の宝玉を中心に伸びた真っ白な天使の羽を模したレリーフで縁取られた美しい鏡が出できた。


啞然と見るしかない俺を他所に鏡はトゥエルお嬢様の前に勝手に浮き上がり顔の高さでぴったりと停止する。それを見た彼女は微笑み鏡の縁を優しく撫ぜながら唱える。


「出番よ、アリエル―― 


―― トゥエルお嬢様がそう言った瞬間、世界が光に包まれた。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る