第26話 《かご鳥の導き》ー1

測定士を得てから数日後。


「ではこれで任務は正式に受理された、後は向かうだけでよい」

「そうか。ではすぐにでも行くとしよう」


闇ギルドのある部屋の一角。薄暗い照明だけが照らすそこで男と老人が怪しいげに会話を交わしていた。まぁ俺と闇ギルドの長通称“闇爺さん”な訳だけど。

普段と違うのは少し尊大な性格を演じてるぐらいか。ゲーマーたるものNPCによって性格ロールを使い分けるぐらいは出来ないとだからな。最近のAIは受け答えの仕方で対応が変わるぐらい普通だからこれは結構重要なプレイヤースキルだ。


「ま、そんな気張らず気楽にのう。落とし物探すついでにただ迷子のお守りをするみたいなものじゃよ」

「抜かせ、腹黒ジジイめ」

「ほぉっほぉっほぉ」

『転職(タレント)クエスト・2nd《かご鳥の導き》を受注しました』


闇爺さん相手のロールのコツは強気で隙きを見せないこと。特にこのジジイは少しでも弱気を見せれば好々爺とした笑顔で難題吹っかける来るから要注意だ。クエストが達成不可まで難易度が上がって泣かされた犠牲者は数知れないとかなんとか。


「ああ、最後にぐれぐれも失礼のないようのぅ」

「? ああ、分かっている」


闇爺さんの最後の言葉に違和感を感じながらもクエストを受けて即座に転移させられた。


所変わってここはある犯罪組織のアジト……にある牢獄。

この密偵の2次転職クエスト《かご鳥の導き》はここにある物と人物を確保しバレずに抜け出すこと。俺はそのために敢えて捕まって潜入したってのが大まかな背景らしい。

まぁ実際はその部分は省略されてるけど。ここの運営がジョブ関連で手を抜くのは珍しいと思って調べてみたら、どうも表現的に規制に引っかかて仕方なくカットしたんじゃないかとの噂だ。


「ではまず牢屋から出るか。と言っても……」


牢屋の扉は普通に開いてる。設定では別の工作員が開けて帰ったということになっている。本来ならその工作員とのそれっぽい絡みとかあったのかも知れないな。そう思うと背景が丸カットされたのは少し残念に思う。


「ひっろいな。ここの生成ハズレか」


《かご鳥の導き》の使われる組織のアジトは受けるたびに構造がランダムで生成される。だから場合によってはあっさりと目的地まで辿り着けるが、もし構造が複雑なのを引くと一日中迷うなんて事例もある。


「おっと」


向こうからスキンヘッドの組織員がガン飛ばしながら来ていたので『擬態』を発動。ここでもし見付かったら一発アウト、数百を超える組織員どもにボコられて即死亡からのリトライ確定だ。なので道中で見かけた別の組織員に化ける。


「ちーす」

「おつかすでやす!」


で、俺を見たスキンヘッドに気さく挨拶した90度お辞儀が返ってきた。あ、これ俺が上役か。ん、そういうことなら。


「おう、お疲れさま。変なところなかった?」

「今んとこ異常ありやせん」

「例のお嬢様のとこはどうだ」

「そこも異常ありやせん」

「そうか。あー今はどこの入れといたんだっけか?」

「は、今は……のとこでやす」


よし、いけた! これで救出対象の場所特定。あとはブツの方だが……それはこいつは分からないそうだ。これ以上話すとボロが出そうだったんでスキンヘッドを労ってから一旦その場を離れる。


どうやって探したものか

このまま無闇に歩き回るのは論外。さっきの作戦は……リスキーすぎるか、ここの組織図とか分かんないし。ってなるとあれしかないか。


「ほら玉兎たち出番だぞ」

「キッ」「キキッ!」


玉兎、繁殖兎が一定数空腹なったら進化可能になる1段めの進化形態だ。ただし強くなってはいない寧ろ進化前より弱くなってるぐらいだ。


ただそれを勘案しても取るべきメリットがこいつ等にはある。それはとにかう小さいこと。それこそ鼠ほどのサイズしかなく体毛も暗めだとかなり見えにくい。


普段の戦闘には使えないがこういうミッションにはうってつけだ。このクエスト従魔でも見つかると何故かプレイヤー本人までその判定を食らうからファストとかも置いて来るしかなかった。あいつ真っ白でめちゃめちゃ目立つかんな……。


「キッ」

「お、あったか。どっちの方向だ。首で指してみ」

「キキッ!」

「そっちか。救出対象とは……逆方向だな」


ならまずは物のほうを取りにいくか。人物の方はあまり長く連れてまわるのは……出来ればしたくない。


「物を取ってからアレを連れて速攻で抜け出す。うん、それでいこう」


玉兎たちに案内させて物ある場所に向かう。たまに自分たちしか通れない穴や通気孔とかを示されて修正しながらもどうにか物がいるという保管庫に着いた。


「あった。この鏡がそれだな」


やたらリアルな目玉の装飾が頂点に配された不気味な鏡。効果としては真実の姿を映すという……要するにラーの鏡みたいなやつだ。実際に今も『擬態』で見た目を変えてる俺も鏡の中では普段通り魔法使い装備の根暗そうな男のままだ。


「情報通り化粧台のやつぐらいの大きさだな」


このままだとこっそりは持ち出せない。ここの特殊エリアじゃインベントリが使えない。ま、その為に『擬態』あるんだけどな。


うっかり映らないように持ってきた布で包んでから『擬態』を掛ける。これで背負うと周りにはバックパックしか見えなくなったから気にせず持ち歩ける。


「で、後はアレの救出か……」


嫌な予感をひしひしと感じながらも例の人物……ここに拉致されている闇ギルド支援者の娘の居場所へといく。


そこへ着くとかなり厳重な扉で封された部屋があった。上にある小さな鉄格子を覗くと色鮮やかなドレスを着こなし、腰まで伸びた長い銀髪をおろした……幼女がいた。

このいかにも貴族の子女って格好のお嬢様が今回クエスト《かご鳥の導き》の要であるトゥエルお嬢さまだ。


さて本来ここでこのお嬢様を助けるにはアジトのどっかにある鍵を持ってくるか、抜け道を探すかする必要があるんだけど。


このアジトの主要建材は石。そして俺は地を操るエキスパート大地術士だ。こんな所に人ひとり分の抜け穴をバレずに作るなど造作もない。


問題はここからだ。とにかく巻くしたててアジトの外に……


「ようやく来たのね。遅いわよ!いつまで待たせるのよこのグズ!」

「あ……?」


瞬間俺の中の時間が凍り付いた。





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