第2層 躍動編

第25話 測定士

現実世界、部屋のパソコン前で《イデアールタレント》関連情報を見ながら俺は真剣に今後について悩んでいた。


昨日はランクアップクエストも無事終わりストレスも蟠りも少しは解消出来た。が、それで問題が解決した訳ではもちろんない。


「でもどうするか一応アイデアが出たんだよな」


問題は俺に実現可能かどうかだ。

イメージはやはり俺の知る限り白兵戦最強のモルダードのスタイルを借りれないかということ。それが出来れば10層という節目のボスに相応しい強さになれると思う。所有ジョブとセットジョブの枠は増えた。だからそこに入れる、ボス作りのためのジョーカーを探す予定だ。



後リアルの方の金だが……もしかすると宛が出来るかもしれない。まぁこれは計画がある程度上手くいった前提のやつだから今は考えないよにしよう。


「今月……あと1週と少しか? この間にどうにか手を打つ」


とにかくジョブだ。何をするにも新しいジョブが要る。

そもそもがだ。俺がキメラを作るのに苦労している最大の原因はなんだ。そんなの分かりきっている。


「単純に……俺の手際が悪いからだな」


作るのがオリジナルじゃければ、他の属性魔力が使えればここまで深刻な実力不足には陥っていない。運営もそこら辺の調整はちゃんとしている。言わば俺はもっと強い個体を作るために縛りプレイしているようなものだ。


そうじゃないと俺には意味がないのだからそこは仕方ないだが……せめてその手際を良くする方法が必要だ。


「何か、なにかいいジョブはないか?」


まとめサイトの既出ジョブが書かれたリストを穴が開かんばかり見ながらスクロールしていく。そうやって何百もあるジョブとその詳細を見て比べてとしてそろそろ疲労がピークに達しそうな時にあるものが俺の目に止まった。


測定士……読んで字の如し色んな数値を測定するジョブだ。ただしこれで人の能力値とかを鑑定したりは出来ず周り温度とか毒の有無とか地盤の強度だとかそういうのを正確に図る数値化する生産補助のジョブのようだ。


これを見て俺はピンときた。俺の『錬金術』主に薬剤を魔力の代わりに使う。そして俺が一番間違うのがこれ薬剤の投与量といっても過言ではない。だがもしこのジョブでキメラとって有害な薬剤濃度とか分れば……。


「よし、ダンジョンの改築にも役に立ちそうだしこれに決めた。なら思い立っだが吉日。今すぐにログインだ!」


ベットにダイブし素早くヘットギアを装着してログイン。


「ファスト来てそうそう悪いけどすぐに立つぞ」

「きゅう?」

「目的地生産の街イーストワンだ!」


生産の街イーストワン。実際は中央の最初の街から東側マップを出て初めてぶち当たる街なだけでそういう生産の街って名目はない。だがここは中央から同距離にある他3つの街の中でももっとも生産者系ジョブ関連の設備が整っている場所だ。


ちなみに他は西が戦士で南が魔法使い関連の場所になっている。北は少し特殊で運営管轄の大型ダンジョンを抱えた迷宮街が待ち構えているという。現在のトップ層はここのダンジョンかそのマップの2ndステージ後半を中心に活動している。聞いた話によるとβ版から変更されたせいでどっちもボスの居場所が特定出来ないとか。


その中で一番目立っているのはやはりあの攻略クラン『Seeker's』だ。そこに『快食屋』ももうすぐ加わるとの噂もある。


と、考えてるうちにイーストワンに到着。まとめサイトによるとここの建築ギルドで転職クエストを受けれるそうだ。


「失礼します。ここが建築ギルドですか?」

「おおボウズ、ここが建築ギルドだがなんか用か!」


建築ギルドに入ると受付には如何にも職人って感じのねじり鉢巻をした筋肉ムキムキのおっさんが出迎えいた。周りにも設計図や家の見本だのが整然と飾ってありここが建築ギルドだというのを強く主張している。


「測定士の試験を受けに来たんですが……」

「お、そうか! 殊勝だなボウズ、最近の連中は魔法、魔法ってそればかりだってのによ」


だろうな、魔法で加工が出来ない生産ジョブでも無属性の魔法で空中に光の線を引いて仮設置みたいな事もできるから細かな測定なんぞ使わずとも出来る。そもそも最初からシステムサポートもあるので《イデアールタレント》の測定士はかなりのマイナージョブ。だから今測定士を持ってるのは余程建築地に拘りがある人だけだった。


「っと、これが試験をやる場所だ。頑張ったこいよボウズ!」

『転職(タレント)クエスト《ハカリの学徒》を受注しました』


こうしてクエストを受けて意気揚々と試験場所に来たのだが。


「地味」

「きゅう」


クエスト内容は空気成分測定、地形測定、有害物質測定をそれぞれ100回をすること。ただこれがイベントアイテム測定器で測って記録して測って記録してを只管に繰り返す作業ゲーだ。あんまり使われない、転職クエストは面倒で地味、そりゃ人気も出ないわな。


暇そうに毛繕いを始めたファストに癒やされながらも作業は続く。

同じ場所、物は計測してもカウントが上がらないのでいちいち移動しないとなのが更に面倒い。


しかもこの試験場特殊エリアなのか一切モンスターが出ない。ただただ数字とにらめっこするだけの時間が続ていく。だからって気を抜き過ぎると有害物質測定でうっかり毒とか吸うので油断は出来ない。


そうやっていい加減眠くなって来るまで測定器と格闘した頃。


「やっと終わったぁ!」

「きゅう!」


何時間掛かったんだいったい……。朝に始めたのにもうちょっとで昼だぞ?

遅くなったことで急いで建築ギルドを訪れクエスト完了を報告する。


「遅かったじゃねーかボウズ。その顔を試験が相当堪えたとようだな!」

「ええ、お陰様で……」

「がはは! そうかそうか。どうであれこれで試験は終了だ。これからも頑張れよ」

『転職(タレント)クエスト《ハカリの学徒》をクリアしました』


とにかくこれでクエストをクリアして測定士のジョブを得た。早速セットしてからダンジョンに戻りキメラ作成を試してみる。


「これすげー……どのぐらいの濃度で悪影響が出るかはっきりと分かる」


測定士のスキル『測定』を使ってみた感想は今までの『錬金術』まるで別物だとうこと。この薬は何グラムまではいいのか、どこにどんな成分が悪影響を及ぼしているかそういうのが一発でしかも正確に分かる。あとは出た計測結果に従って作業を進めていけば間違いないって寸法だ。


「はは、なんだこれ。サクサクくっ付いて超楽しい!」


今までにない手応についつい有り余る素材で無駄なものまで作ってしまった。足が6本ある兎、頭が2つある兎、筋肉が増強されやたらムキムキな……兎。

うん、これはだめだな。いい加減新しいモンスターをダンジョンに招かないと。素材の偏りが酷いことになる。6階層からは雰囲気もガラッと変えたいしな。


だた定期的に数は確保しないとだから『繁殖』スキルは必須条件。となると。


「えっと確か『繁殖』のスキルを持っているのはモンスターは……」


メニュー画面から外部サイトに繋いで検索してみる。


するといくつかがヒットした。殆どが大体亜人か小動物型のモンスターだけど。

それに基礎スペックがやたら低いやつばかりだが……まぁ俺のダンジョンならそんなものは問題にならない。


「やっと本格的に始まろうとしてるな俺のダンジョンが」

「きゅう」

「そうだなお前もこのダンジョンの幹部クラスらしく進化させてやらないと」

「きゅきゅう!」


やることが多い。ボスのキメラ作成、ジョブの強化、ファストら眷属の進化にダンジョンの拡大まで。


「さて、この中で優先するべきかな」


俺はこれからの展望に思いを巡らしながら思案に耽るのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る