第136話 エピローグ そして祭りは始まる
視点戻ります。
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圧倒的な破壊がボス部屋を席巻し、俺と破壊不能もの以外をすべて消し去ったそのあと。
「ふぅ……今回は、中々いい感じに強者ムーブが出来たかな?」
客観的な評価は分からないが……まあ、どうにか圧勝を演出出来たし、そこは及第点ってことにしておこうか。
「それにしても……何度見てもとんでもない威力だな、これ」
今回使用した魔術は3つ。
まず最初に『陽火団』と例3人パーティーを木っ端微塵にした大規模破壊の魔術。
その名も流星魔術『スターリング』。
これの原理は……とか言うほど複雑なことはしていない。
いつもの魔法陣で光を集めてリング状の固体にしたあと、その中に空洞を作る。
この空洞は外気とは一切繋がらずに形成されたのだから当然ながら真空だ
さらにこの空洞の中に限界まで固くした石を魔法で生成する。そして最後に重力を弄り、中の石がリングの空洞を沿って落ちるように捻じ曲げる。
これらの魔法を魔法陣に紐付けてずーっと待つ。そして戦闘に使う時だけちょろっと制御権を俺に戻して撃つ。
それだけで流星魔術『スターリング』の完成だ。
ほら、難しいこと何もしていない。端的言えば、俺はただ石を作ってそれを落としてるだけだ。その単純な事象をちまちました魔法で捻って積み重ね、超質量爆弾に変えているにすぎない。
これを行うための魔法陣をヨグの協力の元で
つまり、これでこの杖……今は改名した『流星の天刻杖』と魔石とMPと時間さえあればいつでも『スターリング』の魔術が放てるという訳だ。ちなみに改名した理由はこの能力で増職の星杖はあまりにも味気ないと思ったからで大した意味はない。
この魔術『スターリング』の短所のひとつは威力を溜めるのにやたら時間が掛かること。だがこれは挑戦者を待ち構える立場の俺からすると大した問題ではない。
これからも俺の最大級の攻撃手段として大いに活躍してくれることだろう。
……という訳で大規模破壊を担当する流星魔術『スターリング』が生まれたのだ。
こういう小手先を上手いこと組み合わせるのがこそが魔術の真髄なのだよ、ふははは!
「なーんて……これぐらいしか俺が強くなる方法が思いつかなかっただけだけど、な」
俺の魔法の腕は……はっきり言って凡愚のそれだ。
まず要領があまりよくない。新しいことをやろうとするとかなりの練習期間を要するのがその証拠だ。
実際に俺よりもセンスのあるプレイヤー……例えば今の連中の中にだって俺が苦労して習得した重力操作などを一度見ただけであっさりとマスターした。
少なくとも、俺にそんな芸当は無理だ。
恐らく……いや、ほぼ間違なく普通に腕を磨くだけじゃ俺はそういう連中に比べて2段も3段も劣ったままおわる。
「だったら出来ることで、どう頑張れるかを探るしかない」
ただ単純なことを時間を掛けて用意し、ただ簡単なことを只管に繰り返す。
この程度なら俺でも心構え次第でどうにか出来る。というか、それすら出来なければ俺はそれまでの存在でしかないというだけだ。
「まあ、後ろ向きなこと考えるのはここまでするとして……やっぱ『スターリング』にはまだまだ問題も多いんだよね」
第1の問題は『スターリング』は破壊範囲に俺も巻き込まれること。実は先程も軽くHPが全損してティアで買った身代わりアクセで耐えただけなんだよな。
まあ、これを解決する案はすでにあるし、それの設計からして出来上がりが実に楽しみでもあるんだが……まだ少し先の話だ。
「何より……俺と同じく身代わり装備やスキルなどにも対応したものに改良もしないとだしな」
身代わりアイテム、スキルが貴重なのもあってか今回は運良くそういうを持っていなかったが、恐らく今後そうもいかない。
今のままだとただの一発屋だからな。出来ればと多段ヒット出来るようにしたい。
まあ、『スターリング』は本当に簡単な魔法の集合体だから、魔法のどれかを少しの応用するだけで簡単に改良出来るだろう。
次に『スターリング』完成まで魔法を長時間維持するためのコストだが……こっちはすでに解決している。
光、星魔石を出すモンスターの素材農場が安定生産を始めたからな。これで魔術に使う分だけでなく、階層の仕掛けを維持する分の魔石も問題なく確保出来る。
「まあ、最大の問題はこれが俺……というかプレイヤーが出せる最大のダメージって点だな」
《イデアールタレント》にはダメージリミットというものが存在する。
これは攻撃力による、地形、環境の破壊に制限を設けるシステムで、ゲーム内での破壊現象が不必要にマップを崩壊させゲーム進行を妨げさせないための処置だ。
俺が今やったように割と工夫次第で制限なく破壊力を跳ね上げられる《イデアールタレント》において、これは結構重要な制約だ。
ダメージリミットがなかったβ版初期の時はフリーのマップがぐちゃぐちゃになって先の街に辿り着けない、なんて事件が度々あったらしいからな。
ヨグ曰くこのダメージリミットを出して初めて一人前のプレイヤーを名乗れるんだとか。
「隕石以上の質量爆弾用意しないといけない一人前って……どんだけだよ」
つまりヨグからしたら、俺はようやくぺーぺーを卒業したばかりって扱いだということらしい。
うちのクランの先輩は随分と世のプレイヤーたちに厳しいようだ。
いや、ここからダメージ上げる以外で発展するにはもっと創意工夫が必要ってことでその意見も分かるんだけどな。俺もそれについて悩んでいたわけだし。
「この脚付けて貰った時も容赦なかったしな」
言いながら、今は機械のそれ変わった己の脚を見下ろしながらさっきの戦闘で使った2つ目の魔術を思い出す。
先程見せた精密飛行にも当然、仕掛けがある。
今現在俺の身体にはヨグの手を借りての改造が2つ施されていた。
ひとつは見ての通りこの機械の脚だ。この脚には航空力学にも造詣のあるヨグに色々な体勢制御装置を組み込んで貰っている。
ヨグに何でそんなのに詳しいのかと聞くと、自分の作る時に調べただけだそうだ。それで簡単に学べるものはないと思うのだが……俺とは頭のデキからして違うんだろうなぁ。
まあ、こっちの処置は“とある目的”のおまけみたいなものだ。そんな気にするものでもない。
本命のもうひとつは俺の全身に魔法陣を刻む施術。
こっちはアバターの改竄を可能とするヨグと『魔刻』を持つ俺が協力しての合作だ。
自分の身体に、特に見えず手が届かない場所に模様を刻むのは難儀したが、その辺の苦労を“身を以て”知ってるヨグのサーポートがあったお陰でどうにか完成まで漕ぎ着けた。
肝心の仕組みはただ俺が重心を一方に傾けばするーっとその方向に重力場が生じ移動しているだけ。高度を下げるにも腰を落とす、上げるにも背伸びをするだけ……と、かなり直感的な操作が可能だ。
身体がコントローラーのスティックになってるというのが感覚的には近いか。
それらの細かい出力調節を身体の隅々まで行き渡らせて代行しているのが飛行魔術『フライ』だ。身体に直接魔法陣を刻んだのも発生源が身体に沿っていると調整しやすいためがひとつ。
でも最大の理由は並大抵の手段じゃ魔術を妨害も破壊も出来なくするためだ。魔法陣の制御力を掻い潜るのはそもそも困難で、しかもアバターに深く刻んだ『魔刻』も通常同様その部分を粉々にしないと消せないからだ。
「他の真面目に飛行魔法鍛えてるプレイヤーからしたらほぼズルだよな」
下準備がそれ相応に大変ではあるが……言うなれば自転車にべったべたに補助輪を貼り付けてるのと同義だからな、これ。
この状態でも身体に合わせて未調整し、飛行そのものに慣れるまでよく墜落してたぐらいだ。
「そんな俺の何十倍は苦労してる人たちの気持ちを思うと……うん、別に何ともないな?」
悔しかったらその人らも魔陣刻士になればいい。持ってる俺ですら条件が皆目見当もつかないから普通は無理だと思うがな。
「で、こいつもいい感じに活躍してくれた」
最後の魔術……看破魔術『ディテクト』
まあ、御大層に言ってみたがこれはあの『真鏡』での広範囲探索を魔法陣で簡略化し発展させただけだ。
前は『映身』を組み合わせてそれっぽく真似るのが精一杯だったが今度は違う。
エルと同じく光属性魔法で周りに風景を写し取って『真鏡』に映す……という魔法の制御を裏面に刻んだ魔法陣に丸投げしたのが『ディテクト』なのだ。
お陰であの斥候の奇襲も余裕で気付けた訳だ。それに写し取る角度も自由自在に変えれるので俯瞰視点とかもお手のもの、なんなら好きな角度で視覚を置くことも出来る。
それに……これで不意打ちを喰らって何も出来ずにすべてがパーになるという、最悪の事態は避けられのも大きい。
何気に一番危惧していた展開だから、それを封じれる手段が手に入ったのはありがたい。
「『真鏡』に『魔刻』を使うってのは単なる思い付きだったが……まさかここまで便利なものに化けるとはな」
正直、『真鏡』はノースラインの時以来、使い道に困っていたのでここに来ての大化けはかなり嬉しい。俺の戦闘ビルドに鏡面士は必ずに入るからな、そのスキルが使える使えないだけで差異は大きい。
その時に決まった『流星の天刻杖』の追加オプションも上手く機能しててよかった。
もしもの接近戦用に使うため、石突きに少し分かりづらいように模様の陣を散りばめた結果、局所にデタラメに魔法をばら撒くいう魔術とすら呼べない何かなったものだが……これが重力操作と組み合わせると意外といい感じに撹乱になるみたいだ。
まだ不安は残るが……これからは接近された時には上手く活用していこう。
―― というわけで説明が長くなったが、『スターリング』『フライ』『ディテクト』の計3つの魔術が俺の新戦力となる。
「さて、脅しついでに今の様子と“あの告知”を動画にして流したら今日はもう……」
と、そこまで言った時であった。もはや少し聞き慣れたあのアナウンスが鳴り響く。
『《イデアールタレント》をプレイする皆様にお知らせです』
『本日、PN:メルシア様により
『これによりそのクエストの影響が本サーバーの一部のマップにも反映されます』
「おっと、『Seeker's』がHiddenMissionに挑戦してるのは聞いてたけど……このタイミングかぁ」
あのクランとも不思議な縁があるものだと、どこかしみじみと思っているとまだアナウンスは続いていたことに気付く。
『
『ワールドクエスト《イデアール・オブ・タレント》が進行いたしました・現在進行度1/5』
『これにより公式イベント、クラン
『開催日時、参加方法、その他詳細な要項などは公式ホームページを参照してください』
「へぇーそうなのか」
正直それを聞いた俺の感想はそんな気の抜けたものであった。
だって、素の実力を競う類の闘技大会だとか、作品コンテストだとかはまず勝ち目がないので参加しないし。季節や記念日などでよくある小規模のイベントもダンジョンに籠もって色々やってる身としちゃ参加する暇がないしな。
要はゲーム内の公式イベントとは基本俺とは無縁の代物なのだ。
なんかそれ以外にもワールドクエストがどうとか聞こえた気がするが……うん、今はやることが多いからそちらは完全にスルーで。
「唯一の楽しみ方はこうして賞品とかをウィンドウショッピング感覚で覗くことだけなんだよな~……………………え、こ、これは!?!」
苦笑を浮かべながらホームページにある《クラン対抗戦》とやらの報酬一覧を眺めていたその時に、その報酬一覧でとあるアイテムを見つけて暫く硬直し、それから大声で叫ぶ。
これは、何がなんでもこの《クラン対抗戦》に参加しないといけないなくなった。
それもただ参加するのではない。可能な限り上位の成績を収めなければならない。
ただそうなるとファストのあの件が片付いてないのが不安要素になるんだが……。
「ん?」
と、思っていた時。ワールドアナウンスとは別の、俺にとってこれまた嬉しいお知らせが届いた。
「はは、このタイミングでファストの方も丁度準備が整ったか。ならもう憂いることもないな」
次なる目標はクラン対抗戦イベント―― その報酬にある『土地の掌握券』を手に入れる!
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名前:プレジャー ランク:★★
セットジョブ
拡張ジョブ
魔陣刻士LV10☆:『魔刻』
*装備
上衣:断風の長ローブ(風属性耐性大アップ、PKにより獲得)
下衣:イリーガルレッグ(着脱不可:専用スキルを用いない限り自由に着脱出来ない)
武器:流星の天刻杖・セット『魔陣刻士』
装飾:身代わりの首飾り(残り回数1/2)
装飾:速魔の首飾り
所有ジョブ(残り枠0)
従魔(眷族3/3)
ファスト・混星蹴兎LV50☆
クイーン・鬼子母兎LV50☆
ペスト・
1F《上層》グループ・TN600
2F《下層》グループ・TN600
3F《海層》グループ・TN1000
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※備考
現在のダンジョン『
総階層数……15階層(内訳:1~10洞窟フィールド、11~15海中フィールド)
施工中階層……16~20階層(内訳:16~20階層?海フィールド)
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・追記
物語も次の展開に進出したということで、早いような気もしますが第2部新域開拓はここにて終了となります。
で、次の第3部集星激突はですが……少しお待ちいただくことなりそうです。
ストックの問題もありますが、最近やっと構成を練り終わってようやく本格的に書こうって段階なので今から書き溜め期間に入りたいんです。
それ以外にも最近全然数字が伸びないとか、タイトルも手を入れてみようとか、それ以外にも色々と考えたいことがあるので少し時間が欲しいんです。
明日、掲示板回を更新してから最長でも来週までには再開しますんで、どうかご容赦m(_ _)m。
最後に今までにフォロ、応援、★評価レビューをくれた皆様に誠にお礼申し上げます、そのすべてが作者の励みになっておりますのでこれからもよろしくお願いいたします!
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