第193話 本戦ー2日目・その7
「よーし、全員受け取ったな。なら次はピンに抜いて……」
投擲に自信のある、腕部が強化された怪人たちが持つ金属筒を見ながら現場指揮官たるフロックスリップが最終確認を行う。
「……投げ込めー!」
「おらー!」
「くたばれや!」
一斉にピンを外し、投げ込まれた金属筒は空中で破裂しながらキーンと高音と共に閃光を撒き散らす。
「ぐわあああ!?」
「め、目がー!」
「な、なんでー!?」
それに目と耳をやられた『陽火団』のプレイヤーたちが次々悲鳴を上げて目や耳を庇う。
「今のは、スタングレネードか?」
「それの進化版だ。魔石を利用した魔法式での制御で多少の障害なら避けて直接に眼球へ閃光が飛び込んだり、音波が障害を素通りしたりな。例えサングラスしてても無駄、半端ないゴーグルとかも僅かな隙間を縫っていくから一緒だな。」
「何ってか想像したら気色悪いな、それ」
「贅沢言ってんじゃねぇ。あれでも今即席で作った割にはかなりいい出来だぞ。これでも一番確実な対抗手段取ってやってんだろうが」
蛇みたいに這い回る閃光の様子を想像して蛙顔を器用に顰めるフロックスリップをヨグが怒鳴る。
実際に半端な目潰し聞かない彼らに対して、この場でアガフェルの『運技・神楽』に対抗する最も有効な手段がこれだったのだ。見栄えやイメージの話は贅沢でしかない。
「ちっ、結構潰せたがこれでも対処したのがいんな」
「さすが『陽火団』リーダーと言ったところか。魔法の扱いはお手のものだ」
「俺は属性補正ねーからな。制御力ではやっぱ負けるか」
それでも一部のもの……主にクラリスと彼女率いる魔法ジョブは殆どが難を逃れていた。
これはヨグが言ったように制御力の差であり、誰もが使えるように落とし込めた量産品と厳しい条件を潜り抜けた本職との差でもある。
こればっかりはゲームである限りヨグも覆しようのないルールなのだ。
「でも弾幕は薄れた。皆、今のうちに押し込めぇ!」
「おおうっ!」
それでも隙が出来たことに違いはないと、万雷が如くボティスの号令が鳴り今まで守りに入って焦れていた怪人側が進撃する。
だが、その出鼻は思わぬところで挫かれた。
「よっしゃ、もらぎゃああ~!?」
先頭を切る怪人が何気なく踏み地面から極彩色の光が溢れ、その下半身を容赦なく飲み込む。
後には空間ごと抉り取られたかのような地面と……それに巻き込まれた怪人の死亡エフェクトが残るのみだった。
「あれは、消滅属性!」
「地雷だ、魔法の地雷があっちこっちにいるぞ! 足元に注意しろ!」
『陽火団』の罠かと警戒する怪人たちだったが、困惑しているのはその『陽火団』とて同じであった。
「な、こんなの聞いてない!」
「なんでうちの拠点前に地雷があんの!」
「うわああ!?」
どうやら『陽火団』もこんな地雷があるなど知らなかったことらしく、怪人を迎え討つために出た一部に被害が出始めている。
「はぁ……今度はババアの方かよッ!」
争う両クランが揃って混乱する中、ひとりこの事態に心当たりのあるヨグがうんざりと天を仰いて叫ぶ。
「おい、どういうことだ! あれまさか、そっちの『魔王』の仕業か! 『金狐姫』に続いてこれだ、てめぇら実はグルで俺様たちをハメたんじゃ……」
「ああ? 他はどうでもいいが……ボスには寧ろテメェらが使ってる武器、弾、回復アイテムそれら全般の素材提供をして貰ってんだろうが。言っちまえばパトロン様だぞ、口に気を付けろってんだ」
「お、おう。いや、でもな……」
「そこまでにしろフロックスリップ。後は我が話す」
どうも初対面からヨグの印象がよくないフロックスリップが食って掛かるがボティスに宥められ場を譲る。
「我は、傘下の話はてっきりクランでの支援だと思っていたのだが……あれはヨグ殿の個人での支援という話しか?」
「ったりめぇだ、最初に“俺の傘下”って言ったろ。お前らとの同盟に関わったのははっきり言って俺とボスだけだ。ああ、先に言っておくとあそこにいるアガフェルだってクランとは関係ない勢力を侍らせてるぞ」
真っ先に個人の勢力を持つのはうちだと普通にあることだと、釘を刺しておく。
これは『
前例もあるとここではっきりさせるためだ。
「それにあの女狐とババアが、俺の個人的趣味なためだけに1銭たりとも出すわけねぇ。ったく、そのくせうちの女どもは便利な時にだかこき使いやがってよ……」
最後の小声で愚痴をこぼすヨグを見ながらもボティスは今一番確認しておく言葉を放つ。
「では、アガフェルとの戦闘及び処理にはついてはこちらの独断で何をしても問題ないか」
「それは出来るなら遠慮なくぶっ殺してよし! つーか俺もいい加減腹が立った。あのニヤケ面今度こそ直々にミンチして拠点に送り返してやらぁ!」
「それとそちらのボスと話した“あの件”に支障は……」
「ない。あの件は俺とボスがあれば事足りる。もし問題があっても言った手前俺が責任を持つ」
「ふっ、なら結構」
ヨグの答えで懸念材料は払拭されたボティスは再度息を吸い込み号令を発する。
「魔力感知に優れたものを先頭に隊列組み直せ! 少しでも怪しげな箇所は安全確保が済むまで近寄るな!」
「ふーん、スライムどもで漢解除とか言わねーんだな」
「当たり前だ。消滅属性の前にそれは意味がない」
「分かってんじゃねぇか」
消滅属性には一時的だが再生すらせき止める効果がある。
これを多用する某魔王曰く「恐らくそれがこの世界に存在するための何かしら、例えば肉体情報を保つ加護みたいなのを一時的に消してるのでは?」とのこと。
そしてその推理はある程度的を射ていた。
この世界は星という媒介を通し、神々の加護という名の力で構成されている。それは手があり足があり身体がある……という事実さえも加護よって成されているのが《イデアールタレント》の世界だ。
消滅属性は一時的とは言え、その加護すらも消し飛ばし空白とする。まさに“消滅”という名に相応しいものなのだ。
「にしても術者が見えんな」
「あ? ああ……言っとくがババアは最終日まで拠点に籠もってると思うぜ。あれは多分魔石での地雷だ。いつどうやって設置したかは知らんし、なんのため埋めてるかもしらんがな」
「消滅属性のか、それは不可能のはずでは……」
そしてその関わるあらゆるものを消滅させて霧散する特性故に、消滅属性は魔石という物理的な形で留めることは理論的に不可能であると思われていた。
「いや、悪い少し語弊があった。流石に消滅属性を魔石には出来ない。あれは確か4つの属性をくっつけただけ……と言ってたな」
「それも前にどこかで失敗したと聞いたが……そちらでは成功しているのか」
「そこまで俺も聞いてねぇよ。それは言えないね……とかババアがふざけたこと抜かしてたせいでな……あーもう、どいつこいつも引っ掻き回すだけしやがって! 迷惑ったらありゃしねぇ」
「まあ、うん。頑張りたまえよヨグ殿……おっと、言ってる間についに前線がぶつかったか。あれ以降は魔石地雷も踏んでいないようだ」
「そもそも魔石地雷はあんま数なかったみてぇだな。ったく、マジで何がしたかったんだ、あのババアは!」
ヨグが自由奔放過ぎるクランメンバーたちに苛立っていると、ボティスから朗報が届く。
ようやくかとため息交じりに言ってふたりが戦線に意識を戻そうした、その時……。
「―― さっきから妾のステージで無粋ですことよ。そこのジャンクとクリチャーさんたち♪」
「なぬ!?」
「てめぇっ……!」
……ゆらりと、夢幻の如く現れた金狐の姫がすると割り込んで来たのだった。
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