第141話 魔術開発ー防御

聖獣周回を行った翌日。


「前の周回では職業装備ジョブウェポンを2個もゲット出来たな。なかなかの快挙だ」

「きゅう!」


これら職業装備ジョブウェポンの扱いはある程度決まっているからいいとして……。


「暫くは魔術開発と改良に専念するか」

「きゅう」

「悪いな、ファストには進化、待たせて貰って」


ファストの進化も早く進めたいのだが……最後のシメの作業だけが未だに終わらないせいで現状後回しになっている。


ったく、後はいいだけなんだけど、いったいどこにいるのやら……。


「きゅ!」

「はは、気にするなったってか? 分かったよ。でもあとで必ずやりに行くからな、それだけは約束する」

「きゅー」


申し訳なさそうにすると、気遣うようにすり寄ってくるファスト。

……俺だけ焦ってても仕方ない、か。今はやれることからやろう。


「うーん……やっぱ最優先は防御用の魔術だよな。『スターリング』を撃つ度死ぬわけにもいかんし」


今まで通りに土属性で防壁を作る? 

確かに土属性は防御に向いた属性ではあるが、それを多少魔法陣で捻ったところで『スターリング』の威力を受け止められるとは考え難い。


それとも光の障壁の魔術か?

あれもな……。正直、純粋な強度は土や石の壁が上だし、込めた魔力MPが切れたら普通に魔術が解けて割れる。魔力を切らさずに注ぎ続ければ割れないかもだが……そんなの土属性魔法でも一緒だし、効率も悪い。


「土属性の補正がもうちょっとあれば簡単なのに……」


まあ、ないものねだりはもういいとして……ただ壁の強度を上げる方向性はちょっと無理があるか。なんか別のやり方は…………。


「……あ、そうだ!」


この前あった15階層での初ボス戦。あの時に見た爆発する盾。あれの原理を応用出

来ないか。


「固体として光を圧縮して……衝撃をトリガーにこの模様を作動で…………うん、いけそうだ」


俺はある程度魔術の構成を考え、ここから細かい調整のためのお描かきタイムに入る。

『魔刻』を発動してやると簡単に消せないから、まず『魔刻』をオフにしてから魔法陣の下描きを描いて練習するのだ。


それで満足のいくもの魔法陣が出来上がったら、『魔刻』で改めて魔法陣を描き検証を行う。これだけで実に数時間は飛ぶ。


性能がいい魔術は魔法陣の画数も半端じゃないし、適当に描くと普通に発動しないからな……。


『魔刻』は絶大な効果があるだけに準備もそれ相応の手間が掛かるということだ。


ま、時間が掛かるだけなら問題ない。俺が他のプレイヤーより有利な点は地形と時間にあるのだから。


俺は自分が好きなように地形を作れて、その奥でじーっと待っていられる立場だ。このアドバンテージを最大限に活かし、こちらの戦力を水増し出来る『魔刻』は正しく理想的なスキルだとつくづく思う。


……と、作業は日を跨いで続けられ、魔法陣そのものが出来上がったのは翌日のログイン時のことだった。


完成した魔法陣を一旦適当なものに『魔刻』で刻んで実験用の隔離スペースに移動。『スターリング』があまりの威力だったせいで外では試せず、わざわざホームエリアを割いて作った場所だ。位置は海エリアの一角になっていて、真上は青空が広がっている開けた足場だ。


それだけ聞くとただの屋外に聞こえるかもだが、周りは例の光の障壁で完全隔離されていて、ホーム機能で部屋を分けてプライベート設定を適用しているので誰にも見付かることはない。


正直、ゴールドが勿体なかったが俺は多方面で狙われている立場なので、うちのダンジョン外でこういう目立つことは出来ない。故に必要経費と納得していた。


「始めにお馴染み収束と硬化で光を硬質化して、こういう魔法のイメージ込めて……うん、後は『スターリング』合わせて燃料代わり陽光が貯まるのを待つだけ」


魔法陣は魔法を魔石と一緒に登録してそれをコストに発動する方法と、自分のMPを魔石代わりにしてその場で使い2パターンの使い方がいる。


という訳で、今回は後者の方法を使い自分のMP消費を見ながらまた数時間後……。


「よし、やっと『スターリング』と今開発した魔術……『リジェクトシールド』もチャージ完了。さあ、早速実験を開始するか」


『リジェクトシールド』を展開。すると同時に濃密な色ガラスのような障壁が俺の周囲を球状に囲む。イメージとしてはガチャのカプセルのそれだ。


そしてその外側に『スターリング』を待機させてある杖の先端だけを障壁を飛び出す位置に突き出させている。


その状態で『スターリング』を、落とす。


空気摩擦による爆発的な燃焼での閃光と、空気の層を炸裂させる轟音が辺りを包み込む。


そのまま『スターリング』の質量の暴力は暴れ狂い、術者である俺をも飲み込まんと障壁に迫り……。


「弾け、『リジェクトシールド』!」


……光の障壁から爆発的に溢れ出す閃光と激突し『スターリング』の暴威を打ち消した。


それは光エネルギーを実体化させ、暴風の如く全方位に流した文字通りの光の奔流。


固体として圧縮、貯蔵しておいた光を純粋な爆発エネルギーとしてさらに変質させ、それを打つかって来たものに打つかった分だけの威力、爆発を返す絶対の防壁。


リミットダメージを叩き出している『スターリング』を防げていることから、単一攻撃は必ず防げる見ていいだろと思う。


「凄いものが出来た……けど、まだまだ改良の余地があるな」


『スターリング』とセットで使おうとすると流石に時間が掛かり過ぎなことは……、まあ、別にいいとして。


『リジェクトシールド』に囲まれていると俺も外に手が出せない。魔法を外に発動するだけなら攻撃は行けそうだけど、咄嗟の回避とかには邪魔だ。


特に『フライ』で飛んでる時にそれでは煩わしくてしょうがない。


「内側からはすり抜けるように改良するか? もっと自由に形を変えれて……は模様の記載面積的に無理か……。ならカプセル状以外にもバリエーションを加えて……ああ、複数枚張れるようにも……」


……と、その後も色々と悩みながらも、改良に改良を積み重ね防御魔術『リジェクトシールド』が誕生したのであった。


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