第41話 配信(別視点)

Side とある重戦士(現実)


その日、俺は昔から女友達……まぁ有り体に言って幼馴染みの家で思考操作対応のデスクトップPCの画面とにらめっこしていた。何故わざわざ人様の家にまで来てそんなことをしてるのかというと……。


「きぃー! ほっんと見付からないわね。家ん中に隠れた虫けら並みに隠れるのが上手い野郎ね」

「なぁ、もうやめないか? こんなに探しても見つからないんだ。ゲーム自体辞めてるんだって」

「そんなのわからないじゃない!? あんたも無駄口叩かないで、なにが何でもあのクソPK野郎を見つけるのよ!」

「はぁ……」


まぁそんなわけである。

うちの相棒は未だにあのPKに自分で仕返しするのに固執している。これは今に始まったことではなくとにかくないか気に食わないことあったら納得するまで止まらない。そんな暴走列車みたなやつなのだ俺の幼馴染み兼ゲームパートナーは。


「だったいま! まーちゃんいる? お姉ちゃん帰ったわよ~」

「あ、お姉ちゃん帰ってきたのね」

「みたいだな」


と、嘆きながらPCに脳波を送りもはや無心で《イデアールタレント》関連のページを調べ上げている聞き慣れた声が玄関から上がってきた。その声の主がダダダっと足を鳴らしながら俺たちのいる部屋に突入してくる。


「まーちゃん元気してた。ごめんね最近帰り遅くて、今会社がゴタゴタしててね」

「はいはいそれは前も聞いた。それより前に頼んだ調査は進めてくれた?」

「それが仕事の合間に探りを入れてみたけど全然」

「ぐっ、お姉ちゃんでも見つからないなんて!」

「やっぱりゲーム辞めたんだって。鑑定系トップの姉さんすら尻尾を掴めないんだしいい加減認めろよ」

「うー! でもでも、あの野郎の顔面に一発いいモンくれてやらないと私の気が済まないんだもん」


子供か。

……ったく図体以外は子供の頃からなにも変わってないなこいつは。


「あーん、ごめんね。まーちゃんの力になってあげれなくて! きゅうー」

「ちょ、だからって抱きつかないでよ! あとその憎き贅肉を押し付けてくんな!」


そしてこのふたりのじゃれ合いもまったく変わらない。まぁ姉妹で胸囲という極一部だけの差異は生まれているが……そこは言わぬが花だろ。

ただ百合百合しい光景は目の保養にはなるが両者とも顔もスタイルもそこそこいいので健全な男子高校生としては視線の置き場に困る。

気を逸らすためPCに意識を戻し某有名動画サイトで適当におすすめの動画を探っていたその時。あるサムネ画像が目に止まった。その画像に写っているものにひどく見覚えがあったからだ。



「あれ、これ確か……姉さんちょっとこっちに来てください!」

「えー何よ。私今日頃の疲れをまーちゃんに癒してもらってる最中なんだけど」

「それどころじゃないんですよ! いいから早く来てください」

「もうなんでってのよ。いったい…………は?」


最愛の妹との時間を邪魔され最初はぶーたれていた姉さんもそのサムネ画像を見て表情がフリーズする。俺は専門知識とかないので詳しくは知らないがどうも合成や切り抜きを使っているようには見えなかった……だからその専門知識のある姉さんに見て貰ったわけだが……。

この反応を見るに本当にただのイタズラの類いではないのだけは分かった。


「これ、は……この間あのアホが盗られたうちのドロップ武器じゃないの!?」

「やっぱりそうですよね。動画でも見たことありますからもしやとおもったんですが……え、盗られた?」

「今そこ拾う余裕ないから! 早く再生してみて」

「あ、はい!」


気になり過ぎる単語があったので聞き返すも姉さんの有無を言わさない物言いに反射的に動画を再生させる。動画が読み込まれ映るのは見慣れた《イデアールタレント》内のグラフィック。多分どこかの洞窟の中だと思われるゲーム内の録画映像にはひとり、俺たちにとって因縁とも言える男が何食わぬ顔で映っていた。


「ああああああー! こ、こいつ!!」

「まーちゃん……今だけ静かに」

「は、ひゃい」


それに気付いた俺の幼馴染みも思わず大声で叫ぶが姉さんはそれに構う余裕すらないらしくその剣幕に押し黙る。やがてそれを待っていたかのように画面の向こうであいつ……プレジャの口が動く。


『こんにちは皆さん。はじめまして私は《イデアールタレント》のいちプレイヤーであるプレジャーというものです。私のアバターに見覚えのある方たちもいる思います……まぁほとんどが恨み節を吐いてるでしょうけども』

「し、白々しい……!」

「どうどう今は落ち着いて」


やつのふざけた物言いに荒ぶる我が幼馴染みを宥めながら続きを待つ。


『正直こんな挨拶よかこの動画を開いたほとんどの人はサムネの武器にしか興味ないでしょうから……まずはこれを』

「なっ!?」

「……」


手の動きから多分メニューを操作しているプレジャは手を広げ空中で実体化したあるものを受け止める。

それはサムネ画像にもあった武器のひとつだ。ただしそれは本来こいつが持っているはずもないもので。俺たちは困惑し多分何か事情を把握している姉さんだけ薄っすらと冷や汗を掻いていた。


『《イデアールタレント》プレイヤー諸君ら大半は知ってると思いますが一応言っておきます。これは『Seeker's』が3rdステージにてドロップした今現在はまだサーバーに1つしかないボスのドロップ武器『滅刀・シヴァ』。もちろん見た目だけを偽造したものではないかって思う人もいるでしょうが……証明はこのあとの予定の生放送にてしてみせましょう。それでは』

「これは……」

「ね、ねぇ。これ何かの冗談よね?」

「……少なくとも今の映像に細工をした痕跡はどこにもなかった。というか撮影の仕方からド素人だからそんな技術があるとも思えないわ」


あの武器がプレジャの手にある理由。それを薄々と察した幼馴染みが自身の姉に縋るように問いを投げた返ってきた返事は無情な事実だった。ということやっぱり。


「PKされたのか。『Seeker's』の誰かが」

「……はぁ。あのアホがね。まぁあれはまんまとやつの策に嵌った私達も悪いんだけど」


ここに来てもう隠せないと思ったのかため息交じりその一言だけ漏れた。

ま、マジか。今や全VRゲーマーの憧れでもあるメルシアさんがこんなやつにやられたってのか。信じられない……姉さんが同僚の縁でゲーム内ながら一度だけあったことがあるがその人に限らず『Seeker's』は皆俺が想像を絶する凄い人たちだった。

正直ゲームに関しては一生追い付けそうもないと思うほどに……なのにあのクソPK野郎があの人たちのひとり、それもリーダーメルシアをPKした?


「なんの冗談だよ」

「私も同じ気持ちよ。しかもバッチリその時の動画が残ってたものだからここの間ずっと忙しかったんだから、ほんといい迷惑よ」

「うそ……じゃ本当にメルシアさんが?」


あまりの衝撃的な事実に場の空気が重くなっていたその時PCの画面からチャンネルの生放送を報せる表示が点滅していた。


「始まったみたいだ。これ見るべきか」

「開いて頂戴。私は確認する義務があると思うから」

「私も一応自分の目で直接みたい」


そういうことになったので生放送のページを開く。最低100人以上に待つという兎と洞窟が描かれた待機画面が一瞬見えたが俺たちで人数を満たしたのか放送が開始される。


『皆さんさっきぶりですね。人も集まり場も盛り上がってことですし……では早速これで試し切りに移っていただきましょう。そのための的も……ほら、ああして元気よく来てくれました』

「的って、あれは『波』じゃないか」

「じゃあここ兎ダンなの? それにしては見覚えない背景だけど」


そうゲームでの俺の相棒の言う通り、このプレジャの痕跡を探すため俺たちはやつが最後に消えた兎ダンにそこそこ通い詰めていた。資金繰りも兼ねてのことだったので結構な広範囲をまわり最近は4層のボス部屋に繫がる階段直前まで行ってその先も覗いていたのだ。

それなのに俺たちに見覚えがまったくない。じゃあここはボス部屋の向こうの6階層以降ってことになる。

ボスのリポップ時期とキーアイテム集めの周回競争の関係上まだ誰も行けてはないはずだが……どうなっているんだこれは。さっきからなんか驚いてばっかりで疲れてきた。


そんなこちらの心情などお構いなしに状況は進む。プレジャは何を思ったのか例のドロップ……巨大な大太刀を宙に放り投げる。


『来い、お披露目だ』


そして同時にそう言い放つとどこともなくこれまた巨大な影が画面内に飛び込んで来た。それは大きな兎、見た目としては兎ダンで極稀に出没する高レベルモンスター岩石兎に似ている。ただ今現れたやつはそれのひとまわりどころかふたまわりはデカい。

見た感じ大太刀をキャッチするつもりみたいだけどどうやって……と思ったのも束の間、岩石兎?の肉が盛り上がりばらばらになったかと思えばそれはバカでかいながらも人の腕に変わる。そのまま大太刀をまるで片手剣のように握りしめ……斬!


―― その一撃で『波』のすべての質量が微塵切りにされた。


「姉さん。あの武器って確か」

「ええ、斬撃の速度によってボーナスの斬撃がバラ撒かれるという特殊効果付きの武器よ。多分うちで一番剣速がはやいカグシでもあれの半分も出ないでしょうね」


『という訳で……皆ご想像の通りに俺は『Seeker's』を一度だけとは言え降しこれを奪った。これ以外にも俺が奪った財はたんまりとある。そしてわざわざこんなことを大々的に吹聴しているのは《イデアールタレント》をプレイする皆に伝えたいことがあるからだ』


ぎこちなさを感じる敬語をやめて少しだけ尊大な口調になったそいつは。


『お前たちが兎ダンと呼んでいるたる『増蝕の迷宮エクステラビリンス』10階層、その奥にて待っている! そして宣言しよう、俺は今日この日をもって彼の『魔王』の偉業を再現してみせると!! それでは放送はここで終了とし、その日を楽しみにしている―― 話は以上だ!』


本日最大の爆弾を投下したのであった。


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