第40話 拙い謀略
「だぁ~! バケモン過ぎんだろ。あと一歩でこっちが死ぬとこだったぞ」
薄っすらとダメージエフェクトを零している喉元を擦りながら独りごちる。最後の最後に『映身』の幻影だけ残して後ろにスライドしたはずなのに、野郎どうやってかそれを察知して振り切る直前に武器をもう一度変えやがった。
あと数瞬下がるのが遅れていたら今頃喉笛がパクリッと開かれていたことだろう。
「ここまで準備して挑んだのに洒落になってなねーぞ。まったく」
今日この日のために今月末ぎりぎりまでした裏工作がだったの一太刀で台無しになるところだったのであれには結構焦った。
ボスを完成させ今日に至るまでの方々に奔走した日々を思い出す。
10階層まで増改築が終わりボスモンスターの最終調整も無事に完遂したあとのこと。もう下積みは十分と思った俺は『Seeker's』をダンジョンに招くための策を弄することにした。
『Seeker's』は基本最前線に張り付いているトップクラン、このままではうちのダンジョンに来てくれる確率は何かの偶然でも重ならない限り難しいだろう。だからって前に一般プレイヤー諸君らにしたみたく多少の挑発をしたところで、彼我の実力差を考えるとその場で力で捻り潰れて無視されるのは目に見えていた。
だからなにが何でも俺を、それこそどこにいようが追ってくるほどのヘイトを稼ぐ必要がある。ただ彼らはまごうこと無き強者の集まり、俺などが下手に嫌がらせを仕掛けたところで片手間であしらわれるのは明白だ。
だったら無視できないようにすればいい。安直なテロリストみたいな発想だが実際に俺にはそれぐらいしか思いつかなった。それに『魔王』という、いい手本もあったことだしな。
連中のもっとも貴重なアイテムないし装備を奪う。
言うのは簡単だがトップクラン相手に俺ひとりでPKするとか困難通り越して無謀だ。しかも行動を強制するほどのものを狙ってとなるもはや無謀すら超えて妄言に近い。
だから色々と犠牲にする必要があった。
まず俺のジョブのひとつ盗賊を2次転職させた。得たセカンドジョブは
でもまぁそこそこデメリットはあるもののこのジョブ自体は悪くない……が正直将来のダンジョン資金難に際して盗賊は獲得ゴールドが増える方向に転職しかったのでこれはかなりの痛手だ。今すぐはいいかもだが未来の展望を望めばダンジョンの拡張に合わせて苦しくなるのは明らかだ。まぁ、今を乗り切らないとその先すらないのだからどうしようもないのだが……。
他には同業者への依頼。
闇ギルドには通常のギルドにはないギルド中継の元にプレイヤーへの依頼を出せるシステムがある。これには法外のゴールドを取られるものの依頼を受けたプレイヤーの動きを依頼達成まで様々な制約、罰則で縛れるので口約束や個人間依頼より信用度が
高い。
今までダンジョンで稼いだ利益をかなりの量、溶かしてではあるが俺は闇ギルドに通してある依頼を出した。内容はこう、『Seeker's』に関係がありそうな集団を『ノースライン』で襲撃すること。依頼内容は極秘であるのはもちろんのこと『Seeker's』そのものには手を出さない、連続での襲撃は行わない、可能な限り深い階層で襲うなどなど……こちらの意図を悟らせない細やかな決まりを突き詰めたものとなっていた。
依頼の本当の意図を『Seeker's』にも同業者にもバレたくなかったが故の処置であったがそのせいで依頼は嵩みゲーム内でもそこそこ稼いでると自負している俺でさえ懐に痛手を負った。しかもひとつだけだと確実とは言えなかったので複数類似した依頼を出したから尚更に……。
「お陰でこっちは現実でもゲームでも金欠だっての」
それでどうにか『Seeker's』をお望みの場所……20階層以降に引きずり出すのは成功した。でもだからってはいようこそ死ねーって俺に出来るわけもなく、ここでももう一手を講じる必要があった。
大前提としてだ……俺に『Seeker's』の主要メンバー全員相手にするような力ははっきり言ってない。というかこれからの人生であれらとまともにやり合えるようになる未来が1ミリたりとも浮かんで来ない。
それほどまでに一般のゲーマーから見て『Seeker's』とは雲の上の存在なのだ。
でもだから引くわけにもいかない。月額の更新も迫っている以上、もうあとはどこにもないのだ。
『Seeker's』対策を練るため彼らの動画を時間の空く限り必ず見返して分析した。それこそ睡眠時間を削り、画面に穴が空くほど見つめながら何日も。
それで出た結論は……状況を限りに限り、こちらにとって最上の状態で完璧な奇襲を行いえばひとりだけならなんとなるかもしれない……というものだった。
ここまでやって置いて割りに合わないにも程があるがここら辺が俺という人間の限界だ。
都合のいい状況を作るためまずはカクテルベアを利用することにした。でもテイムをするわけではない。ボスとエリート、そして一部の特殊なモンスターはテイムが端っから効かない。
最近のこの手のVRゲームでは大抵場合、学習成長型のAIを使うのが主流だ。その方が難易度は多少上がるが戦闘の単調さというマイナス要素を無くし、複雑なモンスターアバターの制御を覚えせてサービス終了したあとも他ゲームでAIのリサイクルが出来るからだ。
カクテルベアは戦闘の自由度が非常に高いエリートモンスター。こいつを対『Seeker's』用に学習させることが出来たら使えるのでは考えたのだ。
当然だが常時敵対しているカクテルベアの戦い方を誘導するのは困難を極めた。本番に使ったやつが出来るまで何日も掛けて育てたカクテルベアを2回ぐらい処分した時の虚無感は今でも鮮明に思い出せる。
ああ、それと一時的に感知系のスキルを惑わす無味無臭のポーションとかも作ってカクテルベアに渡したな。鑑定系は俺の『映身』で防げるけどこっちはそうもいかないからな。これもまた練習の失敗作が資金を圧迫しましたよ、ちくしょう。
別の仕込みとして感染を起こせるウイルスを持ったキメラをモンスターの群れに混ぜておいた。ホムンクルスの例の微生物を特に制御せずにばら撒くとどうなるか気になったやってみた時に発見した状態異常である。最初不要心に吸い込んで酷い目にあった記憶が蘇るがそれは頭を振って追い出す。
あとは止めは俺か俺の従魔・眷属が刺さないと意味がないのでどこに隠れようか決行直前まで迷ったものだ。
ファストはカクテルベアのバラ撒く煙の特徴上今回の作戦に出せない。だから俺が鏡面士の『映身』で遠くに隠れるか予定通り無理やり制圧したカクテルベアの腹の中に魔法で全身を守って入っているかどっちかを選ぶ必要があった。生理的嫌悪感を覚えはしたものの仕留めることまで考えると後者一択だと自分に言い聞かせてカクテルベアの腹の中に潜伏することにした。
そこまでしてカクテルベア内にいる俺の全力サポートの元に『Seeker's』討伐戦が始まり……今に至る。
ここまでして結局はあと一歩でパーなるところだったのだから俺はまだまだなのろうな。これかれも精進せねばいけない、何せこのバケモノ共とはどっち道ダンジョンでも相対さねばならのだから。
そしてその時も相手がどれだけバケモノであろうと負けてやるわけにはいかないのだ。
「なにはともあれ……目的のものもちゃんとゲットした。あそこで怒り狂っている美女たちに素敵な歓待を受ける前に今日のうちは退散するとしますか」
俺は怒りの形相でこちらに走ってくる『Seeker's』の3人を尻目に使用可能になった転移アイテムでその場を立ち去ったのだった。
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