第17話 錬金術師
天賦クエストを始めてから一晩が過ぎた。
前日VRのヘッドギアから長時間プレイ警告が出るまでポーションよりも失敗で出た鉄屑と苦い汚水を山のように量産しながら落ち、今日の5時ぐらいに飛び起きすぐにログインした。
思ったより時間が掛かったが昨日でなんとかコツはは掴んだのもあり、どうにか必要最低限の消費アイテム群を作り終える。あとはこれらをモブ顔NPCのインベントリに入れて最後の工程に移るだけだ。それは昨日出来なかった決戦兵器の制作である。
計算上ではいけるはずだが正直言ってかなり不安だ。それに結局最後には俺の根気が足りるかの勝負になる。やり方も作戦もクソもない、ただのゴリ押しだからな。
「ま、やるだけやりますか!ファストも“相槌”よろしく頼むぞ」
「きゅう!」
工房で最高ランクの鍛冶炉の前に立つ。出てくる選択画面からささっとアイテム種を押し下にスクロール。その一番下にあるオリジナルレシピの項目を選択する。
オリジナルレシピは文字通り自分だけのアイテムを作る機能だ。素材選択も自由、性能も手際と素材によって自由に引き出せる。ただ装備とかは動作補正との重ね合いであのホログラム型は出る。大体の性能はAIが完成度と使用素材を鑑みて適切なものをその場で付与する形だそうだ。
ってな訳で……俺が手にした素材は
もちろんどんなに良い施設があろうが俺に使えるはずもない……普通のやり方なら。
「出始めに……ハンマーをぽいっと」
気軽な声音でハンマーをそこらの床に転がす。代わりにインベントリから杖を取り出して下部の細い部分で持って掲げる。魔法を発動して周りにいる素材とは判断されない鉄屑などの不純物、それら地の恵みを本来杖の取っ手の太い上部に集め固める。
その大きさはどんどん膨れ上がり何時しか俺のアバターの上回る程までになっていく。それでも集め続けもう支えるのも限界に達した瞬間、炉にくべていたミスリルを取り出し振り下ろす。
ミスリルを打つ際に腕で勢いをつけるだけでなく、魔法で操作し圧力を上げる。そこまでしてようやくほんの僅かに、それこそ数ミリほどだがミスリルが凹んだ。
「っしゃああ! 次だ、ファスト蹴り上げろ。はっ!」
「きゅ!」
喜ぶのも束の間。
鍛冶は鉄を打つ際には常に一定のリズムに沿って叩いたり水につけたりする必要がある。だがこんなハンマーもどきの重量物なんて俺の腕力で持つ上げるのは不可能。そこでファストの出番だ。
これはあくまでゲーム。腕力で無理ならスキルに頼ればいい。という訳でファストにはスキル全開で俺の腕を蹴って飛ばして持ち上げさせる役を頼んどいた。
フレンドリーファイアが有効だから普通にHPが減るがそこは自腹のポーションで粘る。頭でウィンドウ打ちながら。
いや、作業から目を離さず使えるのがそこしかなかったのだ。消費アイテムの類は思考操作できないから直接タップするか実体化して直でじゃないと使えないし。決してヘッドバングしがら大鎚振り回す趣味があるわけじゃない。
「はっはっはっ!」
「きゅ、きゅ、きゅ!」
いちいち命令してる暇もないのでファストには俺の気合を合図に動いてもらう。ミスリルを打ち、上げてはまた打つ。その間にポーションを挟まないとだから結構気を張ってないと指示されたタイミングからズレる。
それでも目標は見失わない。見失ってはならない。
ド素人の俺に始めっからまともな剣なんて打てるはずもない
だからだった一度でいい。刃を、何者をも切り裂き道を開く一振りを!
それだけを考え無我夢中で槌を振るい、鉄を打つ。何度も何度も視界が赤く紅く染まってもその刃にだけには目を釘付けにして……何度でも。
そうして何時間過ぎただろうか。
工房には外の光など一切入らず炉と照明しか明かりはないから判別がつかない。ウィンドウの時計を見る余裕すらなかった。よく見るとヘッドギアから心拍数上昇が規定値を超えそうだという警告が来ていた。視界が赤かったのはこれのせいか……。
精神的疲労で朦朧する頭に息を入れ立て直し、打ち終わった“剣”を凝視する。刀身は薄くそして幅広い白銀の大剣だ。その刀身の形は歪で、柄も飾り気などなくただ滑り止めの布を巻いただけの不格好なもの。だが刃だけは今にも目の前の全てを斬らんばかりの剣呑さを孕んでいる。
よし、あとはこの剣と諸々のアイテムを持たせてNPCにダンジョンを攻略させればいいだけだ。……が、その前に。
「よ、うりゃ!」
俺が作業してる間もずっと無言で立っていたモブ顔NPCをペチペチと殴りHPを瀕死まで持っていく。そのあと調教術スキルでテイムする。これはテイマ系ジョブにだけ許された裏ワザみたいなものでこいつの動きをオートからセミオートぐらいには出来る。こいつ名前には汎用NPCって出てるけど扱いはこのクエスト専用のモンスターみたいなんだよな。
「ま、俺はダンジョンには入れないから事前に命令することしか出来ないけどフルオートよかマシだ」
バカじゃないけど賢くもないんだよな、このNPCは。
状況に応じて回避も回復もちゃんとするが移動経路はランダム。あからさまに罠とかが居てもルートが決まったらそこに突っ込んだり。あとジョブもレベル1の戦士しかないのでちょっと強いモンスターに会うと普通に負ける。
いくつかの命令を設定してから歪の断刃を渡してモブ顔NPCをダンジョンに送り込む。ダンジョンの入り口は工房内に転移の魔法陣があり移動はこそに乗せるだけでいいようだ。
NPCを送り出した直後、ホームで使ったような監視ウィンドウがNPCを俯瞰視点で追従する映像を映し出した。
創造神が創り出したダンジョン『創試の迷宮』は全20階層からなる中規模のダンジョンだ。構成としては癖はなくオーソドックスな罠とモンスターを適量配置したものとなっている。が、ここの難易度はセカンドジョブが必須なほど。派生もしてない戦士以外のジョブを持たぬモブ顔NPCでは本来攻略など不可能だ。
だから基本NPCにはサーチ&エスケープを徹底させて出来るだけ最短ルートを探るようにしておいた。でもどうしても戦うしかない場合は投げナイフ、歪の断刃以外の消耗を度外視して先手を取って瞬殺するようにも言ってある。
1~10階層まではそれほど強いモンスターもなく、その作戦でうまくきり抜けられた。だが11階層からはモンスターも一段と強くなり罠も数をましてそれも難しくなって来る。
予想はしていたのでそこからは作戦が切り替わる。そこで投げナイフを解禁して戦闘は足止め重視、罠はなるべくモンスターを誘導しての解除を心掛けさせた。
それが通用するのも15階層までで、そこからエリートモンスターと呼ばれる徘徊型の強敵が現る。野良のダンジョンに偶に居るある意味中ボスみたいなもので遭遇した場合はこちらのスペック的に逃げるのは不可能。しかも他のダンジョンモンスターと違って階層を超えてまで追跡してくる。それ故ここで活路はひとつ。
「このままボス部屋まで連れて逃げる」
避けられないなら連れてけばいいじゃないの。ってことで決定された作戦だ。
さらに好都合なことにエリートモンスターとの戦闘中は他の雑魚は来ないし罠も停止する。
ただ本来ボス部屋に着く前に必ず殺されるぐらいにエリートモンスターは強い。そこらは辺は消費アイテムを蕩尽させる勢いで使うことで何とかする。どうせこのあと控えてるボス戦でそんなもんを使う余裕はない。
ポーションと投げナイフを使い果たしたもののどうにかボス部屋に駆け込めたモブ顔NPC。その前についにここのボスが姿を現す。
『創試の迷宮』のボスは4種類、蜥蜴、霊体、虫、猿型がある。各々筋力、魔法、防御、技巧に特化した個体でボス戦ではそのどれかがランダムで出現する。
「今回は……蜥蜴型か。まぁ霊体や虫型じゃないだけマシか」
どれでも一緒だがな。何せボス戦は自体何が出るにせよ一瞬で片がつく。もしもがあるとしたら霊体か虫ってだけだ。
ボス戦が始まると同時にNPCは残りの銅の剣をぶち撒け蜥蜴ボスの視界を奪う。当然ここのボスがそんなのでダメージを負うはずもなく、ただの牽制にしかならない。だがそれで十分。
蜥蜴ボスの気が逸れた隙きに急接近して後ろを取る。そのままあらん限り跳躍し蜥蜴ボスの背に乗り込んだあと首目掛けて疾走する。遅ばせながら蜥蜴も気付くがその時には既に決着はついていた。
NPCは蜥蜴ボスの背でもう一度跳躍しインベントリから一振りの大剣を取り出し―― 一閃。
直後、蜥蜴ボスの巨体と大剣が崩れ落ちる音がすると共に戦いは幕を下ろすのであった。
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歪の断刃 ランク:3★
物理ダメージ増加(大) 構造脆弱(極大) 聖属性 同死ノ剣
耐久:50/50%
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同死ノ剣:攻撃で耐久が0になった際、4倍のダメージを与えてから
◇ ◆ ◇
創造神さまからのありがたーい|言葉(校長並に長い)を頂いたあと、無事に生産者のジョブを得ることが出来た。そのあとすぐに生産者ギルドに駆け込み、生産者のレベルがカンストするまでひたすら生産を続ける。カンストしたあとにはまたすぐ派生転職クエストを受け、ハイポーション100本を納品して合生産者となる。素材費で相当に散財したがこれでやっと下地が整ったことになる。
『転職(タレント)クエスト《生み出すモノ・合》をクリアしました』
『転職(タレント)クエスト・2nd《真理の求道者》を受注しました』
それから魔法ギルドと生産ギルドを渡り歩いて必要な派生ジョブを得たり
で、渡されたクエスト内容はランク:5★以上のアイテム錬金を成功すること。
ここで少し《イデアールタレント》の生産について解説しよう。
生産はリアル、ファンタジーなもの関係なく多様な種類が揃っており、基本関連の設備があれば誰でも出来る。だが前にも言ったように生産者のスキル『生産』の補正がないと素材加工は極めて難しいものとなる。俺がしたあれは補正盛り盛りの特技魔法と物理演算の暴力で無理やり成立しただけで通常あんな無茶はしないし品質ガタ落るのでする意味もあんまりない。
ここで肝心の錬金なのだが、これは現時点では魔法関係の素材を作る生産活動程度に留まっている。
本来錬金は特殊な魔法触媒を作ったり魔導兵器とか作ったりキメラとかを作ったりと出来るがそれは錬金術師のスキル『錬金術』があってこそ出来るもの。
前にも言っていた魔法で生産素材を加工できるジョブそれが錬金術師だ。というか魔力を利用するのが前提となるこのジョブは前みたくズルでは成立しない。だって『錬金術』の魔力運用補助はプレイヤーじゃ感知できないようにロックが掛かってる仕組みだから、PSだけで真似しようがない。
まぁ、つまりは別のところのアレンジは兎も角、『錬金術』自体の発動はシステム様頼りってことだ。ならどうやってランク:5★以上のアイテム錬金をするのか?
「ニコイチ合成しかない」
唯一、魔力とか関係なく物を錬金設備にぶち込むだけで出来る錬金方法だ。素材系のアイテムのみに使用可能で、やると合成したものの上位素材が得られる。
錬成で同じアイテム混ぜてニコイチ、ゲームあるあるだと思うもののひとつだ。まぁ、実際は“ニコ”じゃくて10個合成する必要があるんだけど便宜上ニコイチってことで。
ここで注意点はニコイチで上げれるのはランク2つ分までで、ニコイチ合成で出した物とニコイチ合成で出してない物ではニコイチ合成は出来ないということ。要するに誤魔化しは効かず錬金で5★の素材を作るには最低3★素材が必要ってことだ。
と言うわけでサクッとランク:3★を100個を錬成合成、次にそこで出たランク:4★を錬成合成ではい終わり。
うん、普通は素材集めにそれなりに苦労するもんだけどうちのダンジョンの兎農場でランク:3★程度なら取り放題だし、作成自体も土属性の素材だけを揃えば大地術士の補正も使えるしで……ぶっちゃけ簡単だ。
『転職(タレント)クエスト・2nd《真理の求道者》をクリアしました』
早速クエストを報告して錬金術師をセット。そのままうちのダンジョンへと直行する。色々と予定が押しているから急がないとならんのだ。
「まずは素材を呼ぶとして」
デカいやつ、足が太いやつ、色が派手なやつ等。俺の前に多種多様な兎モンスターたちが集う。予め買っておいた錬金設備に向き合いUIを操作しキメラ作成、オリジナルレシピを選択。
ふふふ、これで他にはないこのダンジョンだけのオンリーワンなモンスターが手に入る。そこら辺にいるモンスターをボスにするのはなんか味気ないし、何よりこれで理想となるボスを自分の手で創れる。
これ本来のダンマス系のジョブだったら集めた魔力をコストにお手軽にかっこいいボスモンスターを買えるのにな……ま、自作でってのも夢が広がるからいいけども。
で、集まっている兎たちを素材に選んで試作してみたものの……。
「うわ何これ、むっず」
筋繊維と神経と血管の配列、骨の接合、細胞の癒着とを未調整しないと失敗する。しかも失敗すると素材は死亡扱いとなりそのまま消滅ときた。普通ならテイムかクソ高い捕獲アイテムを使うしかないから無抵抗のモンスター確保するのも一苦労だというのにこれは酷い。
「流石このゲーム1,2を争う難ジャンルの生産。モンスターをいくらでも増やせる今の環境じゃなかったら確実に心折れてるぞ」
普通の作成欄も見てみたが難易度が落ちる代わりに性能が凄い微妙。これだと俺の理想見合わない。錬金術師が素材合成ばっかしてる訳だよ、ったく。
「上等だ、やってやるよ。最高のボス創りを!」
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