第157話 ――寄越せ
―― 5つの
「結局あれからもう何日か過ぎてしまったが……ようやくだ。ようやくファストを進化させられる」
「きゅう!」
俺は今、
考えてるファストの進化には“融合の間”と呼ばれる、
利用するのに特に厳しい決まりはなく、受付で利用料を払えばギルドの奥まった場所にある“融合の間”に通してもらえる。
それでいった先には仰々しいデザインの扉が待ち構えていて、そこを潜ると融合の間だ。
中には中央の一点だけが空白の巨大な魔法陣らしきものが描かれた大理石っぽい壇があり、魔法陣に合わせるようにして、何かを置けと言わんばかりの柱状の祭壇が3つあった。
「さて、この祭壇にアイテムを置けばいいわけだな」
「きゅ」
――ここでこの“融合の間”で行う“融合進化”について説明しよう。
融合進化とは、言うなればテイマー系ジョブのやりこみ要素である。
進化4段目でレベル50の……つまり、進化5段目を迎えられる使役モンスターに限り利用可能で、任意のアイテムを持ち込んで、その特性をある程度付与する形で進化させることが出来る。
これを行うと野良にあって普通では手に入らない、例えばボスモンスターとかの強力なモンスターに進化したり。
それこそ、他にはない唯一無二のオリジナルの……固有種なるものに進化したりもする。
ただ、この固有種。大変ロマンのある響きだが……必ずしも強いとは言えない。
相性が悪い能力……火を扱うモンスターが火が弱点になったりもするからだ。これも、それならまだマシな方で何らかのスキルが変なシナジーを起こしたせいでモンスターが狂乱し、主人に襲いかかったこともあったらしい。
《イデアールタレント》の進化はやり戻し出来ない。そうなるとその使役モンスターは“処分”するしかないわけだ。
逆に上手く行けば蜥蜴をドラゴンみたいなモンスターに仕立てるのだって可能だそうだ。
β版でそれを実際にやったプレイヤーがいたらしいが……引き継ぎに使役モンスターが含まれてなくて、そのままゲームやめたとか。
……正直、俺は融合進化をファストにやらせるべきかは、かなり悩んだ。
これは、本当に取り返しがつかない。プレイヤーの場合は育成を間違えると最悪キャラを作り直せばいいが、モンスターはそういった配慮はされていない。
進化で弱くなったその時点でアウト。融合進化とはそういう大博打の類なのだ。
ファストは序盤も序盤のエリアで出てくる兎モンスター。普通の育成ではいくら厳選やらを頑張っても上位の、生まれながらして強い種には勝てない。
最後にはここに行き着くのは分かっていたが、それだけで割り切れるには……俺はこの子に情が湧きすぎた。
だから俺は事前、丁寧に言葉を重ねて融合進化の危険性を説明し、これをやるかどうかファストに何度も確認していた。ファストのAIはそれを理解するほどの知能も十分にある。
「本当にやるんだな、ファスト」
「きゅ!」
だが、最終確認としてそう聞くと当然!とでも言うように今度もファストは力強く頷いて見せた。鳴き声、仕草、視線からも、その意思が固いのが感じられる。
……なら、俺も腹を決めないと。
「まず最初はこれ。星喰らいの欠片だ」
近くの祭壇に、黒い色の見てるとどこまでも吸い込めれる感覚に陥る不思議な何かの破片を置く。
これは『錬金術』で星獣の確定ドロップ星喰らいの残滓を
欠片も、元になった残滓も相変わらず進化に使う以外の使い道がよくわからないが……まあそれはいい。俺はただ加護と相性が良さそうな素材を使いたかっただけだ。
「次はこれ」
言いながら隣の祭壇に大太刀……『滅刀・シヴァ』を置く。
ファストにひとつだけ、使いたいアイテムを選べと言ったら迷わずにこれを指定してきた。
どうやらファストはこれが余程気に入っていたらしい。
まあ、今までだからって兎のファストが普段遣いするものではないし、うかつに外にも出せない品なのでずっと倉庫の肥やしになっていたが……ここに来て使い道が出来たってわけだ。
「最後にこれを……よし、ちゃんと置けた」
そこそこの太さのある、星魔石で出来たL字の棒……ヨグに加工してもらった俺の元の脚を一番奥の祭壇に置く。
祭壇が弾かない……ということはこれも使用可能との証拠だ。使えないものはそもそもが置けないらしいから。
普通だったら自分の身体を材料になんて、倫理上の問題で絶対に出来ないはずだ。ただ、この脚はかなり特殊な経緯で変異した後に生産スキルで改造したお陰か、その判定がどこか狂っているらしかった。
だからこうやって本来あり得ない場所でも使えるって寸法だ。
まあ、その代わり恐らく俺の脚が元に戻ることが二度とないだろうな。結果がどうあれ……。
そのことについては不満もなければ、後悔するつもりもない。
これを使うのは、これから行う“あること”の成功率を上げるのもひとつの理由だが……何よりはファストの覚悟に対して、俺なりの何かを示したかった。
そんな、ちっぽけなプライドみたいなものだ。
「さぁ、始めるぞ! ファストは陣の中央に立ってくれ!」
「きゅ!」
ファストを規定の持ち場に着かせ、早速融合進化を……とはやらない。
その前に俺は魔法を発動し、星喰らいの欠片と星魔石の脚、念の為『滅刀・シヴァ』も影響下に置く。
俺はこの融合進化にあたり、ひとつ考えたことがある。
果たして、ゲームの世界で最強と言わしめる存在とは何か?
そんなの言うまでもない―― プレイヤーだ。
あくまで正常にゲームをプレイしてるという前提の中だが、オンゲーのプレイヤーは最終的には“敵に対しての勝利”がほぼ約束されている。
負けイベなど何だのあるかもだが、データ上の架空の敵は必然的にプレイヤーに負けなければならないからだ。
きっとこれだけが答えではないのだけれど、敵に対して負けないのも最強であれば、プレイヤーという枠組みはひとつの最強の形のはずだ。
「モンスターの中でこれ以上の高み見出だせないなら、裏技でも何でもいい。その加護を、引き摺り下ろす!」
この世界の異能がすべて星の加護から起因しており、俺のジョブがそれに干渉出来ると気付いた時……もしかするとプレイヤーに関するその特権とも言える加護もどこかにあるのでは考えた。
今日という日まで血眼になってそれを探し回り、この
プレイヤーが転職なり、死に戻りなりする時だけ、ひと際強い反応を返す星があることを……。
俺のスキルを通して、祭壇の素材とファストに加護が降り注ぎ魔法の光が融合の間を満たす。
「ファスト、『星獣化』!」
「きゅ!」
それに合わせて、より加護を強く受けるためにファストが『星獣化』を発動し己を黒く染める。
『星獣化』がバネになったように魔法の光が激しさを増し、この空間を燃やし尽くさんばかり輝きを発した。
「くっ、うぅ……! はっ、はは……やべーな、これ。制御に必要な、情報量で、意識が吹っ飛びそうだ」
きっと、俺がやっていることは道理から外れている。
この苦痛も所謂ゲーム側が仕掛けている“お仕置き”だ。設定上いないと困るからある要素だけど、プレイヤーに手を出されても困るからとある戒め。
恐らくそれを魔法のシステムと絡めて、この星に干渉すると情報量の暴力を叩きつけるという形で落とし込めているのだろう。
それにこれが本当に融合進化に影響するのかも分からない。ただ無意味に己を罰してるだけなのかも知れない。
……が、んなこと知ったこっちゃない。
俺はこの子を最強すると誓い、自分でその光景を絶対に見たいと思ったんだ、だから――
「―― その可能性を、寄越しやがれェーッ!」
必死の思いを込めた裂帛の気合いと共に、俺は融合進化の開始し……。
「なっ?!」
……次の瞬間、部屋中が闇に飲み込まれた。
同時に正体不明の圧力をようなものを感じ、顔を庇ったまま数歩後退る。
その中、一刻も早くファストの無事を確認するという一心で踏み止まっているとやがて闇が晴れて、圧力も消失した。
やっと見えるようになったと、ファストがあるはずの場所を見る。そして……。
「ファス、ト……?」
「……――――」
この時に、この瞬間ファストの姿を見た俺は――
―― 星空がこの地上にて生まれ堕ちたんだと、そう思ったのであった。
――――――――――――――――――
・追記
ってな感じで 第7層 戦前編をここで終了とし、一区切りとなります。
掲示板回を挟んでついにイベントの予選編が開始されますのでお楽しみに!
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