第156話 装備者と職業装備

無事にランクアップを済ませた俺は装備人のジョブを取るためにとあるギルドを(変装済で)訪れていた。


「ここで装備人が取れるのか」


ここ……戦士ギルドへ初めて足を踏み入れてまずに目に入ったのは、どのギルドよりも多い武装した者の数。


戦士ギルドなだけあり、ここに居るプレイヤーは中々の重武装をしてるものが多い。


大体の者が軽、重様々な重さ、材質の鎧を着込んでおり、手や腰に何かしら武器をぶら下げている。


見た目物騒には見えるが、中の人たちは自然体そのものだ。それでこれが日常な場所というのが、ありありと分かる。


俺は最初、何故装備人は戦士ギルドで取れのか疑問だったが……それは装備人を利用するものが大多数が戦士ジョブだからだそうだ。


《イデアールタレント》で装備の恩恵をもっとも実感するのはどのジョブか、と問われれば十中八九、皆が戦士系だと答える。


それはアタッカーだろうが、タンクだろうが、“装備を扱う前提”のジョブが多いからだ。


例えば双剣士というジョブが居る。これは名前で分かる通り双剣という2つの剣が一対になる武器種を扱うジョブだ。


ただ《イデアールタレント》の装備枠は知っての通り、武器枠がひとつしかない。これだと当然、2本の武器が持てない。


そういう時に必要なのが装備人の本来の枠を割って増殖させるスキル……『拡装』なのだ。


何気に大剣を2本振り回してる『Seeker's』のカグシも装備人を持ってることになる。


恐らく割った装備をそれぞれ強化……つまり多重強化して攻撃力を嵩増しするためであろう、カグシのジョブ構成は1でも攻撃力が高くてなんぼだからな。


装備人の使い方としてはポピュラーなものだ。


閑話休題。


てな訳で、早速と受付に用件を伝えにいく。


「ごめんください、ここが受付であってますか」

「おう、あってるぜ坊主。見たとこ戦士じゃなさそうだがどんな用件だ。言ってみろ」


俺が受付に話しかけると、筋骨隆々で大きな顔の傷がある、如何にも歴戦の勇士という出で立ちのおっさんNPCが出てきた。いつものいる厨二爺さんと同じ立ち位置のNPCらしいが、興味なかったから名前は覚えてない。


「殻割りの儀式を受けたくて来ました」

「そうか、殊勝な心掛けだ坊主! 最近のは枠が勿体ねぇとか言い訳がましいことばっかいいがやがるってのに! いいぜ、利用料を払ったら裏の祭壇へ付いて来い!」

『転職(タレント)クエスト《殻を破ってでも》を受注しました』


俺が装備人になるための儀式の名を出すと、ニカッとし男臭い笑顔で受付のおっさんが喜ぶ。


《イデアールタレント》のNPCはこういうジョブの可能性を広げる行為には基本、好感を示す。


流石に犯罪系のジョブは例外だが、俺がやった道削ぎといい、この殻割りといい多少のリスクは顧みず、新たなジョブを開拓していくのはその力を授けた神々を尊ぶ行動として住民のNPCたちには良く見られるらしかった。


そしておっさんに連れられて来たのは、どことなく道削ぎに使ってたのと似た雰囲気の祭壇がある部屋だった。


「ここに乗って暫くすれば儀式は終わりだ。引き返すなら今しかないが……どうする?」

「やります」

「はっ、いい度胸だ。ならさっさと乗りな!」


おっさんに急かされるように祭壇を登る。

すると、道削ぎと同じように謎の光が溢れ出し、すぐにアナウンスが聞こえてきた。


『転職(タレント)クエスト《殻を破ってでも》をクリアしました』

『スキル『拡装』の対象を選択する必要があります、お選びください』

『使用可能回数:3/3回』


これにて所有ジョブに装備人が追加され、試しにセットしてみるとすぐに『拡装』の対象を選ぶように言われた。


どうやら一度発動すると保留は出来ず、スキルの詳細には使用可能回数というのも一緒にポップアップしてきた。


『拡装』は1ランクごとに使える枠が貰える。この回数を消費して装備枠を割り、ジョブを外しても恩恵を貰える。


だからって装備人をセットする意味がまったくないわけではなく、セットしてるとレベルによって装備の能力に補正が掛かる。


っというわけで上衣、装飾、装飾と早速先に決めていた装備枠を選択し、上着、手袋、小装飾✕4に枠を割る。


それで用事は済んだので戦士ギルドを出て、次に向かうのは馴染み魔法使いギルド。


「おっと、入る前に……予めヨグに割ってもらった装備群を装着っと」


この日に備えて、実は前々からヨグに職業装備ジョブウェポンの改造を頼んでいたのだ。


ランクアップに職業装備ジョブウェポンを持って来れなかったのもそれが理由だったりする。


装備の改造を待つ間、強化に何も手を付けないのもあれだと、ランクアップを先走って苦労したのは自業自得もいいとこだ。


で、肝心の魔法使いギルドで何をするかというと……実はここも戦士ギルド同様、お手軽に取れる幾つかのサブジョブがある。


こっちには色んな種類があるが、その中で俺が選ぶのは……


MP量を増強する、魔貯士

MP消費を減らす、魔倹士

MPの自然回復速度を上げる、魔吸士

魔法の操作を補助する、魔操士

魔石含む魔法の触媒の効果を上げる、魔触士


総計5つだ。今までいくらあっても足りなかったMPをガッツリと補填しつつ、魔法の操作も補助出来るように考えたジョブ構成だ。


それと残った枠のひとつはもしもいいジョブを見付けた時のために保険だな。


これも金を取られて、いちいち祭壇っぽいところに連れてかれてたのでそこそこ時間を食っちまった。


「これで、俺に出来る強化は一段落したし……いよいよ、ファストの進化に集中出来るな」


俺はダンジョンで待っているはずの相棒のことを思いながらそう呟いた。

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