第3話 悪の道
街のすぐ横にある初心者向けの林エリアの一角。
「ぐっ、また失敗した! ファスト撤収だ」
「きゅ!」
緑色の群れをなす小ぎたない子供サイズの化け物……ゴブリンから俺はファストを片腕で懐に抱いて必死の形相で逃げていた。
「くそ、『卑劣』スキルめ!」
プレイヤーがジョブ数に応じてスキルが増えるように、モンスターも進化の段階ごとにスキルが増える。最下位モンスターであるゴブリンにも『卑劣』というスキルがあり、はっきり言って俺との相性が悪い。
効果は単純、隙を見せた対象に攻撃の命中率が上がると言うものだ。そして高威力の魔法の準備はその隙きに該当する訳で大技を準備してると石とか投げられ、魔法が中断されてしまう。それはシステム上の確定のひるみ状態だから防ぎようもなく、ちまちまとした魔法しか打てないのに瀕死になるとどっからか仲間を呼んで群れを作る。
俺ひとりだったら多少のダメージは無視して大技を使おうとしただろ。《イデアールタレント》の魔法は、魔力という仮想のエネルギーを機器側が付与した疑似感覚を使い、思考操作で動かすシステムだから熟達すれば発動を早められる。ラノベでよくあるイメージでの魔法操作を忠実に再現しているのだ。
だが、もし小さな石でも貧弱HPのファストに当たれば死にかねないので今は無理だ。ここで事故ったらここまでの労力と資金が全部パーになる。
「くそが、くらえ!」
逃げながら必死にためた魔法を放つ。ゴブリンたちが醜い悲鳴をあげて数体、光の粒となり消え去る。それでもまだ数体が怯むことなく走って来るため、俺もまた走って逃げる。
「なんでよりによってここしかないんだろうな!」
「きゅう~」
こんなしようのない悪態をつくぐらい相性の悪い敵がいるのに、ここで狩りをするのは当然理由がある。ファストのレベルを上げるための狩場候補は安全性を考えると4つ、街の四方にある最寄りの初心者向けエリアしかないのだが……
草原エリアのラビット、『跳躍』スキルのせいで攻撃躱し切れない却下。
丘陵エリアのスライム、一番狩りやすいがそのせいでプレイヤーが密集して誤射が危ない却下。
農地エリアのキャタピラ、地中から出ての拘束技が『卑劣』以上にクソすぎて論外!
で、俺の
「はぁ……。やっと撒いた。でもここまでしてファストはレベル3か」
いけなくはない、が。はっきり言って疲れる。おまけにポーション類、装備の修理費あとファストの餌代で完全に赤字だ。特に餌のほう、高いんだけど食わせないと親密度落ちて勝手に動いたりするらしいからな。はぁ、モフモフで温かいのになんでか寒い気がする。主に懐が。
もう今日はここまでにして落ちて明日にするか? でも魔王ビルドの都合上、土地がいる。ただいま資金難の俺が土地を得るには魔物使い、土魔法使いが条件にあるクエストをクリアする必要がある。
「でもあれ、貰える土地は10人までの先着順だからな」
おのれ運営……。
いやまぁ、本来相場がクソ高い土地をただで貰えるんだからむしろ大盤振る舞いなんだけどもさ。こういう競争煽り見るとつい言いたくなる、ならない?
「しゃーないもうひと頑張り……」
「……うらぁ!」
おや?
珍しい、ここで狩りしてるプレイヤーが俺の他にもいたのか。はっきり言ってこの狩場人気ないからな。ゴブリン、ウザいしキモいしあとドロップはゴミだしで。見た限り男女の二人組で装備からして男が戦士、女が魔法使いか。
「ほら、はよヘイトもっと稼いで! はよ」
「うるせー! 気が散るだろうが」
彼らの会話と戦士の男が明らかに手加減してゴブリンを殴っているのを見てピンときた。
ははぁ~、なるほどそういうことね。戦士は多分タンク志望で今は挑発のスキルを得られる盾戦士の
普通のタンクビルドならそっちでも問題ないはずだがパートナーの安全を考慮してここにしたってところか?
「まぁ、俺には関係ない…………いや、これはチャンスだ」
このゲームあまり推奨はされないがPKは可能だ。そして彼らのあのクエストは必然的にかなりのHPを消耗する。そこにフルチャージした範囲魔法を打ち込めばゴブリンごと確実にヤれる。
だがPKはかなりデメリットが大きい。このゲームにはマスクデータ的なものがあり、悪行を重ねればカルマ値みたいなのが溜まって街で不利益を被ったり、賞金首になったりする。アバターの外見を強制公開とかは流石にしないがキャラの名前はさらされる。ちなみに名前は重複不可の仕様だ。
「まあ、でも魔王ビルドやるならどの道PKするんだよな。ってことで……ヒャッハー!死にさらせ!」
なんだかんだずっと魔法ためてたんだけどな! 賞金首上等、こちとら最初からプレイヤー殺しまくるダンジョンを作りに来てんだ。そんなもんでビビるか!
「くあーッ!」
「きゃあー!」
よっし、クリーン・ヒット! 戦士の方は今のでゴブリンと一緒にまとめて砕け散って消えたからキル確定だ、今頃最後に寄った街に送り返されていることだろう。後は魔法使いのほうだけ……。
「この、よくも!」
「きゅう!」
「ぐぴゃっ!?」
怒りを露わにしてこっち杖を向けたところでファストが今日初の攻撃を食らわせた。
おう、なんて運の悪い……クリティカルだ。それにかなりいいの入ったぽいな。なんかスゲー声出して悶絶してる。ゴブリンのヘイト全部あいつらに向いてたし、安全そうだったから『跳躍』で奇襲させたのだが、思った以上の成果だ。うちの子は優秀だな。いや、まぐれ当たりなんだろうけどもさ。そう思った方が気分いいじゃん?
「ま、だからってやめないけども。ほいっと」
「くそー、覚えてろ!」
なんか捨て台詞吐いたあと魔法使いの女は呆気なく魔法で砕け散ったのであった。
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