第2話 テイム

スタート地点の街からひとつエリアを跨いだ距離にある森エリアの中。どう見てもくたびれた木の枝にしか見えない杖から光球が弾けて集っていた野犬のモンスターのハウンドを一掃する


「よしゃ、これでラスト!」


このゲームの魔法は基本思考操作で割と自由にカスタマイズ出来る。最初には「魔法出ろー」って感じに念じてから肌に来る何ともムズムズする感覚を馴染ませる作業はいるが。

過程としては魔法系スキルを意識→それを機器が検知→魔力操作の疑似感覚を発生→思考操作で魔力を操る→魔法発動となる。


実を言うとそれに慣れるだけで一時間が飛んでいる。出来る人は一発で行けるらしいが俺にはそんなセンスはなかったようだ。


ただまぁ、範囲魔法が使えようが貧弱な魔法使い。群れを捌き切れずに、すでに12回は死に戻っている。でも狩ったモンスターは数百体にものぼる。戦果としては上々だろう。

時間は朝からすでに昼に差し掛かろうとしていた。飯時にちゃんと行かないとゲームを没収されかねないので早めに落ちないと行けない。


「まぁ、どうにか目標のレベルには達した。早く飯食って帰ってくるとしますか」



_____________________

名前:プレジャー ランク:★


セットジョブ

魔法使いLV10☆:『魔法』

――:――


*装備

上衣:ただのシャツ(破損)

下衣:ただのズボン(破損)

武器:枝の杖(破損)

装飾:――

装飾:――


所有ジョブ(残り枠4)

魔法使い☆

_____________________


※☆はカンストの表記。


母さんの作ってくれた飯を口にかきこみ、トイレを済ませ軽く腹ごなしをしてから再びログイン。《イデアールタレント》の世界に降り立った俺はまた一目散にその場を離れショップに向かう。


「次はテイマー系ジョブの魔物使いだ」


多分これで俺が狩りで得た利益が全部飛ぶが構うものか。ゴールドゲーム通貨なんて後でいくらでも稼げる。今はそんなことより出来る限り成功率を上げる方が重要だ。


「全財産でも高級餌は10しか買えないか。これで懐いてくれよ」


PKと特殊エリア以外でのデスペナは基本、経験値が無くなるだけでアイテム、所持金は減らない。だから朝の狩りで割と稼げていたのにそれ含んでもこれしか買えなかった。

魔物使いになるにはどうすればいいのか。簡単だ文字通り魔物(モンスター)を手懐ければいい。だがこの作業はっきり言って運任せ、つまりはガチャだ。それ故に初期に魔物使いに手を出すやつはあんまりいない。理由は……ガチャを回したことのある同士には言うまでもないことだろう。


「頼むぞ。今回だけは爆死しないでくれ!」


だがその一言がフラグにでもなったのか。1番懐く確率の高いゲーム最弱の名を譲らぬ兎モンスターのラビットに高級餌を9回まで差し上げて全部失敗した。残り高級餌はあとひとつ、頼む……まじで頼みます! 神様、仏様、システム様!!

果たして俺の必死の祈りは――


『ラビットが仲間になりたがっています。仲間にしますか?』

「よっしゃああ!行けた!当然します!!」


テンションが爆上がりして、つい叫んじまったせいで周りの人の注目を浴びたが、今はどうでもいい。これでどうにか魔物使い転職クエストを受けられる。


「さてこっから本番だな。はっきり言って次のクエストでラビットは使いものにならないし俺が頑張らねば」

「きゅう?」


手懐けたラビット……ファストは可愛らしく鳴いて首を傾げていた。名前は叫んでる間に速攻で付けた。ネーミングセンス? そんなもんないから適当なのは勘弁してほしい。それでも“ぴょんた”とか“ラビっこ”(β版より抜擢)とかよりはマシだと思う。


少し過ぎて、ある建物内。

ここは調教職テイマーギルドと言ってその名の通りテイマー系ジョブのためにあれこれサポートしてくれる場所だ。転職クエストを出す主な施設であるギルドは一部を除いた大体の最下位ジョブに用意されている。


「テイマー資格試験を受けたいです。従魔はこの子です」

「確認します……はい、問題ないようですね。かしこまりました、試験を受け付けます」

転職タレントクエスト《魔と共に》を受注しました』


受付嬢NPCからクエストを受けて、すぐに詳細を確認して変更がないか確認するが、特に変更はなく達成条件『従魔LV 1/5』とだけ出ている。従魔にはプレイヤーと違ってジョブはなく“従魔LV”というものが存在し、これがカンストすると進化して強化されたりする。

はて、皆さん。この達成条件を見て「楽勝では?」と思っていないだろうか。否、断じて否である。特に俺というか魔法系ジョブはなおさら。


従魔を鍛えるクエストに見えるのはガワだけ。その実態は修行ではなく護衛クエストと化しているのだ。

原因その1、初期のテイムはそのクソ乱数ぶりから余程運がよくない限りジョブ無しではラビットと同級までが限度。

原因その2、鬼畜なことに序盤の従魔は1度死んだら復活せず永遠に失われる。


整理すると吹けば飛ぶようなHPしかない従魔を守りながらモンスターを狩らねばないないと言うことだ。それも紙装甲、鈍足の魔法使いひとりで。

パーティー組めばとか思うかもしれないが従魔が経験値を吸う、主人のプレイヤーは従魔守ってろくに戦えないので野良PTはまず弾かれる。なら友達でも呼べって? ボッチ陰キャ野郎にそんなもんがあるとでも? ははは、はぁ……。


「きゅう~」

「おお、慰めてくれるのか。お前はいいこだな~」


うん、もふもふに触れ合えてちょっと癒やされたよ。ありとうなファスト。

元気出た。頑張れ俺、目指せ魔王だ!


「うし、君を立派に育てるためにも頑張るとしますか!」

「きゅう!」

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