第35話 ボスメイキング

「そろそろダンジョン9階層も完成が近い。これなら10階層までもすぐか。ここからは本格的ボス製作に取り組もう」


翌日、『ノースライン』から無事に目的を達した俺は自分のダンジョン『増蝕の迷宮エクステラビリンス』に戻ってきていた。


「なんだかんだ最近はダンジョンに長く滞在出来なかったからな。今日はボス作りでここにずっと引き篭もるしたんまり稼ぐぞ」

「きゅ」

「ぷきゅ」


下準備は昨日のうちに済ませてある。そのため兎農場もちょっとリニューアルしたのだ。


「昨日取ったモンスタードロップを融合させたキメラたちは……うん、順調に増えてる」


ふふふ、これが俺考案。兎農場改めて素材農場だ。兎農場の一部を流用したこの場ではレアなモンスター素材……ボスとかエリートモンスターのものをくっつけたキメラで溢れている。勿論『繁殖』のスキルもきっちり持たせているので品質は多少落ちるがレアな効果のある素材を取り放題。一点物よか量が欲しい俺に取っては夢の施設な訳だ。


「これでもう素材不足は気にせずボス作りに専念できる」


ここまで来るのに長った。日数にするとそうでもないがボスを作ると決心した日からは今日まで色々ことがあったからどうしてもそう感じる。

錬金術師を得て、それで上手くいかないからランクをあげて、測定士を見付けて。それから『ノースライン』の最前線まで超えて、ようやく下地が整えられた。


自分でも少し頑張り過ぎではと思うが……まぁ自分のためにやってることだからな。そう考えるとむしろこのぐらいはやって当然なのかも知れない。


「ならもうひと頑張りと行きますか」


この憎たらしくも愛しき逃げ場を守るために。

始めるとするか。今度こそ我が家の守護者ボスモンスターを生み出す。


「まずはベースに使うのは巨岩兎」


レベル40の進化4段階め。現状我がダンジョン最硬にして最大を誇る個体となる。階層ボスが脆過ぎると話しにならないのでベースは最初からこいつに決めていた。


始めに巨岩兎の体と同質の素材で骨格と肉を継ぎ足して足を長く二足歩行可能な構造に変える。ここまでは前作った奇脚兎トリキックラビットと一緒だ。

ここから考えるべきは参考するモルダードの戦術。あれをキメラで再現するにはどうればいいのか。


「ボス部屋に料理を常備するなんざ現実的に無理だ……なら自力で体を変形出来るようにする」


なにもバフに頼らなくてもキメラなら最初から変形を前提に肉体構築をすればいい。


「そのためにこれを使う」

「きゅう」

「ああ、トリックスパイダーの糸……その量産型な」


これがまた便利で細く頑丈な上に完全無菌だから人体にも無害で縫合にもってこいだ。最近はキメラを作る際の肉継ぎ(違う生物の体をくっつける作業)をする際の仮止めによく使う。ちなみに裁縫が得意な訳じゃないから、そこは『測定』で測って正確に何センチで縫うって感じで頑張っていたりする。


「巨岩兎を部位ごとに切り分ける。あとは分けたその間を繋ぐように糸を通す」


そうするとたまに見る紐などを関節の代わりにした人形みたいになった巨大兎のバラバラの死体が出来上がる。

これにはかなりの糸を使うがトリックスパイダーの糸せんというドロップを『繁殖』ありのキメラに組み込み量産体制もばっちりだから量が足りないなんてこともない。


「こっからが重要だ。巨岩兎の必要ない部位を削いで、別のモンスターの素材で埋める」


この時にもトリックスパイダーの糸で仮止めして薬剤で癒着させるから。出来るだけバランス良く均等になるように詰めに詰めていく。終わる頃には内臓が2倍以上になって体積は4倍ぐらいは増えたけどどうにかすべての工程を無事クリア。こんな高難易度の肉継ぎ、前の俺だったら瞬く間に細胞を腐らせていた。


「そこは『測定』様々だな。あとは、これで仕上げだ」


それとトリックスパイダーの糸せんそのもので作ったアイテムがひとつある。この《イデアールタレント》では珍しい注射器を取り出す。そこには怪しげな液体が満たされておりよく見ると液体の中で何か蠢いているかのように感じる。


「制糸統制用微生物『ルーラー』。これで体内に混ざっている糸を感染させて自由自在に制御出来る」


『錬金術』の生産機能のひとつ魔法生物生成。キメラとは違い物質を組み合わせて1から生物を培養するという分野だ。


ホムンクルスはまず細胞の元となる微生物を作り、そこに素材から抽出したDNAを組み込んで自分だけのホムンクルスを培養して育てる。その過程を『錬金術』の要素とゲーム的ご都合で簡単に行えるようしたのが魔法生物生成だ。


本来あくまでホムンクルスなどを作ることが目的の分野だけど俺は違うところに目をつけた。ある程度好きな微生物を作れるなら好きなウイルスみたいなのだって作れるのではと。


結果を先にいうと出来た。と言ってもやったのは微生物の好物をいじって何を餌にするかという基本の応用だ。好物を糸の中の魔力にし、その他のすべてを苦手としただけに過ぎない。餌は糸に通う魔力で、その餌となる魔力を通わせたものが微生物の操縦権を得るようにした仕組みだ。

魔力で主人の命令を識別するというホムンクルス本来の操作仕様を応用した試みだったが実験した結果無事に成功。あくまで俺のイメージであるが扱いとしてはナノマシンに近いかもしれない。


これが想定された挙動なのかは不明だが……たとえ違ってもシステムがいいって言うんだから俺は悪くない。そういう精神でやっていかないとホームでダンジョンをこじつけるなんざ到底無理な話だと俺は思っている。


閑話休題


説明が長くなったが要するにこの制糸統制用微生物『ルーラー』(以降ルーラー)を注入さえすれば巨岩兎の中に入っている糸を自由に操れるってことだ。


「あとは拒否反応が出るかどうかだけど。それも『測定』で測りながらすればミスはありえない。さくっとやってちまうか」


と言うわけで注射を打って『測定』で反応が正常か測ると……これで完成だ。


「やっと出来た……階層ボスが完成したぞ!」

「きゅう!」



これをオリジナルレシピに登録し、必要な時にいつでも作れるように素材農場の方も整えることにする。それで収蔵兎ブロックラビットの継続的な生産も可能となってようやくボス作りの終わりだ。


体を部位ごと身を切るも、また繋ぐも自由自在。

体中を巡る糸を利用し内蔵された部位を組み換えて戦う大型キメラ。

それが我がダンジョン『増蝕の迷宮エクステラビリンス』10階層ボス、その名も収蔵兎ブロックラビットだ。


「これでやっとあの計画が進められる。次なる目標は“先駆者の踏襲”だ」


そうなると当然だが標的はひとつしかない。


「ついに我がダンジョンは『Seeker's』に仕掛ける。やはり先人の知恵を生かさない手はないからな」


自分に言い聞かせるかのように俺は高らかにそう宣言したのだった。





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