第68話 ダンジョン・イン・レース-6
3人称視点です。
――――――――――――――――――
―― 『
「おっと、すでに『快食屋』が開戦してたか」
「うっはー! モンスターが空を舞ってるよ、台風でも起きてるみたい」
「……いい、匂い」
モルダードだけで戦い方を伝授した舎弟たちまでいる大暴れっぷりにメルシアとバッキュンが感嘆し、カグシが閉所に充満した料理の香りが気になるのか鼻をスンスンとビクつかせる。
「って、見ててもしょうがない。俺たちも混ぜて貰いに行くか!」
「賛成~!」
「ん……お先」
「あ、カグシちゃんに抜け駆けされた!?」
『Seeker's』もその戦場に加わるべく身を乗り出す。まず未だにスキルを発動しっ放しだったカグシが凄まじい踏み込みで戦列に割り込む。
「しっ!」
「お、カグシ。ようやく来たんすか。思ったより遅かったっすね」
「む、ちょっと邪魔が多かった……だけ。今まきかえす」
『快食屋』サブマス……スパイッスーの言葉にむっとしたのか張り切ってモンスターに向かうカグシ。そのまま異様な耐久を誇る敵モンスターを押して押して手数で捻じ伏せ、無理矢理に減らしていく。
それを少し離れて見ていたメルシアとバッキュンもついに前線に到着する。
「まぁカグシはあれでいいとして……バッキュン、メキラが言ってのこと忘れてはないよな」
「もちのろんよ、まず効かなくなるまでは1属性でゴリ押すべし! だよね」
「おう、それでいいぜ」
前ここに来て戦ってた時の情報……何よりメルシアが特攻してまで掴んできた情報でここに居るモンスターの耐久性のカラクリはある程度割れている。
短い時間をフルに使いメキラ及び『Seeker's』のサポート人員が総出で探ってくれたものだ
それによるとここのモンスターは恐らく中央にいる巨大ピンク兎のスキルか何かで死んだ際のダメージの種類が記録され、それの耐性をそのスキルでここのモンスターに付与してるのではないかと予想していた。
『鑑定』は偽装され、素材も取れてないので確実なことは言えないが状況証拠的にほぼ間違いなとの結論だ。効果が強過ぎるから多分他にも条件や制約はあるとのだったが現状だとそれまでしか分からなかったという。
「ま、そんだけ分ければ十分。そこまで分かれば倒す手立てはいくらでもある!」
「メキラの予想通りに時間制限があったぽいしね。昨日得た耐性はリセットされてるみたいだし」
1属性に偏らせた刃と弾丸が9階層を飛び交う。
やたら強靭なモンスターをそのゴリ押しで倒す。次に来たモンスターはさらに強靭さを増して襲いかかるがそれでも一切ダメージが通らないくなるまでそれを繰り返し、別の属性に切り替えてまた同じこと行う。地道な作業ではあったが昨日よりかは遥かに効率よく敵を殲滅していっている手応えにふたりの顔に喜色が浮かぶ。
―― 彼女らの予想は概ね当たっていた。
巨大ピンク兎……クイーンの現在の種族は女王兎から子を100殺されるが条件の
そこで新しく追加されたスキルが『母心』と『鬼子』ふたつ。
『母心』……自身の系譜の子を殺されると殺害カウンタをその対象ごとに貯める。これにより系譜の子は殺害カウンタに応じたその対象からの攻撃種類ごとへの耐性を得ることが出来る。
例えば斬撃で殺されると斬撃の、火の魔法で殺されると火属性に耐性が付く。ただしこれはプレイヤーごとに別々でカウントされており、要は人が上げた耐性は別の人には影響しない。そして殺害カウンタは1日置きにリセットされる。
耐性を与えられる範囲も決まっていて、鬼子母兎10✕10キロの範囲内……丁度9階層を覆う範囲にいる子にだけ影響する。
『鬼子』……他の『繁殖』スキルを持つモンスターを取り込みその進化系統のモンスターを『繁殖』の対象に出来る。その代わりにこのスキルを所有してる限り自分自身の種族(今はクイーンの鬼子母兎)は『繁殖』の対象にはならない。
これにより栗鼠や鼠などまったく違う進化系統の種族も『繁殖』と『多産』コンボで大量に増やし『母心』の影響下に置いた訳だ。
内情を見てみると制約がやたら多く扱いづらい種族だ。それでもパターンにハマりさえすれば無敵の軍隊を築き上げることも出来る強力な種族だった。
モンスターをやたら多様なやり方で殺させるように誘導したのもここへの布石。殺害カウンタは耐性の適応範囲とは関係なく貯まるので多様な殺され方をされればされるほど、あとのクイーンの軍勢はより強固になる。
前に両クランが苦戦したのもそのため。だが今回は違う。それをある程度、事前に予測していた『Seeker's』や同じ情報を共有していた『快食屋』は当然、今までの攻略中は捨て属性を決めて使ってきた。その甲斐もあって使える属性たんまり残っていて『Seeker's』の3人と『快食屋』はどんどん前線を押し上げていっている。
ただその間にかなり時間が経ったようでついにここまで後続のプレイヤーたちが押し寄せる。
「はぁ、はぁ……よ、ようやく先頭に追いついたぞ!」
「でも、何だこのモンスターの数!?」
「ええい、そんなことはいい、行くぞ……んなっ!? 攻撃が効か、ぐへっ!?」
でも9階層のギミックを知らない後続がここを抜けるのは至難の業。
攻撃がほぼ効かない敵に慌て、その隙きを突かれると最後。突撃兵よろしく吐栗鼠を構えた兎男により滅多打ちにされ全身に餓鬼兎塗れるになって光の粒へと還る。
何パーティーかがそうやってやられるのを見ていた、さらに後から来たプレイヤーたちは一旦足を止めて考える。
どういう原理かは分からないが攻撃が通らない敵がいる。その場合プレイヤーたちは無理をして先頭に追いつくのを選ぶか?
答えは否。そんな不毛なことをするぐらいなら確実に攻撃が効くとわかる敵……先頭を狙うほうがいいと結論付ける。このままじゃ10階層へ先を越されるし対処法は先行くものを消してから考えれば済む話だからだ。
「ちっ、挟み撃ちか!」
「ちょ、流石に洒落にならないんだけどぉ! こっちは今3人しかないのに!」
「……邪、魔っ!」
「クラマス、これうちもまずいんじゃないっすか!?」
「ぬぅ……っ!」
泣き言を言いながらもしっかりとモンスター、プレイヤーの前後から攻撃している3人だったが如何せん多勢に無勢だ。しかも何だかんだここまで来るまで結構疲労が溜まったのもよくなかった。
ここまでフルスロットルで突っ走ってきた『快食屋』側も余裕はなく、前後からの圧力に徐々に押され『Seeker's』諸共に押し潰されようとしている。
もうダメか……そう思ったその時メルシアの視界があるものを捉える。それは今この瞬間もっとも待っていたもの。
「ッ、……バッキュン反転だ! 後続プレイヤーの方にとっかえすぞ! カグシはそのまま前進して道を作れ!」
「はぁ、なんで……ッ!? そういうこと!」
「……やっと、来た」
メルシアに続いてそれを確認したバッキュンとカグシも納得の表情を浮かべ指示に従い行動に移す。メルシアとバッキュンが後続プレイヤーたちに襲いかかり、カグシが道を作るべくモンスターたちに立ち向かう。
「なにか知らんが……なにか考えがあるのようだな。俺たちも助太刀する」
「了解っす! お零れ頂戴ってことっすね!」
突如変わった『Seeker's』の動きに何かを察知したのか、すぐさま双方へ救援に向かい自分たちの活路を見出す『快食屋』。
そうやって各々が動き、ぶつかろうというその瞬間……。
「―― 撃てー!」
澄んだ声が戦場を包み、魔法や矢、弾丸と遠距離攻撃が後続プレイヤーを背後から討つ。挟みうちするつもりが逆にされた後続はその殆どが対応しきれず死に戻っていった。その後残った何人かもメルシアとバッキュンの手からは逃れられず後続は瞬く全滅した。
「どうやら間に合ったようね」
「キラっち! もう、遅いよ~」
プレイヤーを薙ぎ倒しメルシアたちが引き返しその先に居たのは先程別れたばかりの同僚……メキラと彼女が率いる『Seeker's』の他メンバーの部隊だった。
「俺たちも来てます」
「やっほー。メルシアさんにバッキュンさん」
「おー
「ええ、当然です! プレジャのやつ顔面にいいもの食らわせすまで帰れないんで」
「お前……まだそれ諦めてなかったのか」
いつものと変わらない様子のふたりを見て苦笑を浮かべていたメルシアは目線を戦場に戻し、その先を見据える。その顔はいつの間に獰猛な笑みに変わっており、また肉食獣のような雰囲気を漂わせていた。
「よーし! メンツも揃った。カグシと『快食屋』が折角開いた道を無駄する手はない! 皆のもの、このままあのデカブツをのして10階層に突撃するぞ!」
「「おおうー!!」」
その後、特殊能力に傾度して戦闘力が皆無のクイーンが両クランの猛攻に耐えれるはずもなく……彼、彼女らはついにこの『
――――――――――――――――――
・追記
鬼子母兎:クイーンの進化先。進化ルートは女王兎→
条件は子を10万産んでいるという非常にシンプルかつヘビーなもの。クイーンに実質ほぼ全ての従魔の補充を任せていたが故に出てきた進化先といえる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます