第8層 予選編
第159話 イベント開催
恐らくこの章はほぼ3人称視点となります。
なので主人公視点に戻る時だけ冒頭に記載しそれ以外は3人称視点の予定ですので、ご了承ください。
――――――――――――――――――
ワールドマップの中央……週末で比較的にプレイヤーの数が多いその日付けの始まりの街の中。
《さぁ、今日も《イデアールタレント》をプレイしてくださる皆様、たいへーんっお待たせしました!》
今そこでは巨大なホログラムが街のどこからも一望出来る大きさで展開されて、派手な、まるでアイドルみたいな服装の女性が映っては声を張り上げていた。
《本日、この時をもってクラン対抗戦イベント!《集星よ、理想が先は闘争の向こうへ》の開催を宣言いたしまーす! 》
彼女が開催を宣言すると共に街のあっちこっちで花火が打ち上がり、歓声が轟く。
イベントに合わせて集まった、数千数万のプレイヤーたちの合唱は暫く鳴り止まず街中を震わせる。
《今日は私こと、VR系アイドル星野ギラが司会役としてこの《イデアールタレント》の世界にお呼ばれしました! よろしくおねがいしまーす!》
―― VR系アイドル。
それは完全没入型VRゲームが活発となった時期に現れ、一時期は一世を風靡した新ジャンルのアイドルだった。
VR技術を利用して現実じゃあり得ないパフォーマンスをCGなどでは比べ物にならリアリティーで披露出来るというのは当時の人たちには新鮮な驚きと感動を齎したそうだ。
何よりVRという仮想の空間を通してではあるが、ネットを経由してこういった興事など気軽に参加し、現実のライブなどよりずっとアイドル本人と距離を近く感じられるということもファンに受けた一因。
今や供給も増え、普遍的なジャンルとして受け入れらるに至ったがそれでも根強いファンが多く、始まりの街のあっちこっちで星野ギラに歓声を送ってる者たちがいた。
《さーて、気になる予選試合はランダムマッチング方式! イベント期間の間は朝から深夜に掛けてまでマッチング申請が有効になり、申請を行ったクランから順に専用サーバーに飛ばされて対戦を始めることとなります。この時に勝利するのは最後の1クランになるまで拠点のコアを破壊し他クラン退場させるか、もしくは制限時間が経過した時に様々な行動で上がる総合貢献度が最も高いかで決まります!》
このイベントに際して、予備として確保していたサーバーをフル稼働し、もし全プレイヤーが同時に対戦を行っても問題ないように余裕を持たせている、とも補足された。
《予選では様々な形でポイントを獲得することが出来、それを用いイベント限定で開設される専用のショップで皆様お楽しみ、景品との交換をすることが可能になるわけです! 予選ポイントでの交換も中々の品揃えとなっておりますのでじゃんじゃん狙って行きましょう!》
それでポイント獲得方法は……と、続き勝利ポイント、連勝ボーナス、奪取ボーナスの説明が入る。
このルールにより、プレイヤーたちは大きく分けて2つの戦略へと割れたことだろう。
勝利ポイントを狙い、あわよくば連勝を目指す真面目な正統派と。
弱者や隙のあるクランに目をつけて、ポイントを奪おうとする姑息な強奪派に。
《そしてその予選ポイントで先に本戦の出場権を買い上げた先着6クランが、明日開かれる本戦の激戦へと突入することになります!》
その説明が入った瞬間、所々で緊迫した空気が流れる。
分かってはいても直接言われるとそれを狙ってるものたちからしたら、無意識に牽制なり緊張なりするのは仕方がないと言えよう。
《ご存知かもですが、この本戦で取れるポイントは予選のものとは別枠で貯まり、予選ポイントでは買えない豪華景品と交換することが可能になります! 是非、豪華景品を目指し本戦枠を勝ち取りに行きましょう!》
次の言葉には思わず皆が妄想し、期待と興奮に胸を膨らませる。
本戦ポイントでの景品リストは装備も消費アイテムもどれも本当に豪華だ。それで夢見るプレイヤーが多いのもまた当然のこと。
《では以上を持って解説は一旦締めといたしましょう。最後に私から皆様に声援を―― 野郎どもォ! ここからは情けも容赦ねぇ! 血湧き肉躍る闘争の始まりだァ! 1匹でも多く敵のドタマぶちのぬて、もぎ取って最高に楽しんでこいやァ!! 》
◇ ◆ ◇
可愛らしい見た目に反してドスの利いたシャウトの声援を送った星野ギラ氏(こういうキャップが売りの人らしい)を眺めながら、俺たち『
「ふふふ、ついに始まったみたいだね」
「そうだな」
「きゅう」
ここはアガフェルのファン所有のホームで、彼女はこうしたファンたちを通してのセーフハウスを何件も持っているそうだ。
そのお陰で俺たちはごった返す街中に居なくても、開催式を優雅に鑑賞出来るわけだ。
ちなみにそのアガフェルはもう少しで大舞台でお見せするからと、コーデの最終確認に忙しい。
「ファストちゃん毛並みがキラキラした銀色になってるね。進化したの?」
「まあ、そんなところだ」
「ふーん……まあ、いっか。それより早くマッチング申請するよ。で……最初は誰がやる?」
俺たち『
それは……
「俺から行くぜ。クラン名が知られた後だとやり辛れーからな」
「トップバッターヨグくんか~。まあ、私は3番目いいかな」
「なら妾、2番目に出ますわ」
「自動的に俺が最後か……まあ、そっちの方がありがたいから俺はいいけど」
―― 1対戦ごとに1名だけ、メンバーが出場し全勝すること。
《イデアールタレント》のクランのシステムで1クランの最大所属人数は60人。
そしてマッチングの最大枠数は6クランだ。
つまりは最悪の場合は300名のプレイヤーをだったひとりで相手取るということ。
これを初めて聞いた時は、我らがクランマスターも無茶を言うと思ったものだ。
これだけの数だ、仮にひとりひとりに技量や戦力が上回っていたとしてこちらもリソースには限度がある。
この対戦に持ち込めるアイテムも1クランごとに上限が決まっていて、持ち込めなくはないがポーションなど消耗品に関しちゃ基本はあっちの対戦用マップからポップする素材で自給自足する前提だったから尚更だ。
普通に考えて……いや、普通じゃなくてもこれは厳しいものがある。
「―― まあ、それも私たちじゃなかったらの話だけどね」
「
「普段枠が勿体なくて取らないMPアップ、軽減とかの何かと効率アップする系を気軽に取れるからめちゃ楽になるよね~。まあ、それもうちに優秀な職人さんがいるお陰だけど。いやーヨグにはほんと感謝だよ」
「チッ。こっちにしちゃいいテメェに捕まったのはいい迷惑だったつーの」
悪態をついてそっぽを向くヨグだが、俺は知っている。
なんだかんだ言って、
見た目と口調は荒っぽいが、中身は少年の心を大事にするツンデレ気味の兄ちゃんであることを。
やることなすことは物騒極まりないが、そう思うと微笑ましく見れるから不思議だ。
「ま、兎にも角にも……有象無象どもをさっくり片して来るわ」
「頑張れよ!」
俺の応援に片手を上げるだけで返事をし、マッチングのクランメンバー登録欄に自分の名前だけ載せて……ヨグは対戦用のサーバーに飛ばされていった。
「大丈夫かな、ヨグ」
「あははは! 後輩くんヨグくんの心配してる、はははっ」
「そ、そんなに笑うこと!?」
「ははは、ごめんごめん! ……でもそうだよね、後輩くんはヨグくんの対人戦は見たことものね」
俺の心配に爆笑していたヘンダーが途中から冷静になたっかと思うと……
「なら後輩くん、よく見ておいて。ヨグの対人戦を客観的に見れるなんて滅多にない機会なんだから」
……意地の悪そうな笑みを浮かべて俺にそう言い放ったのだった。
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