第160話 『無器』ヨグー1
クラン対抗戦・対戦サーバー『森林型フィールド』。
その隅にある石造りの建物の中にヨグはスポーンしていた。
「お、森か。こりゃ当たりだな。今日は運がいい」
スポーンした場所はその建物の広場のようで、その中央には水晶玉みたいなもの……拠点のコアがふわふわと地から浮かんで鎮座していた。
それだけ確認したヨグは早速とばかりに今いる建物……クラン拠点の屋上へと登る。
「ふぅ……っ!」
流れるような動作で腕を銃身に変形し、そこから棒状のものが撃ち出されては拠点を囲むように地面や木々へと刺さる。
ブォン、と電子音を鳴らしてその棒から何かが飛び出して拠点を覆うと、森という地形で浮きまくっていた拠点の姿が綺麗にさっぱりとなくなり普通の森と同じ風景に変わる。
「拠点のコアがやられっと、そんだけで一発退場つってたからな。念には念をだ」
フィールドホログラフィー。
いくつもの小型投影機を設置し、立体的に広範囲を偽装するヨグ作の装置だ。
それに加えてヨグがホログラムで映る森の映像を微調整し、もし近くに誰か来ても迷って遠ざけるようにまでしてから、ある程度はここに近寄ると警報が届くようにもして、ついに行動を開始した。
これでひとまず安心と拠点を出て森に繰り出す。
ある程度拠点から離れた時点は丁度あった高い木に登り、また変形。今度はしゃがみ込む姿勢で脚を高性能の遠距離探知機へと変える。
「どれ、近場に湧いた運の悪りぃカモはどこだ…………っお」
望遠、熱探知、音響探知、赤外線センサー、魔力感応機……その他も色々と盛りに盛った探知機器で索敵を行う。
間もなくその探査範囲に数名のプレイヤーパーティーを捕捉する。
「んじゃ―― 殺るか」
一言呟いてから、木の上から落下。
そのまま地面に衝突……する前に胴から出たスラスターで緩やかに減速し、下半身を変形しホバー移動へと以降。
なお、この動作の際に起こった音はヨグが作った防音対策によりほぼなし。この時に鳴った音は間近で耳を澄ましでもしないと聞こえることはないだろう。
そしてホバークラフトで足音ひとつ立てずにすいすいと木々の生い茂る森を滑走。
瞬く間にさっき発見したパーティーの傍……その死角に着く。
(総数4名、構成は前衛2、後衛1、斥候1。装備解析、よし。動作から技量逆算、よし。会話から指揮系統を算出、よし。それと…………)
それからも暫くパーティーの動向を細かく観察した後に、また音もなく跳躍。
枝から枝に無音で乗り継ぎ、いとも容易くパーティーの死角に潜り……静かに一閃。
「……――」
ヨグが身体の余った空間には大抵は仕込んでいる収納式の薄型ブレードは後方警戒していた斥候が声を上げる暇もなく、首と胴を泣き別れさせた。
自分が切られたことすら気付かない斥候の落ちる首と倒れる身体を、ヨグは接触部から
斥候は
―― 他のものが死んだ斥候に気付くまで後数秒。
これまでの分析でそれが分かっていたヨグは間を置かずに行動に出た。
「武装展開」
「「ッ!?」」
ヨグが発した(なお声も偽装済み)キーワードと同時に近くに前衛と後衛が振り返るも、時既に遅し。
瞬時に変形を終えていたヨグの腕から大釘が射出され、頭から胸にかけて肉片に変える。ただ、釘は一瞬で引っ込んだので傍から見るとヨグが手を突き出すと同時にその延長線上が勝手に爆散したように見えただろう。
今使ったのは消音処理を施した体内収納型のパイルバンカー。そこそこのタンクジョブでも一撃で粉砕できるヨグお気に入りの一作だった。
「なっ、この、良くも……!」
仲間が粉々になる瞬間を少し離れて見ていた最後の前衛ひとりが、激昂してヨグに手の剣を突き出す。
上段からヨグの頭上を狙い、すんなりと突き刺さる……。
「よっしゃ、脳天かち割った、り……あれ?」
……かに見えた。だが、すぐに違和感に気付く。
手応えがなさ過ぎる。まるで虚空を空振ったような感触だけが返ってくる。
「こッ……――」
「――」
直前にそれに気付いた最後のひとりだったが、それと同時にすべてが終わっていた。
その場でホバー待機させてた分離した腕から、自分のホログラムを投影させ離脱し、背後に回っていたヨグに真っ二つにされていたのだから。
「死亡確認―― うっし、処理完了だ」
相手が確実に死亡したか、念入り確認した後に先程取れたパーティーの痕跡データから移動軌跡を逆探知を開始する。
「どれ、この連中が来た場所は…………ははっ、あそこか!」
幾つかの機械を回して数十秒。
それだけの時間でやつらの拠点の場所を割り出し、今度は少し音を立てることも構わずでも慎重にパーティーが来た場所……この者たちのクラン拠点へと急ぐ。
対抗戦は復活はゾンビアタックを防止するために即座には出来ず、必ず数分のクールタイムを要する。ヨグのスタイル上、そいつらに拠点へ戻られて報告されると少々面倒になって来る。
「さーて、あのマヌケ野郎どもが巣穴で湧く前にさっさと駆除してねーとな」
そういう割と切羽詰まった状況でありながらも、ヨグの顔には凶悪な笑みが張り付いていたのであった。
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