第37話 『Seeker's』-2

後日『ノースライン』19階層。


「とーちゃく!」

「やっぱここまでなら楽勝ね」

「問題はその先に行く方法よ。ここからAIカメラ出すからみんな持ち場に着いて」

「「「はーい」」」

「いるの全員成人のはずなのに、なんでいつも私が引率の先生みたくなるのかしら」


VR内で撮影を自動でしてくれる自動追尾型のAIカメラプログラムを起動させて呟くメキラ。メンバー全員分のカメラアイコンが宙を漂い赤いランプが着くと撮影が開始される。


「みなさんこちんには! どーも社長ごとメルシアでーす」

「こんちは~! VR界隈、世紀の美少女バッキュンでーす」

「えーと、今日はここぶっ飛ばします。カグシです」

「今日もこいつらのお守りやらされてます。メキラです」

「えー! キラっちひどーい」

「ぶーぶー」

「と、じゃれついてる3人は置いといて今日の企画は……」


それから暫く導入の挨拶と説明を済ませ各々担当のAIカメラを引き連れて探索を開始する。


「ま、要はここの地表を捲ればいいだけっしょ。ならあたしひとりで十分! だから、やらせて?」

「あんたは新武器自慢したいだけでしょうが」

「あー! ネタバレ禁止!」

「まぁまぁここはぱぱっとバッキュンの腕前でぶっ飛ばせばネタが割れていようが関係ねーだろ、な!」

「ふふん、まーね! なんだってあたし天才だから」

「……ちょろい」


煽てに気を良くしたのかピンクで装飾過多のホルダーからこれまた同じデザインの2丁拳銃を回しながら取り出し、赤と白のツートンカラーの髪を揺らしながら決めポーズを決めるバッキュン。ただふざけるのもそこまでだった。


次の瞬間には真面目に銃を構え狙いを定めていた……と思って時には既に連射音が響いていた。時間にして数秒足らず。その短い間に彼女の正面にいた射程内の地面が綺麗にしていた。


「まだまだいくよ~!」


だが彼女の演舞はそれだけでは終わらない。

言うが早いかその場で走り出すバッキュン。それに追従するように銃口のフラッシュが瞬き尾を引く。通り過ぎた箇所からも綺麗に上の床が消え去り破壊不可の床が露出していく。その様はまるで地を這い回る流れ星が如し。インベントリが弾倉の代わりであるゲームだから可能な芸当なれどこの連射速度と射撃精度は誰でも真似できるものではない。


なお本人の操作の元、カメラもそれを追従しており、走る時の風で際どくなってる部分をずっと映している。彼らはプロ、どんな場合でもいい絵を逃すことは決して許されないのである


「ははは! 相変わらずデタラメな連射速度と精度だな」

「笑い事ですか。ゲームじゃ無きゃ間違いなく拳銃か腕がぶっ壊れてますよあれ」

「……しかも、今日もムダ玉なし。バケモノ」

「はっはっはっ好きに言っちゃててください~! その羨望があたしを、もっと、輝かせます・か・ら!」


こんなに喋りながらも銃撃にブレはなく、まるで機械で図ったように正確に狙いを穿ち破壊が塵と舞う。このままいくと本当に彼女ひとりによって19階層は更地と化すことだろう。


「ボクも、でる」

「お、カグシも行くのか?」

「インセクトマスター、ないから」

「つまり退屈なのね。ま、行ってらしゃい」

「……うん」


インベントリから長さ3メートルは超えそうな大剣を2本も取り出しながらカグシが立ち上がる。小柄な体には似つかわしくないそれを両手に持ち、短く切り揃えた銀髪を首だけで流して深呼吸。


「ふぅ……はっ!」


息を吐き出し地を砕く勢いで駆ける。そのまま大剣を振られ前方の一切合切がめくれ上がり吹き飛ぶ。片手での大剣の大振り……普通ならここで一旦止まり構え直すのが妥当な流れだ。


だがカグシは止まらない。進み続け続けながらむしろ大振りを反動でコマのように自転し反対の手の大剣を振り抜く。それかれも続く連撃、連撃。

特大の質量を暴れさせながら危うさを微塵も感じさせない暴力の輪舞曲ロンド。この精緻なる暴威をなんとなくの感覚だけで実行しているのだから恐ろしい。


そしてカグシにもバッキュン同様のカメラワークでその様子を撮られ続けている。何がどうあれそこは抜かりないのだ。


「カグシの剣捌きは今日も迫力満点で冴えてるな。それにやはりロリっ子に大剣は正義だ!」

「そこは賛同ね。ただ……これほっとくとふたりして迷子になるわね」

「あーはははは! たっのしいー!!」

「これは、爽快!」


どうも遠慮なくダンジョンをぶち壊すのにどんどん快感を覚えるようになってきたのか暴走気味に移動範囲を広げるバッキュンとカグシ。このままだと確実に逸れそうだ。


「世話が焼けるな。俺はカグシで」

「あなたも似たようなものよ。なら私がバッキュンね」


先に仕掛けたのはメキラだった。メルシアが駆け出し、同時にメキラがその場で魔法を行使する。なんの気ないしに氷で出来た棒を作りだしそれを投げかける。

鑑定士はあくまでサブジョブの枠組みなので彼女のメインジョブは魔法使い系なのだ。


「あそこね。止まんないさいこのじゃじゃ馬娘」

「ぶらきゅ!?」


氷の棒はまるで吸い込まれるようにぶんぶん回転しながらバッキュンの足の間に滑り込み、全力疾走中の足を引っ掛ける。当然派手に転倒したバッキュンは奇声をあげて地面に顔面を擦る。


「ちびっこも落ち着け、よ!」

「あっ」


その間にカグシに追いついたメルシアは大剣の柄頭が来る直線軌道に短剣を立てて置く。柄頭が刃先に触れた瞬間、短剣で柄頭を押して手から大剣をすっぽ抜けさせる。


「おっと危ない」

「ふぐっ」


あまりに突然重さのバランスが変わり転びそうになったカグシを受け止めるメルシア。そのままカグシは抱っこされ、バッキュンは首根っこを引き摺られ合流する4人。


「ぶーぶー! なーんかあたしとカグシちゃんであつかいに差を感じるんですけどー」

「当たり前でしょ何言ってるの?」

「横暴だー! 差別だー!」

「きゅうー」

「お、どうした甘えてきおって。うりうり、うい奴め」

「あ、メルっちがカグシちゃんナデナデしてる。あたしもカグシちゃんモフる!」

「ちょっと……私も混ぜないさい」


(そのあと暫くイチャイチャタイムが続きました)


「ふぅー満足。あ、カメラ回ってるの忘れてた」

「……ここは編集ね。それはともかくいい加減調査に移りましょう。もたもたしてるとフィールド修復が始まるわ」

「おっとそうだった。みんな虫メガネは持ったな? なら手分けして床を調べるぞ!」


徐ろにあたり散りめくれ上がった地面をためつすがめつ調べ始める『Seeker's』の面々。この際も単調な絵でも飽きが来ないようにと全員がいい角度でカメラをつけて胸元やスカート裾を映すプロ精神も忘れない。


「また見付けたよ」

「お、ここにもあった」

「こっちにも、いっぱい」

「こうして見ると結構な数あるわね。これは時間が掛かりそうだわ」


それから数時間後。

調査の範囲をさらに広げ、モンスターともたまに交戦しながらも調査を終える。


「……結論として土属性の魔法でこの細い縦穴を束ねれば下への階段が掘られる仕組みね。しかもこれ元々こういう構造ってだけだから虚偽を見抜くだけの『鑑定』だと分かりようがないと。これは私じゃ見付からない訳だわ」

「意地悪いな、ここの運営も。あははは!」

「笑い事じゃないわよ。この先ずっとこんな調子なら、下手すると今の私のジョブ構成を根本から見直さいといけなくなるんだけど?」

「そうか、それは大変……ん? 待てよ。ならアバターも作り直しか。今のはクール美人系だよな。なあ実は次のモデルにするのセクシー美人系か可愛いお姉ちゃん系かで悩んでてだな……」

「真面目に聞け、この美少女オタ・ネカマ野郎が!!」

「失礼な、俺がこの姿なのは自分の作品と一体となり、最大限の愛を示すため。あんなチヤホヤされたいだけの腑抜け連中と一緒にしないで貰おうか!!」

「はんっ! どっちも変態なのは変わりないでしょうが」

「なにをー!?」

「あん? 私とやるっての!」

「いいからこっち手伝ってよ。これアホみたいに数だけはあるからあたしだけじゃしんどいってばー」


ぎゃいぎゃいと騒ぐふたりを他所にひとり穴を集める作業をしてたバッキュンの愚痴に言い合いを一旦は中断となり階段を彫り始めるメルシアとメキラ。

カグシは魔法が使えないので周辺警戒担当だ。ジョブ云々以前に技術ではなくほぼ本能で動くカグシは思考操作ありきのVRでの魔法が昔から大の苦手なのである。


それからされに30分ほど掛けて20階層のボス部屋の階段が開かれるのであった。





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