第38話 『Seeker's』ー3
「あんな苦労して拝めた20階層のボスだったけど……あっさり倒せたな」
「そだね~、これは仕掛けのほうが本番だったってオチ?」
「……多分そうなんでしょうね」
あんたらが強すぎなのもあるけど。と言う言葉は聞くと約2名調子に乗るのがいるので口には出さないメキラ。そしてそれも何のそのでいつの間にか次階層の階層まで行っていたカグシがちょいちょいと手招きしていた。
「みんな、遅い」
「お前が性急過ぎなんだよ」
「もう、そんなに先が待ちきれないなんて。カグシちゃんってばかっわいい~」
「うん……新しい敵、ぶっ倒す」
物騒なことを口走るカグシにもいつものことだと流し『Seeker's』はついに21階層に踏み入れる。森の大自然を一通り堪能したあと本格的に探索を開始し22、23……と凄まじい勢いで階層を駆け降りる4人。
「にゃはは、これは20階層帯は楽勝だね!」
「ははは、そうだなこのままガンガン行こう!」
「ちょっとふたりともペース落として。敵があんま強くないからって調子に乗りすぎよ」
「ボクも、いく」
「あ、カグシちゃんまで! もう……」
久しぶりの攻略の順調さに火がついたのかメキラ以外の全員がダンジョンの森を爆走する。勢いに乗りに乗ってあっという間に階層を飛ばし26階層へ到達した4人だったが……快進撃そこまでだった。
「敵、きる!」
「やったれ……ッ!? カグシ避けろ!」
「っ!」
その時に虚空から突如として現れたいくつもの棘が先頭を走って途中にあったモンスターに斬り掛かろうとしたカグシを襲う。でもそこは『Seeker's』、巷ではプロのゲーマーに匹敵するとも言われるほどの実力者たちだ。多少の不意打ちなど即座に対応し得る。事実飛んできた棘のようなものはすべてカグシの大剣に叩き落とされた。
だがそれが油断でもあったのだろう。カグシは“避けろ”いう警告を無視し自分で対応出来ると判断して反射的に動いた。そのカグシをメルシアが突き飛ばし体を入れ替える。
次の瞬間ぐさっとメルシアの体を何かが貫く感触した。すぐに確認するとそこにはさっきに飛んできた、でもすべて叩き落としたものと同じ棘が深々と刺さっていた。直前までそこには何もなかったはずなのにも関わらず、だ
「ぐっ」
「メルシア!?」
「へへ、なーんかあの飛び方なら仕込みがあるかも思ったんだが……ビンゴだ」
見えていた訳ではなく純然たる勘だけで危機を察知してカグシをかばったメルシア。この濃いメンバーの中でリーダー役を張れるだけことはあるのだろう。
「言ってる場合!? 早く治療を……」
「キラっちそんな暇ないっぽい。囲まれてる」
「え?」
これまた何もないはずの空間からモンスターたちが滲み出る。それは地上、木の間と上、上空までに及び、気付けば全方位を埋め尽くすモンスターの大軍が周辺一帯を包囲していた。その総数はざっと見ても数百は優に越える。
「おっかしいなー。俺索敵系のスキル切らしてないはずなんだが」
「私も走りながら随一に『鑑定』を撃ってたはずだけどこんな数のモンスターどこにも」
「よくわかんないけど全部ぶっ放しちゃえばいいっしょ」
「メルシアも怪我した、ボクが早く片す」
「無茶な……とは思うけど、今はそれしかないわよね!」
メキラが風属性の魔法を広範囲にばら撒き、それに乗じてバッキュンが銃弾が乱れ飛ぶ。飛び交う銃弾を掻い潜りカグシと負傷してるはずのメルシアでモンスターの群れ接近する。
「メルシア、休んでて」
「こんぐらい平気だっての。VRで痛みとかないしな。あと気にも病むなお前のせいでもないから」
「……うん、ありがとう」
それだけ通じたと言わんばかりに頷きあい、各々の敵に狙い絞るふたり。
豪快に大剣を振り回す、だが決して荒っぽくは特大の剣舞が繰り広げられる中メルシアは落ち着いて戦場を歩く。
「どうもちびっこに心配掛けたみたいでな。さっさと片付けさせてもらうぜ」
左手にメニューを出し右手は無手のまま横に薙ぐ。本来なにも起きるはずがない腕の延長線上にいたモンスターたちが一瞬で光の粒と化す。それだけでも訳がわからないと思うがさらに不可解なのは、攻撃を受けたモンスターのダメージエフェクトが1匹1匹違う武器により齎されたものだったことだ。
「今日も滑りなしっ」
今一体何が起きたのか。
正直やったこと自体は非常に単純だ。腕を振るのに合わせて装備欄で武器を連続で切り替え続けたに過ぎない。
ただし腕を振り切る1秒にも満たない間に軌道上にいるモンスターすべての急所を確実に切れる種類の武器を取捨選択し適切な、当たるタイミングを測って……だが。
傍から見ると色んな武器のテクスチャーが重なっては消えるバグじみた挙動をしていることだろう。
出来るゲームではメルシアが必ずやると言っても過言ではない得意テクニックのひとつ
一瞬で内にあらゆる間合いに適応出来、有効な武器を瞬時に選び叩き付けられる。こういった乱戦に置いてもっとも効果的な戦法の1つだと自他共に認める
「いつ見ても人間業じゃないわね」
「ひどい言われようだな。というか俺からしたらお前のそれのほうが理解しがたいんだけど」
メルシアと駄弁っているメキラもこう見えてちゃんと戦闘に貢献していた。今もいくつもの触媒を手中で転がしながら4属性すべての魔法を同時行使している。それで喋りながら周りを『鑑定』などで警戒までしてる余裕まであるのだから、彼女も十分人間離れした器量の持ち主と言えよう。
「なにはともあれ、これなら……ごふっ」
一時奇襲で危うかったが持ち直したと笑みを浮かべかけていたメルシアの口から血のようなエフェクトが飛び散る。自身の変化を敏感に感じ取り瞬時に後退するがそこで視界が朦朧となり片膝をつく。
「メルシア!?」
「今『鑑定』するわ。状態異常、感染……見たこともないやつね。効果はランダムで一定間隔目眩、咳、脱力、発熱の状態異常を発生させること。しかも近くであの血っぽいエフェクトに触れると周りも感染になるみたいよ!」
「なにその聞いただけでダルいやつ! ってか感染とか字面だけで嫌すぎるんですけど! キラっち早く治せないの!」
「無理ね……魔法、薬同様の対応するものが現状ないわ」
「はは、そりゃ不味いな……全員俺から離れろ。そのあとは3人で死角を埋めながらモンスターの殲滅にあたれ」
その指示に少しメルシア以外がぎょっとした表情を見せたが、すぐに状況を分析しそれしかないと思ったがのか離れていく。
「……気をつけて」
「ああ、心配すんな。こんぐらい楽勝よ」
カグシだけ少しでけ未練がましく声をかけたがメルシアが軽口を叩くと振り切るように走っていった。
「格好つけたはいいものの……参ったなこれは」
ああは言ったもののメルシア自身正直言うとあまり余裕はない。感染の状態異常は今も異常を増やしたり、それを時間経過で治ったりを繰り返している。
いつ変容するか読めない状態異常を気にしながら100は超えそうなモンスターの群れとの戦闘をひとりでこなさないといけない。これは稀有な思考処理速度を持つメルシアでさえ困難なことだった。
「……ま、ここで神プレイ魅せれば死に戻っても撮れ高にはなるか。それも俺ならやってやれないことはない!」
そう自分に活を入れモンスターの群れに駆け出し
「ごほっ! がぁ、目眩と咳が同時に来やがった!」
視界と呼吸の乱れで操作がブレそうになる。モンスター攻撃を大きく躱しながらブレを込みで即座に動きを矯正する。そこまで掛かった時間はだった数秒。
だが高速戦闘をしながらこれを続けるのはいくらメルシアでもキツかった。
「せめてあいつらが逃げ道を確保するまでは持たせないと」
今回は未知の階層を攻略するってことでかなりいい装備を持ってきている。というか現在『Seeker's』が3rdステージでドロップした最高性能ボスドロップ武器をメルシアのバトルスタイルに合わせていくつも持ち合わせている。
どんな特殊ルールあるかも知れないマップで死ぬのは可能な限り遠慮したい。リスクよりリターン考えての選択だったが……しくじったかなと今更に思うメルシアであった。
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