第176話 本戦へ向けて
俺たちの対戦が終わった、その後。
「後輩くんお疲れ~。なんか最後の人達面白かったね!」
「ああ、中々の手強かった。正直、ファストが無かったらもっと苦戦してた」
「そうだ、ファストちゃんだよ! 何あの変身、私も聞いたことないんだけど!」
「それは俺も気になるな、何なんだありゃ」「妾もあれは流石に説明が欲しいですわ」
「わかったから、話すからみんなして詰め寄らない!}
よっぽどみんな気になっていたのか、ずいっと迫ってくるメンバーたちを押し返しながらファストが固有種になった経緯を大雑把に話す。
「うひゃー固有種の進化って……相変わらず後輩くんギャンブラーだねー。私は絶対に無理」
「がはは! 俺は嫌いじゃねぇ。やっぱ男たるもの決める時はそんぐらい豪快にいかなねぇとよ」
結構な言い様だが、固有種のリスクを考えれば仕方の無いことだ。
ハイリスクハイリターンかもしれない博打でするのはよほどの豪気か阿呆だけ。これが、《イデアールタレント》内での固有種の進化への認識なのだ。
そこからもやれあれはどうだったの、その時はああだったのとと対戦内容を振り返りながら休憩がてら雑談していたのだが……。
「とにかくこれで我々、『
と、一区切りについたタイミングでヘンダーが突然こんなことを言い出した。
「これからは後輩くんを我々の表のリーダーにしたいと思います」
「……はあ!?」
驚き過ぎて、思わず素っ頓狂な声が出た。
何を言ってるんだ、この人は? リーダー、俺が??
ヘンダーの言葉が飲み込めず、混乱してる俺の様子を見て取ってか彼女は諭すように、でもいつもの軽い調子で次の言葉を紡ぐ。
「だって考えてみ? 後輩くんは今やプレイヤーなら誰もが知ってる迷宮の主になってるわけでしょ」
「ああ」
「それでただの下っ端って……ぶちゃけ格好つかないじゃん」
「そんな理由……?」
あっけらかんとなんとも言えないコメントを宣うヘンダーに呆れていると……。
「いやいや、重要なことだからね。正直今や実績も知名度も過去の私より後輩くんが上でしょう。しかも私一応君に負けた光景をばっちり公開しちゃってるし、これで『私がこの中のリーダーです』って出しゃばっても誰も納得しないのは明らかだよね」
「それは……」
俺の個人的な感傷を抜きに見れば……確かにその通りだと思った。
俺自身
ももし何も内情を知らずに傍からこの状況を見てれば「あいつ負けた癖に偉そう」とか言っていたかもしれない。それに……。
「私たち闇クラン、いわば悪の組織ね。それが勝負に負けたやつが勝った方を従えるなんて周りにどう思われるか……」
「まあ、間違いなくナメられるだろうよ」
真剣な顔でそう言うヘンダーにヨグが補足するように続く。
……まあ、そうなるよな。出る杭はとにかく打たないと気が済まない連中とか何かにつけて嫌味言ってきそうだし、それで妙なイメージが定着したら今日の頑張りも無駄になる。
「私たちがただの仲良しこよししてるだけのクランだったら別にそれでも良かったんだけどね」
「でも、そうでない以上周囲にある程度威厳を保たねばならない……ということですわね」
「いや、うん。それはもう分かったんだけどさ……」
でもいきなりリーダーとか言われたもね。と、こっちからしたらなるわけで……。
「もちろん、このメンバーだけでの方針はこれまで通りに私が主導するけど、人目に付く……今回のイベントのような場面では後輩くんがリーダーって体に振る舞ってもらいたいの。きっとそうするのが一番ことがスムーズに片付くしね。それにもちろん引き受けるならタダとは言わないよ」
「と言うと?」
「後輩くんは、ゲームでは半端な金品は必要ないだろうから……必要な時に私たちをダンジョンのことに限って戦力として使える、ってのはどう?」
「――」
一瞬、言葉を失った。
この人達をダンジョンで戦力として使える。ヘンダーやヨグの戦闘能力は言わずもがな、アガフェルの人脈なども活かせれば莫大な利益になるのは間違いない。
正直言って、ダンジョンが大きくなるにつれて俺ひとりで管理するのも徐々にキツくなってきていたのもある。
今はまだ大丈夫だが、このイベントが上手く行って『土地の掌握券』でダンジョンが一気に拡大したら、その時は確実に俺の手に負えないだろうと思っていた。
それをどうしようかはずっと考えていたんだけど……まさか、こんなとこで解決策が降って湧いて来るとは。まあ、ヘンダーのことだし、分かってて言ってるんだろうけど。
「それでどうかな? 表のリーダー引き受けてくれる」
「……そこまで好条件を出されたらな。分かった、やるよその表のリーダーってやつ」
「よし! なら今日から後輩くんがこのクランの表向きのボスで、私が裏ボスってことで。ふたりもいいよね」
「いいぜ、正直公衆の面前でテメェに命令されるよか幾分かマシだからな」
「妾はヘンダーが決めたことでしたら、特に異論はありませんわ。それにそっちもなんだか面白そうですし♪」
みんな軽いなー。
そりゃこのロールプレイで一番の負担掛かるの俺だからなんだろうし、俺もそっちの立場だったら他人事で面白がってたけども!
「さて、後輩くんも了承したってことで……はい、ここに立って!」
「ん? え、なに?」
話が纏まったと見るやヘンダーが強引に俺をひっぱり、どこかに移動させる。
あれ、これなんか嫌な予感が……。
「後輩くんもうすぐカメラ回るよ! ロールプレイに意識切り替えて!」
「はあ!? いや、いきなり。つーかそれライブカメラのじゃねぇか!」
「5、4……」
「ああ、もう勝手にカウントダウン入ってるし! しゃーない……んんっ」
くっ、こちらの逃げ道塞ぐ気満々だこの人!
ええいこうりゃな自棄だ! どことんやってやるまで!
喉の調子を整えて……。
『お久しぶり、もしくはさっきぶりか?諸君。ダンジョン『
仲間、と言おうとして直前に部下へ変更する。正面のカンペにそうしろ指示があったのだ。
前を見ると器用なことにスクショを見せれるよう可視化したUIをカンペ代わりに使っている。
『今回のイベントで本戦へと駒を進めた我がクラン『
アガフェル、ヨグ、ヘンダーと順に紹介していく。みんな肩書きを丁寧に付け加えて。
無論、アガフェル以外に全員素顔を隠した上で、だが。
それでもコメントとかでは元『魔王』だの最高峰暗殺者プレイヤーだの、または最高峰の“姫”だのが一所のクランに居るのを大変驚かれたらしいが。
『……以上がこちらの構成員となる。どれほどの者たちかは……まあ今更口で言う必要もなかろう。諸君らの多くが身を持って知ったことだろうしな』
そこで一旦言葉を切り、次の指示を求めてカンペを見ると、ここに来てアドリブでライブ配信のシメに入れという。そんな無茶な……。
何も考えてなかったから必死に思考を巡らして……ふとあることを思い付く。
ああ、そうだ。
ヘンダーもさっき言ったじゃないか。これを引き受けるなら、自分たちをダンジョンの戦力として使っていいと。
―― ならここは、ヘンダーの言葉に最大限に甘えてさせて貰おうか。
それに随分と無茶振りされてこっちももうそろそろ我慢の限界だ。
『最後にプレイヤーの皆に告げる! このイベント、本戦では脅しではなく、上位の景品は我々『
俺は突然腕を広げ、高らか声でアガフェルが出任せで言っていたそれを、さらに超える大言壮語を語りだす。
『そしてその景品の一部を選定して、これから新しく出来る予定の階層域のボスに守らせる。無論補充されることはないので、それを手に出来るのは最初に到着したもののみとなる!』
この行為は引いてはダンジョンのためになる。つまり間接的にダンジョンの戦力となる行為に当たる。ヘンダーが言っていた条件の『ダンジョンに限って』というのは満たせるということ。
つまり約束の範疇内だから存分に利用してもOKってことだ。
これには流石に他のメンバーたちも予想だにしなかったのかちょっとポカンとした、とても珍しい顔をしていた。
俺も今思い付たから……まあそういう顔にもなるだろうなと思った。それでちょっとすっきりしたせいか、自然とテンションが上がる。
『俺を嫌うやつ、恨むやつ、妬むやつもきっと本戦には居るだろう。1個人のプレイヤーがここまで躍進を続けていることに不安を思えるものもいよう! 俺のやり方も単純に気に入れないっているはずだ! もしそうならば――』
誰の耳にも届けという意思をありありと込めた声を張り上げて……。
『―― それが嫌ならば、今度こそ俺を止めてみろ!!』
そう、叫んだのであった。
――――――――――――――――――
・追記
という訳で予選編はここで終わり、掲示板回を挟んで次の章に……と、行きたいですが。
すみません、最近体調不良もあって執筆が遅れています。正直、このままとても連載出来るものではないので少しばかりお時間を。
体調は最近持ち直して来ましたんで、もう少しだけm(_ _)m
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