第6層 海層編

第104話 加護の受け皿

―― ナテービルとのボス戦を終えた、その後。

俺、ファスト、フォルと魚人族の兵士たちは軍用の大型船に乗り込み、ティアに凱旋していた。


「もうすぐティアに着くか」

「きゅう」

「それにしても本当にあっさりどっか行ってちまったな。あの人ら」


星獣ナテービルとの激闘を制し、その呼び寄せた黒幕を捕まえ…………うん、捕まえた俺たちはそれから二手に分かれることになった。

何でも、もう何の制限もなく星獣を周回出来る以上、抜け駆けなどの念の為の情報秘匿の必要もないからとこれからアガフェル人脈から人を集めて凸るとのこと。


それを聞いてこの人たちマジで職業装備ジョブウェポンをクランの人数分揃える気だと、分かっていても震えたものだ。


「で、俺は今身体がこんなだから約束の職業装備ジョブウェポンだけひょいっと渡されて置いていかれたと」


俺の魔石化は未だに解けていない。

というかどれだけ時間が経っても一向に解ける気配がない。魔石化:星属性なんて誰も聞いたこともなく治し方も分からない。

それを調べるの込で俺はティアに帰還してるわけだ。


ちなみに俺の移動は台車に載せられて魚人族の兵士のひとりが世話を焼いている。

加護の件があるせいかやたら彼らの好感度が高く、過剰なほど手厚い扱いなせいでちょっと居心地が悪かったぐらいだ。


……結局到着し、謁見室の海星王の前に来るまでそのスタイルで移動する羽目になった。


「―― 報告は以上です」

「うむ、皆大儀であった。よくあの星獣の脅威からティアをそしてその民を守ってくれた。それにお主……いや、プレジャ殿も戦ってくれただけなく、奪われたこの地の加護までをっ……誠に、まことにお礼申し上げる!」

「ちょっ、頭を上げてください海星王さま!」


もう二度と戻るはずのなかった加護を取り戻した。

その事実を言葉にして実感してしまったのか深く頭を下げ、大粒の涙を豪華なカーペットに落とす海星王。

だが、それにはまだちょっと早い。


「まだ早い、とは?」

「ええ、今は私めが魔法で維持してるが故にここに加護を繋ぎ止められていますが……多分このままだと、それが溶けた瞬間加護の力は行き場を失います。そうなるとただ降り注ぎ霧散する。それだけ力となってましうでしょう」


これは加護を今も制御し、理解を深めているからこその確信に近い推測。

星から出ているこの加護というのは基本たれ流しになっているようで、人や物などに直接的に照射されているわけではないようなのだ。


それを包み隠さず述べる。じゃあないと次に進めないからだ。


「な、なるほど。やはり加護はもう……」

「いえ、だからって諦めろ話ではありません。多分ですがどこかに加護の受け皿、のようなものがあるはずです」

「受け皿、とな?」


俺の言葉聞いて落胆の声を上げる海星王にさっきの推測の続きを述べる。


「先程も言った通り、加護はそれだけだとただのたれ流しになってるだけ力です。普通に考えて、こんなものが種族単位で自然普及している。それ自体が不自然なのです。だったらこの力を収容して送り込む機構がどこかしらにあるはず……それに心当たりありませんか?」


こればかりは俺がいくら考えても分からない。それを知っているなら多分ティアの歴史を誰よりも深い部分まで精通した人物でないといけない。

海星王は俺の言葉を聞いては暫く考え込むような仕草を見せ、はっと思い出したように顔を上げる。


「龍脈……そうか、龍脈じゃ!この世界の万物を生み出しし女神マルデイアス様がそれらを維持するため世界に遍く廻っている力の流れ。龍脈なら同じ神の力である加護を受け入れ適した種族に循環させることだって可能なはず……何故今まで気付かんなんじゃ」

「あの、海星王さま?」


うわ言のようにまくし立て、心ここにあらずといった様子の海星王に呼びかけると、ばっとこっちを向き目を見開く。


「こうしてはいられぬ、プレジャ殿! こっちに来てくだされ!」

「うお!?」

「海星王様!?」

「きゅう?!」


と、思えば今度は石化した俺をひょいっと担ぎ、どこかに走っていく海星王。

思わず素で驚きの声が漏れ、ずっと足元で控えてたファストと海星王の傍で見守ってフォルが慌てて俺たちを追う。


海星王の足は恰幅のいい見た目の割に速く、数分しないうちに目的の場所についたようだ。


そこには海底の地面にさらに穴を穿ち、その穴の中に不可思議な光が走る謎のパイプがあっちこっちに伸びていた。見た感じここで汲み上げた何かを都市全体に行き渡らせているようだ。


「えっと、ここは」

「我らが都市ティアが誇る結界。その動力室じゃ。我々がティアに張った結界はここで龍脈の力を組み上げてそれを循環させることで成立させておる」


あのー……それ都市の中でもかなり重要な場所なのでは?

絶対に部外者が立ち入っていい場所じゃないですよね??


いや、まぁ話の流れ的にどういう意図かは分かるけど。普通こんなあっさり連れてくるか。


「都市の、そして人類の一大事じゃからな。体面を気にしとる暇はおらんのだよ」

「は、はぁ」

「それより、加護の返還。やってくれるじゃろうか」


頼む体ですけど、ここ見た以上それほぼ強制ですよね?

いや、なるほど……。

この状況を作り、断らせないためにもあんなに急いでここに連れ込んだのか。よく見ると口角がほんのりだが上がっている気がする。

ははっ、思ったより油断ならない王様だ。


「いいですよ、やるだけやってみます。ですが、高く付きますからね。成功すれば必ず俺が言った報酬を払うぐらいの約束はしてもらいます」

「ティアを売れとかで無ければのう」

「魅力的ですが、後が怖いのでそれはやめときます。それにティアに悪いようにもしませんよ」

「はっはっは! ならいいじゃろ。プレジャ殿の提案、この海星王が承った」


よし、これで『土地の権利書』の確約はゲット。

後はこいつに加護を降ろし、龍脈に着かせればいいだけ。


「星界術士、その本領発揮だ!」


そう気合を入れた俺は龍脈に向けて加護を流し込み――


―― 蒼碧の都、ティアにそこの人々の天と地の恵みの一部を返したのだった。






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