第209話 本戦ー最終日・悪執の流星

視点は戻って隔離塔・西側へ。


「ぐっ、ぬぁ!」

「ふっ!」


剣圧で暴風を撒き散らすカグシの大剣を際どい飛行角度で躱しながら俺はぼんやりと思う。


あれからいったいどれぐらい時間が経ったのか、あやふやになってる。


数時間はした気も、何日も経った気もする。


それほど、カグシとの攻防……いや、俺の一方的な逃走劇は気の休まる暇もないものだった。


何だって好きで逃げてるわけじゃない。俺も最初は、一応こいつを倒せないかと色々と試してみたのだ。


『リジェクトシールド』は集約、受け流しとどんな応用をしてもそれに合わせて正面から叩き壊された。


ビームサーベル部分を不可視化した『ブレード』は俺の動作から斬撃の軌道を読まれ、すべて躱された。


『映身』で身を隠しての奇襲もどういう感をしてるのか超反応で見切られる。


『スターリング』での疑似隕石も『狂蒐』のリミットダメージを軽く超越出来る特性の前に衝撃波ごと打ち返された。


俺の持つ最大火力が無効化される現状、他の雑多な魔法なんて当然効かない。


……ということで攻撃も防御も頼れない以上、唯一俺がカグシより勝っている『フライ』の機動力で逃げるしか方法がないってだけだ。


そもそも純戦士相手に純魔法使いが真っ向からタイマン張ってるこの状況自体が間違ってるんだ、こうなるのはある意味予定調和とも言える。


「いい加減、しつこい」

「はっ、お褒めの言葉どうも!」


こっちが塔から逃げる暇を与えないため、休まず猛追撃をするカグシに冷や汗をかきながら軽口を返すが……すでにいっぱいいっぱいだ。


一発でもいいものをくらえばこっちそれだけでダウン確定のデスレース。『狂蒐』状態のカグシの攻撃は多段ヒット、身代わりの首飾りで復活しても直後にまたダメージを喰らうので意味を成さない。


『フライ』を維持するリソースが尽きた瞬間勝負が決まると言ってもいい。


魔力リソースそのものは徹底的な事前準備のお陰で余裕はあるが、恐らくこのままでは俺の精神の方が持たない。


正直さっきから頭がじんじんして魔法の操作がキツくなってきている。これではいつ操作をミスるから分からない。


「……っあ」

「そこっ!」


そして次の『リジェクトシールド』が割られた直後にそれは現実となった。


朦朧としてる思考で何とか操作していた『フライ』の軌道がズレた。それも致命的に。


後退の角度を誤ってしまい塔の壁にぶつかって、すかさず跳んできたカグシに挟まれてしまった。結構な勢いでぶつかったせいでまだ魔法を構築出来ない、防御も回避も間に合わない。


あー……これはだめだ。


純戦士と純魔法使いがタイマンしてるのがそもそも間違いだがこの場の戦力差が絶望的過ぎる。


俺が今まで他を圧倒出来たのはほんのちょっと運がよくてそのアドバンテージを必死に活かしていたからにすぎない。


そっから引きずり下ろされるとどうせこんなものだ。


才能に恵まれ、それを必死に磨いてきたものには勝てない。それが見事に証明されてしまった。


ある意味俺みたいな凡人たちからしての日常が、巨大な鉄塊となって迫ってくる。


俺が諦めて、目を瞑りそうなった時。


「「っ!?」」


―― 一閃の流れ星がこっちに迫る死の斬撃を引き裂いた。


銀と黒に瞬いた閃光は間一髪のところでカグシの大剣を弾き、隔離塔すら貫いて小さな穴を開けて彼方へと消えていく。


「………ファスト」


何故かそう思うのか根拠はない。なのに俺はあの流れ星がファストという確信があった。


そして同時に思う。


勝ったんだな、モルダードに。あんなすげぇやつにひとりで。


お前は本当にすげぇよ。正直、最初にテイムした時にはこんなことになるなんて想像もしてなかった。


自然と杖を握る手に力が入る。


こんなことされたら、俺も簡単諦めたくなくちまうじゃないか。


いくつもの魔法と魔術を練り上げる。


「ッ……無駄!」

「うおおおぉーッ!」


唐突過ぎる横槍に呆けてカグシが変わった俺の気配を感じ取り瞬間に反応する。


でもその隙にすでに準備は終わっている。


光属性で辛うじて残っていた疑似隕石を変化させ、ガラスみたく透明に変える。光と土属性の融合で光の透過率を調整してたそれを掲げて。


俺は壁を蹴って、あろうことかカグシに自らから飛び込む。


透明な石が入った『スターリング』をそのまま叩き付ける姿勢で。


―― 今からやろとしてるのはもはや賭けですらない。本来なら俺には不可能なことへのあまりにも無謀な挑戦だ。


だがそんなもの関係あるか。分不相応な負荷に脳が悲鳴を上げ、VR機器が警告ガンガンと鳴らすが構うものか。


今の俺は、あの眩い星に釣り合わない自分がどうしても許せね!


だから1回限りの奇跡でも何でもいい。


「抜けろぉぉーッ!!」


俺が掲げ光の輪から間近で投げつけた石ころは、カグシが瞬時に反応した重ね重ねの大剣に接触……


……することなく幻が如く


剣の正面から反対側へ、透過して来た疑似隕石を人間離れした動体視力で捉えたカグシの目が見開く。


これが土、光属性複合の真骨頂。何故かは分からないが100%土属性で作った物質を光属性で光の透過率100%すると出来上がる“物質への透過能力を持った石”。


そうじゃなくても難易度の高い属性融合に加えて、攻撃に転用するにはもうひと工夫必要である故に。現状のジョブでは、実戦運用までは不可能と烙印を受けた言わば欠陥技。


「がはっ……!?!」


それが本当に奇跡かそれとも執念の賜物か、この土壇場で成功した。


胴体へと無防備に疑似隕石を食らったカグシがくの字に曲がる。


物質透過は大剣を抜けた直後に解けた。狙ったのではなく俺の制御がその間のコンマ数秒しか持たなかったから。


実態を取り戻した疑似隕石が空気を燃やす爆音と同時に激しい破裂音が連続で鳴り響き、カグシのストックが大幅に削られていく。


それでも流石このゲーム最高位の戦士。カグシは普通のプレイヤーなら何回も軽く消し飛ぶあの威力に対し防御に『狂蒐』のストックを使って耐え未だに健在であった。


どころか今に反撃に出ようとこちらを睨み付けてくる始末。


ここまで、奇跡を手繰り寄せても決定打にはまだ足りない。これが両者にある明確な実力差の現れだ。


それに対して俺はもう余力などないに等しい。


頭痛なんじゃ既にどこか痛いのかも分からんレベルだし、VR機器の警告は強制ログアウトの1歩手前まで来ている。


誰が見ても詰みの状況だが……まだ最後の手はある。


「っと! 捕まえた!」

「何を……」


ノックバックが終わり次第、空中で壁を蹴って俺を叩き潰さんと突っ込んだ来るカグシにこっちからも接近し取り付く。


膂力の差は分かっているだろうに何故、とカグシが疑問を抱いている時にはすでに遅かった。


俺は最後の力を振り絞り星属性の魔法に極限までMPをぶっ込む。


とは言っても今の俺に複雑な魔法を使う体力はない。だから内容は至極単純。


「がっ!? 重……いっ!」

「全力で……自分の重さを増やしてるから、当然だろ」


両手で腕を、機械の脚で膝裏を抑え込まれた床に組み敷かれたカグシが力まかせに押し退けようにするが……びくともしない。


「なんで、こんなに……」

「はは、このバランサーは中に部品ぎっしりだからな。何ならこれだけで俺の元の体重は倍以上はあるわ」


そう言いながらヨグに付けてもらった機械の脚で床を鳴らす。


『フライ』は重力をこっちで操れる前提だからと、重量度外視に性能を盛った甲斐があった。


正直、これがなかったら瞬時にカグシを抑えるほどの重さは生み出せなかっただろう。


まあ、俺もヨグもまさかそれがこんな形で役立つとは思わなかったけど。


「もう動く力も残ってないからな。これで押し潰して決着だ」

「この、離れて……!」


意識を手放さないように魔力を徐々に、徐々に込めていく。


2倍……どころではなく10倍、20倍とカグシに覆い被さったまま重量を増していく。


荷重に耐えきれずカグシのHPも少しずつだが減少を始める。


狂化バーサーク自過食オーバーファジー解放リリースっ!!」


危険を感じたカグシが自分の最大バフ状態にし、同じ状態のストックを同時に解放する。


このままだと本当に不味いと俺相手には温存するつもりと思われる、恐らくカグシの切り札が発動する。


追い込まれるとやっぱそうくるよな……


俺はカグシが何か行動を起こす前に口で咥えた杖の先端を俺とカグシの二の腕が重なった位置を向ける。


そして杖までを一気に重くし、落とす。


「がっ!?」

「うぎっ!?」


異物が腕を突き破る感覚に俺とカグシのうめき声が上がる。杖はそのまま歪められた重力で俺の腕ごとカグシの腕を貫き、地面へと両者を縫い付ける。


「これで、逃げられねぇぞ!」

「こんな、もの!」


力を込めて杖をへし折るべく暴れるカグシだが、すべて無為に終わる。


「く、なんで!」

「無駄だ。この杖はジョブウェポン……つまりは破壊不能装備なんだよ。それに知ってるぞ、お前のバフは途中キャンセル出来ない。お前の負けだ、カグシ」


まあ、こう勝ち誇ってみたものの……実は抑え込た後の流れもぎりぎりもいいとこだったんだよな。


「はは、にしても助かったぜ。お前が、加減したままだったら……俺の負けだった」

「え……どう、いう?」

「バカが。お前がダメージを負う自重に、魔法使いが耐えれるわけないだろ。お前がスキルを温存したままだったら先に倒れたのはこっちだったんだ」

「そん、な」


まあ、無理もないがな。うつ伏せで組み敷いて地面を見てるカグシの視界からは俺のHPバーはよく見えないし、自分でも隠すような位置を取りしていた。


と言っても前提に立て続けの予想外な展開でカグシが動揺してたことや、恐らく一撃粉砕のスタイルで普段から相手のHPなどあまり気にしない……などの要素があったからこそ通せた作戦だ。


それにカグシ最大不幸は俺が諸事情により『狂化』の仕様に詳しかったことだろう。だから咄嗟にこの作戦を思い付いた。偏在してるすべてのカグシに『狂化』のデメリットが及ぶかだけ賭けだったがどうやら問題なく及んでいるらしい。


これでカグシ本人を責めるのは酷というものだろう。


「恨むなら、そんなことと些事にした……自分の才能でも恨め」

「ひっ……ぐ、うっ」


何故か今まで聞いたこともない、見た目相応の短い悲鳴を最後に……『Seeker's』の最強ダメージディーラーカグシは押しつぶされ光の粒へと沈んだ。


_____________________


あとがき


※現在のステ

_____________________

名前:プレジャー ランク:★★★


セットジョブ

星界術士アストロキャスターLV20☆:『魔法・星界』『伝魔・天』

魔統帥ロードLV20☆:『調教術』『将化』

鏡面士ミラーマンLV20☆:『映身』『真鏡』

測定士LV10☆:『測定』


拡張ジョブ

魔陣刻士LV10☆:『魔刻』

魔貯士LV3:『魔貯』

魔操士LV3:『魔操』

魔倹士LV3:『魔倹』

魔触士LV3:『魔触』

魔吸士LV3:『魔吸』


*装備

上着:増職のコート・セット『魔貯士』

手袋:増職のグローブ・セット『魔操士』

下衣:イリーガルレッグ(着脱不可)

武器:流星の天刻杖・セット『魔陣刻士』

小装飾:増職のリング・セット『魔倹士』

小装飾:増職のピアス・セット『魔触士』

小装飾:増職のアンクレット・セット『魔吸士』

小装飾:身代わりのチョーカー(残り使用回数0/2)(消失)


所有ジョブ(残り枠0)

星界術士アストロキャスター☆ 魔統帥ロード☆  鏡面士ミラーマン☆ 執盗ポイントシーフ☆ 錬金術師アルケミスト☆ 測定士☆ 装備者


従魔(眷族3/4)

ファスト・夜光神兎ラートリーLV50

クイーン・女帝総兎エンプレス・レギオンLV52

ペスト・大厄災鼠クレーターディザスタチューLV63

―・―


……(省略)

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