第150話 前哨戦ー8

海骨怪機シーユニオンの眼窩から溢れ出した赤熱が光線となって飛び出し……すぐに水中に触れて暴れ狂い、水蒸気の嵐となってボス部屋を駆け巡る。


「きゃあー!?」

「おう!?」


そのすべてをすり潰さんばかりの暴発がボス部屋にいる全員に襲いかかる。

各所で悲鳴が上がるが、流石と言うべきか『快食屋』はモルダードとその舎弟たちが味方を庇い、『Seeker's』はそれぞれが防御体勢に取って凌ぐ。


「な、に……今の」

「洒落にならないっすね……クラマスたちが無かったら普通に消し飛んでたっすよ」

「チャージ式の魔法ね。頭蓋の内側に魔法陣があると思ったらこのためだったの」


頭蓋骨の裏面には最初から集光の補助と、小人魚リトルマーメイドの保護の魔法陣が仕込まれており、チャージが済んだら即座にそれを撃つ仕組みになっていた。


それで途轍もない熱量の光を頭蓋の中に集めて解放し、今のような水の暴発を引き起こす。その威力に場の殆どのものが強張った顔をしていたものの……


「おい、今の見たか! 目からビーム撃ったぞあのデカブツ!」

「ひゃー! マジ! マジですか!? テンション上がるんだけど!」

「うむ、やつも中々分かっているな」


……ついさっき、それで何もかも吹き飛ばされる寸前までいったというのに逆にテンションをぶち上げている者が約3名。


どうやら“目からビーム”というのが、この3人の琴線に触れてしまったらしい。


「そこ! はしゃいでないで早く戦線立て直しさい! じゃあないと、本気に怒るわよ!」

「「い、イエッサー!」」


「クラマスもこっちに戻ってっす! ただ今出来あがったんで!」

「おお、そうか」


メルシア、バッキュンが叱られて、モルダードが料理に釣られて意識を引き戻し、戦闘が仕切り直される。



―― そこから海骨怪機シーユニオンと両クランの本格的な戦いが始まって……数十分。


「はぁ……はあ……。こいつ、しつこ過ぎっしょ!」

「ああ、そうだな……。カニで変形自在の殻を使った防御、テッポウエビで近、中距離攻撃の衝撃波、ローパーモドキの触手での高機動と化け兎の回復、そして頭のが指揮と時々広範囲の大技……中々どうして隙のない作りだ」


骸骨に生物が纏わり付いてるという、不気味でちぐはぐな外見とは裏腹に海骨怪機シーユニオンの戦い方は至って堅実だった。


理想的なフルパーティーの動きを合体によりひとつの身に詰めて実現した、オールラウンダースタイル。並みのパーティーではこれを崩すのは至難の業だ。


実際にこの両クランの精鋭たちですら、未だに決定打を決めきれてない程なのだから、海骨怪機シーユニオンの完成度は今までのボスと比べても相当高いというのが分かる。


小人魚リトルマーメイドだけは、『繁殖』の対象外だから『母心』の耐性上昇もないはず。ならやっぱり指揮官で一番脆い小人魚リトルマーメイドが最大の弱点だけど……」

「それにはまず、あの頑丈な頭蓋とそれを守る兜をかち割らないとな。それにヒーラー役の胴体も同時に止めないと、突破する前に回復されちまう。……正直、両方ガードが固いから一番キツい作戦だぞ、これ」


メルシアが言った通りそれは、正攻法でありながらも最も難易度の高い作戦でもあった。


「なら、俺が頭を砕く。そこを誰か狙ってくれたらいい」

「ボクが、一緒に胴体……殺る」

「ならトドメ役は俺だ。この中じゃ俺が一番は早く確実に中身を刺せる」


モルダードが頭、カグシが胴体、メルシアが頭の指揮官ブレインを狙うと役を分担することになり、敵の元へと駆け出す。


「じゃあ私たちは、牽制と支援ね。特にバッキュンにはあの大技のキャンセルをお願い!」

「OK、あの顔面を撃ち抜いちゃえばいいんだね! それならまっかせといてよ!」


「よーし、野郎ども! こっちも気合入れ直せ、他所のクランに遅れ取るんじゃねーぞ!」

「「おうっ!」


モルダードの舎弟を護衛にして、メキラとバッキュン、料理班のものたちがそれを支援するために出来る限りの手段でアイテムや遠距離攻撃を投下し始めた。


「ふん!」

「しっ!」


モルダードが正面からストレートで突っ込み、その後ろ斜めからカグシが脇へと抜けて胴体を斬り付ける。

海骨怪機シーユニオンも対応しようとするが、そうはさせないと後衛から援護射撃が両腕に集中して動きを止めた。


「捉えたぞ!」


そのチャンスを逃さずモルダードが頭にさらに追撃。ワンツーワンツーと、拳をぶん回してラッシュを叩き込む。


「こっちも、全力! 狂化バーサーク自過食オーバーファジー!」


カグシも短期の自己バフを盛ってから両手の大剣を交互にぶつけて、胴体を叩き切るように砕く。その度にヒールスラッグもついでとばかり消し飛び回復も阻害される。


モルダードがそこへさらに連撃を繋げようとすると、堪らずにに海骨怪機シーユニオンは素早い機動力を活かし後退を始める。


「逃がすかよ!」


さり気なく、また後ろに回り込んでいたメルシアがノックバック効果付き武器で形成した万型の太刀オール・スイッチで背中を斬り、吹き飛ばす。


トスのように来た道を投げ戻された海骨怪機シーユニオンはモルダード、カグシの近くに移動し……


「ふん!!」

「はっ!」


……それと同時にモルダードとカグシに殴られた。ノックバック中の強制移動で抵抗も出来ず、かなりの大ダメージを入る。


「よし!」

「まだ気を抜かないで! 大技のビーム、来るわよ!」


ただ、丁度そのタイミングでビームのチャージ時間が終わったのか眼窩が赤熱した明かり漏れ出す。実はさっきからこのようなパターンは何度かあり、その度に戦場を引っ掻き回されては回復され、何度も戦局を仕切り直されていた。


「あたしの出番だね!」


今度こそそれを阻止しようと、援護射撃をしながらもこの瞬間を待ち構えていたバッキュンがドピンクの2丁拳銃を海骨怪機シーユニオンの両目に向けた。


その際に拳銃にのようなものが流れ込み、キツい色合いの銃身を禍々しく彩る。


それを見た海骨怪機シーユニオンが複雑な挙動でジグザグと狙いをずらしながら距離を取り出す。


「無駄無駄ぁ! そんなであたしの弾から、逃げられるわけないでしょがっ!」


手に高精度の追尾装着でも付いてるかのように、ふらふらと揺れ動く海骨怪機シーユニオンの眼窩にぴったりと狙いを定め……


「ファイアーっ!」


……発射。

水の中を突き進む、を纏った水中用特殊弾が目にも留まらぬ一瞬で飛来し、定めた通り眼窩へとシュート。


次の瞬間、一瞬眼窩から閃光が溢れるかと思いきや、それは何かに引き摺られるかの如くどこかに吸い込まれ……気付いた頃にはビームは反応ごと消失していた


「よし! クールに決まったぜ!」

「ちょっと、あんたそれはまだ隠せて言ったでしょ……!」

「しょ、しょうがないじゃん。これ以外被害ゼロで止める方法、思いつかなかったんだもん」


『Seeker's』の後衛側が何やら諸事情で揉めてる間に、大技が不発になった今がまたとない大チャンスと見て、前衛が一斉に突っ込む。


「もう逃さん!」


モルダードがまた腕関節を極端に和らげ、独特過ぎる動きで防御をいなし、頭に組み付く。そのまま締め上げる形で頭に巻き付き、変な伸び方した腕を力み……。


「へい、一丁!」

「がぶっ!」


……料理班から飛んできたステーキを丸かじりした。凄まじい速度で咀嚼し、ステーキを飲み込むと巻き付いていた腕の筋肉がパンプアップ。

それで一気に圧力を加えられた海骨怪機シーユニオンの頭についに、小さな罅が入った。


「このまま、砕いて……ぬ!?」


だが出来たそこまでで、体勢を立て直した海骨怪機シーユニオンが右手の『キャノン』を至近距離から突きつけて、衝撃波を放つ。

衝撃波で昏倒状態なったモルダードが、余波に押されて吹き飛ぶ。それを確認してローパーの腹を開き、傷を癒やすため鬼子母兎からヒールスラッグを取り出そうとするも……。


「……しっ!」


死角に潜る込んで隙きを伺っていたカグシが、曝け出された鬼子母兎の部位に狙い澄ました突きを放つ。


しかし、この行為が重大な隙きだと、事前に学習している海骨怪機シーユニオンも咄嗟に左手の『キャッスル』を割り込ませ突き弾く。それで体勢を崩したカグシに反撃の『キャノン』を突きつけられて……


「―― 引っかかった」


……突如、海骨怪機シーユニオンの身体がくの字に曲がった。

曲がった胴体を見るとそこにはカグシの大剣が鬼子母兎を押し潰しながら減り込んでいた。


それは突き同時に、反対の手カグシが弧を描くように投げていたもう一本の武器。突きを放った時に本能的に“これは防がる”と勘付いての咄嗟の手段だった。


投擲と言えど、自己バフ付きのカグシに怪力だ。鬼子母兎の顔は完全に潰れ、腹の中のヒールスラッグたちも衝撃で殆どが死に絶えた。


それでもローパーの部分はまだ無事だったために、海骨怪機シーユニオンは一旦距離を取ろうしたが――


「―― 頭、獲ったぞ!」


そこへ、今までずっと息を潜めていたメルシアが飛び掛かり、逆手に持った得物を頭の罅に正確に滑り込ませる。しかし、兜となった鎧魚の驚異の防御力でそれでなお、まだ貫通はしない。


だが、これでトドメと言わんばかりに、万型の太刀オール・スイッチでの多段の突きが始まる。


威力が減じないように上手い具合に刺しながら、切り替える刀身の長さをミリ単位で分けて秒も満たない間に数百の突きを一点に食らわす、メルシア最大の貫通技。


流石に鉄壁の兜もそれを受け切ることは出来ずに、“中身”ごとに刺し抜かれてしまったであった。


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