サブマリン

垣坂弘紫(かきさか ひろし)

第一章 高校バスケット部、入部 一 入学式

 小高い山間(やまあい)の風はここ新潟県立山並(やまなみ)高等学校を駆け抜け、校庭に咲く染井吉野を柔らかく揺らしていた。


 今日は同高校の入学式である。


 例年なら入学式が終わった後に見頃になるそれが今日この日に満開を迎えたのは、何かの祝辞を伝えようとしているのであろうか。


 入学式の式場となる第一体育館は、正門を入って真っ直ぐ進み、中庭を通り抜けた先の真正面にあった。


 体育館の入口を入り講堂に目を向けると、既に校長が演台の前に立って新入生への式辞を述べていた。


 新入生一同は講堂に対して前席に、通路を挟んだ後席に保護者が座っていた。


 体育館の両壁沿いには、新入生と保護者の誘導役と思われる上級生が数人座っていた。彼等は生徒会の役員なのたろうか。


 そんな中、矢島洋(やしまひろし)は前列から三番目、中心の通路を挟んで左側の席に座っていた。


 春の光が窓を通して館内に流れ、埃(ほこり)が光線の中で乱舞している。


 洋はさっきからずっと視線を俯(うつむ)き加減に落としている。


 どこの学校でも見られるように、聞いている方にとって校長の式辞や訓話は間延びしているものだ。当然のことながら、洋以外にも俯いている者は保護者も含めてそこそこいた。


 だが、俯いていることにも飽きたのであろうか、洋がおもむろに顔を上げた。そうして視線を斜め横に向けると、ぼんやりと考えるような顔で、そのまま何かを見た。その姿は校長の話が終わるまで続いていた。



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