第一章 高校バスケット部、入部 二 監督の誘い

 続いて、夏帆の後部座席にいる女子が起立した。彼女も夏帆に負けじと元気よく自己紹介をした。


 しかし、夏帆の鮮烈な余韻(よいん)はまだまだ残っていた。この雰囲気から伝わる印象からして、おそらくクラスの誰もが夏帆に好意的な眼差(まなざ)しを向けていることだろう。これが彼女のスター性を意味しているのであれば、夏帆は将来間違いなくチアリーダー部のキャプテンになるだろう。


 洋もまたそれを感じずにはいられない一人であった。しかし、いや、だから自分とは好対照であるが故に、彼女に純白の輝きを感じれば感じるほど、自分がそれを汚す黒いシミのように思われてならなかった。この底抜けに明るい前向きな意志は一体どこから来るんだろう?


 洋はつい今し方言った自分の自己紹介がどんな内容だったのか思い出そうとした。しかし、脳裏に響くのは夏帆の日本一という言葉ばかりで、どうやってもそれを思い出すことが出来なかった。俺って、何て存在感がない男なんだろう。


 彼女の自己紹介が終わった。


 次の女子が起立した。 


 洋は何気なくそっちを見ようとした。


「えっ?」


 洋は思わず呟いた。


 夏帆が洋を見ているのだ。


 洋は慌てて視線を逸(そ)らした。


 何で、何でこっちを見てるんだろう?


 洋は、驚き、焦り、迷った。ただただ頭が混乱した。口の中が妙に乾いた。落ち着け、落ち着け。


 洋は夏帆のいる席の反対方向に顔を向けると、ちょっと首を傾(かし)げて目尻で夏帆を見た。


 夏帆はもう洋を見ていなかった。


 あれは気のせいだったのだろうか?いや、それは絶対に違う。じゃあ、何だろう?


 洋は考えた。考えに考えた。そして考えあぐねた結果、自分ではなく自分の右斜め後ろにいる誰かを見ていたのだろう。洋はそう結論づけ、そしてそう思い込もうとした。

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