第一章 高校バスケット部、入部 二 監督の誘い

 入学式から早一週間以上が過ぎた。


 授業が始まり、教科担任の顔も一通り見た。


 今、洋は最前列で一時限目の英語の授業を受けている。


 出席番号順で決められた席は仮の席であった。あの後、公平を期するということで、席はくじで決めることになった。くじは既に担任の先生が準備しており、あの赤字はくじの番号であった。


 最前列になるなんて、ついていない。洋はそう思ったが、現役で大学合格を目指している洋にとっては良いことだと思われる。


 早くもクラスのマドンナ的存在となった夏帆は中庭が見える窓際の席だった。


 いきなりの初対面の日以降、洋は夏帆とは一言も話してはいない。他の女子とは自分でも驚くほど気さくに話せるのに、なぜか夏帆には近づくことすら出来なかった。


 一方、同姓の友達はと言うと、一人妙に馬の合う奴がいた。彼の名前は鷹取健吾(たかとりけんご)。身長187センチ、体重80キロ。その立派な体格に、洋は最初柔道をやっていると思った。


 しかし、話を聞くとそうではなかった。中学入学早々、父親が交通事故に遭(あ)って、それで長期入院を余儀なくされた。退院後もリハビリを行わなければならず、仕事に完全復帰出来るまでに一年半を費やした。父親は新潟市内で飲食店を経営、父親が不在の間は母親が店を切り盛りしていた。健吾は店の手伝いをするために、彼は帰宅部だったそうだ。


 苦労しているのは何も自分だけではない。そう思うと、洋は健吾に親近感を抱いた。


 父親も復帰したことだし、だから、何か部活に入りたいと思ってはいる。だが、何が自分に向いているのか、判断に迷っている。

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