第三章 春季下越地区大会 五 山並VS村上商業

 洋はセンターラインを越えた辺りでドリブルして来る6番のマークに入った。


 6番は洋を睨みつつ、いきなり走り出した。


 洋も離されることなく、後を追った。


 と、ここで6番はロールターン、洋を追い抜こうとした。


 しかし……


「スティール」


 今度は、洋のプレーが日下部の口を衝いて、そう言わせた。


 ボールを取られた6番は何が起こったのか、一瞬分からなかったようだ。気づいたときには、目がダンクを決めていた。


 しかし、鮮やかなカウンターを決めても、


「余計なことをするな」


 と、目は文句を言い、


「仕様が無いだろ。やることはやらないと」


 と、洋と目はなぜか口げんかをしていた。


 それから後は、プレスとまではいかないものの、高い位置でディフェンスを仕掛け、奪ったらすぐ目にボールを集めた。もちろん、機会があれば、洋もスティールを果敢に仕掛けた。


「何か、一方的な試合になってるな」


「洋さん、全然本気じゃないわね」


「よく分かるな」


「だって、家で練習していたドリブルを全然見せてませんから」


「これじゃあ、洋の活躍が見られないな」


「でも、あの12番の子とは相性が良さそうに見えません?」


「そうだな」


 バスケットを知らなくても、洋ばかりを見ている信子には洋と連動する目の動きが印象に残るのかもしれない。


 第一クォーターが終了した。得点は40対4。40の内訳は洋のフリースローが1点、残り39点は全て目が叩きだした。


「まるで、大人と子供だな」


 村上商業の監督はベンチに戻って来た選手にそう声を掛けると、


「坂野、お前が怪我を負わせたあの17番は、とんでもないぞ。それが分かるか?」


 坂野は何も言わずじっと黙っていた。


「俺が見る限りでは、実力の半分も出してはいない。それでも、お前はもうアップアップだ。何か言い訳はあるか?」


 坂野のみならず、選手の誰一人、口を開こうとはしなかった。


 一方、山並のベンチはと言うと、こちらはこちらで藤本が何やら難しい顔をして選手を迎えた。


「今の試合、何か意図があるのか?」


 藤本が笛吹に尋ねると、

「矢島があんなに目に遭ったので、ちょっと目が切れまして。それで、100点ゲームをするぞと言うことになりました」


「怒りの矛先を100点ゲームに向けたと言うことか」


「それはちょっと違います」


「違う?何が?」


 山添の反論が藤本の癇(かん)に触ったようだ。


「100点ゲームをしようと言ったのは菅谷です。全員、それに賛成しました。でも、第一クォーター、目にボールを集めようと言ったのは俺です。その代わり、第二クォーターは俺がボールをもらうと言いました」


「お前が?」


「はい」


 藤本はしばし口を閉ざした。


「いいだろう。お前のプレーを拝見するとしよう」


 いつもなら理由を聞くはずの藤本が、これに限っては敢えて尋ねることなく、山添の行動を黙認した。


 藤本の性格を分かっている選手から見れば、この対応は少し不気味であった。藤本は一体何を考えているのであろうか?


 先発メンバーはスポーツドリンクを飲んで水分補給をすると、


「矢島」


「はい」


「マッチアップもそうだが、俺はお前のパスも色々と受けてみたい。よろしく頼む」


「あっ、はい」


 まさか山添からそんな言葉が来るとは思ってもいなかったので、洋は少し驚いた。が、これは洋にとっても嬉しい申し入れであった。


 第二クォーターは村上商業のスローインで始まった。


 向こうのメンバーは6番の坂野が外れ、代わりに11番の選手がコートに立った。洋はそのまま11番のマークに付いた。


 村上商業は相変わらずアウトサイドからのシュートのみで、インサイドの攻撃は無かった。と言うより、山並相手では出来ないと言うのが本当のところだろう。

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