第三章 春季下越地区大会 五 山並VS村上商業

 菅谷がリバウンドを取った。今日の試合、菅谷はよくリバウンドを取っている。この試合だけを見ていれば、全国でも通用するのではないかと思えるほどの活躍である。


 菅谷から洋にパスが渡った。


 洋はボールを受け取ると同時に山添を見た。


《よし!》


 洋は胸の内でそう呟くと、ドリブルをしながらフロントコートに向かって走り出した。


 村上商業の11番も洋を追いかける。思っていた以上に彼の足は速い。


 洋は左から右へとフロントチェンジ、そのままドリブルで突進すると思いきや、体を反転、11番に背を向け、右手だけでパスを出した。


 山添はパスを受け取ると、難なくレイアップを決めた。


 洋が山添に近寄った。


「どうでしたか?」


「良い感じだ」


「次、僕もやってみたいことがあるんですけど」


 洋に言われて、山添は何だろうと思って聞いていると、


「面白そうだな」


 と言って、少し笑った。


 冷静さを取り戻したのか開き直ったのかは分からないが、村上商業の攻撃は外からのシュート一辺倒ではあるものの、第一クォーターとは違ってスリーポイントが少しずつ決まるようになった。


 今も7番がスリーポイントを決めた。どうやら、村上商業のポイントゲッターは7番の選手らしい。


 洋をマークしている11番は洋に振り切られないよう必死にマークしている。


 6番の坂野も、最初はそうだった。《こんな奴に負けてたまるか》と言わんばかりに、洋を押さえ込もうとした。しかし、守備ではあっさり躱(かわ)され、攻撃では余裕の守備を見せられる。その内、点差はどんどん開いて、いつの間にか遣る気が削(そ)がれていった。第一クォーターが終了する頃には、覇気はすっかり失せてしまっていた。


 しかし、それでも11番の守備は坂野とは何かが違っていた。故意の肘打ちという個人的な遺恨が無いからこそ、彼は夢中でバスケに取り組めるのかもしれない。


《こいつ、食い下がるな》


 洋は先ほど山添に何かを告げた。おそらくそれを仕掛けようとボールをキープしている洋はピボットをしながらパスをするタイミングを見計らっているのだろうが、執拗な11番の守備に、なかなか思うようにプレーが出来ないようだ。


《それなら……》


 洋は右側からドリブルインした。


 11番も追いかけた。


 洋は右足からステップを踏み、右手でフローターシュートを放った。しかし、それはリングの左側に大きく反れた……


 外した。村上商業の誰もがそう思った。だが次の瞬間、


「バーン」


 ジャンプ一番、山添が豪快にアリウープを決めた。


 これにはベンチにいるメンバーのみならず、藤本までも、


《あの山添が、こんな派手なプレーをするとは……》


 と、思わず胸の内で呟いた。


 二年生である山添がレギュラーとして本格的に活動するようになったのは、二つ上の先輩が引退した後である。それからは、日下部、早田、加賀美、滝瀬、山添が今日(こんにち)までレギュラーとして扱われている。


 山添のポジションは現在センターであり、パワーフォワードである加賀美とはインサイドの主軸としてお互い切磋琢磨していると言える。負けられないという思いは当然あるだろう。しかしその反面、自分以外は全員三年生というチーム状況では、何かしら遣りづらい面もあるのかもしれない。場合によっては強引なプレーを必要とする時でも、つい差し控えてしまうこともあったのではないか。今し方のダンクに対して周囲が驚いたことを考えれば、それは容易に想像出来る。


 一年後輩である目が練習試合で三年生相手に臆することなくプレーしたのは、山添に何かを考えるきっかけを与えたかもしれない。


「山添さん、今のパスどうでしたか?」


「シュートの振りをしたパスもあるからって事前に言われていても、ちょっと戸惑ったな。でも、面白い」


 この後の山添は、インサイドプレーに徹していた時には決して見せなかったプレーも積極的に試みた。そのひとつがスリーポイントだった。


 山並には、早田というスリーポイントシューターがいる。彼のシュート精度は高く、藤本を初めメンバーからの信頼は厚い。その早田がいるのだから、敢えて挑むようなことをしなくても、インサイドプレーに集中するのがチームのためだと、山添は考えていたのかもしれない。


 今も、山添はスリーポイントを放った。しかし、リングに蹴られた。


 ボールは、この試合リバウンドに燃えている菅谷のいる位置から遠く離れて行った。


 さすがに、これは村上商業にリバウンドを許してしまうのか。


 しかし、リバウンドの競り合いを制したのは、何と目だった。目はすかさず山添にパスを出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る