第二章 新しいユニフォーム 三 ベールを脱ぐ矢島

 鍛錬を重ねたレギュラー陣と俄(にわか)作りの控え組では全く勝負にならない。しかし、たとえ練習であっても勝負にならなくても、対戦するからには勝ちに行かなければならない。


「すみません、ちょっと試してみたいことがあるので、みんなを呼んで頂けませんか」


 と、洋は笛吹に頼んだ。


 笛吹は何だろうと思いつつも、


「ああ、分かった」


 とだけ言うと、目と山添に声を掛けた。


 洋を囲うようにして何やらひそひそ話が進むと、菅谷がなぜかニヤニヤ笑い出した。


 ディフェンス陣が各ポジションについた。


 オフェンス陣もそれぞれ位置についた。


 藤本はさっきから腕組みをしてコートにいるメンバーを見ている。彼の顔つきは険しい。


奥原がエンドラインの外に出た。


 笛吹が奥原にボールを渡した。


 藤本が合図の笛を吹いた。


 ディフェンス陣が一斉に身構えた。


 奥原が洋にパス。


 すかさず、早田と滝瀬がマークについた。


 二人にとって洋は小さいからだろう、手を上げてディフェンスをすると、まるで二匹の熊が襲っているように見える。


 洋は今にもピボットを始めるかのように腰を落として、体を左右に動かした。


 それに合わせて、目、笛吹、奥原がパスをもらおうと動いた。


 日下部は目をマンマークした。


 と、その時であった。


 フロントコートにいた菅谷が猛ダッシュで突っ込んで来た。


 目尻でそれを捉えた洋は、左右に動かしていた体をパッと前屈させた。


 菅谷が洋のパスを受け止めた。


 目が走り出した。


 日下部は完全に虚(きょ)を衝(つ)かれた。


 山添を振り切った菅谷から目にパスが通った。


 目がドリブル、ゴールまであっと言う間に迫った。


 最後の砦(とりで)、加賀美とのマッチアップ。


 目が跳んだ。狙いは明らかにダンク。


 しかし、加賀美の手がボールに迫る。


 その瞬間……


 目は右手から左手にボールを持ち替え、加賀美の脇の下からシュートを放った。


「ザッ」


 ボールがネットを揺らした。


 左手首のスナップを利かして、ふわっとボールを浮かせた目のシュート。それは本当に綺麗な放物線を描き、誰の目にもボールがネットに吸い込まれるように見えた。

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