第一章 高校バスケット部、入部 二 監督の誘い

 山並高等学校は、全学年男子生徒よりも女子生徒の方が多いという非常に珍しい特色を持っている。どの学年どのクラスも女子の方が四~五人は多かった。


 今年の一学年は一クラス約三十五人、全部で七クラスあった。洋が入ったのは一年二組であった。


 生まれ育った場所を離れ、初めて訪れたこの新潟の地で、全く誰も知らない同い年の者達と生活を共にする。昇降口の掲示板にクラス分けの張り紙を見て、一年二組に自分の名前があるのを見つけた時、洋は上手くやっていけるのかどんよりとした不安を感じた。


 重い足取りで教室に入ると、三分の二くらいの席が既に埋まっていた。


 空いている席ならどこに座ってもいいのだろうか。そう思いながら入口付近でぼうっと突っ立っていると、


「ああ、ここだ、ここよ」


 と、甲高(かんだか)い声が背後から聞こえた。


 突然の声に洋は何気なく振り向いた。


 全く予期していなかった視線の触れ合いは、瞬時に互いの心を引き寄せた。


「かわいい」


 洋は無意識に呟(つぶや)きにも満たない声を漏らした。


 洋の声が聞こえたのか、彼女は洋の目を見たまま動かなかった。


 洋はハッとした。あっ、聞かれた。そう思うと、心の奥底から煮えたぎる恥ずかしさがマグマの如(ごと)く上ってくるのを感じた。


 しかし、彼女は言われ慣れているのか、気に留めなかったのか、聞こえなかったのか、すぐにニコッと笑うと、


「おはよう」と言った。


「どこに座るんだろうね。勝手に座っていいのかな」


 と彼女の友達が言うと、


「あっ、見て。黒板に出席番号順に座るようにって書いてある」


 机を見ると、名前と出席番号、またそれとは別に赤字の番号が記された紙が右側から縦列に貼られていた。また、黒板に向かって右半分が男子、左半分が女子とも書かれてあった。


 女子二人は、各々の名前を探した。


「あった、私ここ」


 と、彼女がもう一人の女子に言った。机の位置を考えると、彼女の苗字はナ行から後半と思えた。


 洋は男子の最後、彼女の友達は洋の真後ろ、彼女は洋から見て左斜め前の席であった。

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