第一章 高校バスケット部、入部 一 入学式
本日に於(お)ける新入生の行事は入学式の終了を以(もっ)て終わりである。閉式の言葉で締めくくられると、新入生と保護者はざわめく中正門に向かい始めた。それは父親と娘であったり、母親と息子であったり、彼等のほとんどがおそらく親子であり、学校の印象や校長の話や今後の学校生活のことなどを話しながら帰宅の途につくのは、ごく当たり前のことだろう。
洋もまた保護者と一緒に正門に向かっていた。ただ、洋と並んで歩いている女性の名前は中村信子(なかむらのぶこ)と言った。
洋は学校名の入っている正門前で記念写真を撮っている親子を見た。そこには他にも何組かの親子が記念撮影の順番待ちをしていた。
正門近くの染井吉野が強くも淡い光に輝いている。
二人の後ろ姿はゆっくり歩く信子に洋が歩調を合わせているように見えた。
「おばさん」
「何?」
「ちょっと寄って行きたい所があるので、先に帰ってもらってもいいですか」
「構わないけど、帰りはどうするの?」
「歩いて帰ります」
「結構あるわよ」
「大丈夫です」
「道は分かる?」
「はい」
「そう……お昼はどうする?」
「……今日はいいです」
「そう。今日は私も一日中家にいるから、お腹空(す)いたら言ってね」
「はい」
「じゃあ、気をつけて」
最後にそう言うと、信子は柔らかい笑顔を見せた。言葉を交わせた理由が何であれ、学校の敷地内で洋と話せたことに、信子はどこかほっとしたようだった。
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