第一章 高校バスケット部、入部 二 監督の誘い
曇り空だった天気は通学途中雨に変わった。
深い話が出来るのはまだまだ先であろうが、それでも信子とざっくばらんに話せたことは、心の垣根を低くさせたようだ。ついつい長話をしてしまったのは、その証拠だろう。
自転車通学をしている洋は漕ぐのを一旦止めて合羽を着るか、それともそのまま突っ走るか悩んだ。しかし、そうこう考えているうちに学校に着いた。びしょ濡れではないものの、やはりそこそこ濡れていた。
教室に入ると、鷹取は既に来ていた。
昨日(きのう)は入部しないときっぱり言ったにもかかわらず、一晩(ひとばん)で手の裏を返したことに、洋は気まずい思いを抱いていた。顧問の藤本に口説かれたと思われるのが、どうにも癪(しゃく)に障(さわ)る。
洋は話し掛けることなく自分の席に座った。
「あっ、来た」
「何だよ」
「矢島、ちょっとお願いがあるんだけどさ」
「えっ、嫌だよ」
「まだ何も言ってないだろ」
「どうせ陸(ろく)なことじゃないよ」
「昨日、バレーの三年生に捕まっちゃって、しつこくてさあ……結局入部届出せなくて」
「えっ、そうなの?」
「だから、一緒に行ってくれないかな。誰かがいれば、うまく逃げられるだろ」
昨晩、藤本は一年生で凄い奴がいると言っていた。洋はてっきり鷹取だと思っていた。しかし、今の話が本当だとすれば、その凄い奴って一体誰なんだ?
「ああ、いいよ」
洋は気楽に引き受けた。自分も入部届を出すつもりでいたから、鷹取の誘いは渡りに船だった。入部することを知ったら、鷹取は何て言うんだろう?それに……洋はやはり気にせずにはいられなかった。凄い奴って一体どれ程なんだろう?
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