第二章 新しいユニフォーム 一 入部から一週間
辛い思い出も楽しい思い出も矢島という苗字にぎっしりと詰まっている。高校でバスケットを続ける限りは矢島を名乗りたい。洋がどれほどの思いを込めてバスケットに打ち込んできたのかは想像すら出来ないことだが、中学時代にチームメイトと苦楽を共にした経験が洋の心の支えになっているのは間違いない。
「あれ、おじさんは?」
「今日は新入社員の歓迎会」
「あっ、そうでしたね。おばさん、今朝車で会社まで送ったんですよね」
「若い人が入るのは良いんだけど、問題は定着してくれるかどうか……小さな会社だし、若い人達はみんな都会に行きたがるから」
「おじさんも大変なんですね」
「まあ、部長にでもなれば、あれこれと考えることは多くなるでしょうね。あっ、そうそう」
「何ですか」
「テレビの脇にレジ袋があるでしょ。ちょっと見てくれる?」
洋は言われたままにそれを取って中を見ると、
「あっ、これプロテインじゃないですか」
「洋がバスケットを始めたってパート先の人に話したら、勧めてくれたの。取り敢えずはバナナ味を買ってみたんだけど、どうかしら」
「そうですね。体作りには良いと思いますが、でも、プロテインって結構高いんですよね」
「パートも社員割引で買えるから、気にしなくていいのよ」
信子が笑って見せた。
洋は有り難く甘えようと思った。
手洗いうがいを先に済ませて、スクールバッグだけを持って一旦自室に戻ると、洋は部屋の隅に置いている五キロの鉄アレイを縦に持って腹を叩き始めた。臍上(へそうえ)を一〇〇回、下っ腹を一〇〇回、みぞおちを一〇〇回。それを二セット計六〇〇回を終えて、洋にとっての一日の練習がようやく終わる。
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