第二章 新しいユニフォーム 一 入部から一週間

 耳を澄ませば虫の音(ね)が聞こえて来そうな夜の静寂(しじま)である。


 中村家の居間からは明かりが漏れている。


 居間では、まだまだ寒さを物語っている石油ストーブの火が燃えている。


 壁時計はもう八時を回っていた。


 信子はテレビを見るのを止めて、夕飯の支度(したく)を始めた。と言っても、こたつのテーブルに食器を並べるだけである。御飯とおかずは既に支度済みである。楕円形の深皿が用意されたところを見ると、どうやら今日はカレーのようである。


 駐車場の方からガチャンと言う音が聞こえた。おそらく、自転車のスタンドを立てるそれであろう。


「ただいま」


 と言う洋の声が聞こえた。


 少しして襖(ふすま)が開くと、信子が、


「お帰りなさい」


 と言った。


 バスケット部に入部する前は、遅くとも六時には帰宅していた。受験勉強の時間を惜しんでの早い帰宅だったのであろうが、新天地になかなか馴染(なじ)めないということもあったかもしれない。


 洋はスクールバッグとリュックを畳に降ろすと、座布団に座って靴下を脱ぎ始めた。


 台所に戻り、信子はガステーブルのつまみを回して中火にすると、


「どう、少しは練習に慣れた?」


 と尋ねた。


「練習に慣れなんてないですよ。一人でドリブルの練習はしていても、走り込んではいませんでしたから。だって、初日からいきなり上級生とパスの練習ですよ。中学の時にやってたからって、ブランクはあるんですから……でも、それはそれで何か懐かしかったですけどね」


「そう」


信子は思い出に耽(ふけ)るような洋を見て、バスケットを続ける上での洋の願望を思い出した。

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