第二章 新しいユニフォーム 一 入部から一週間

 洋はよく体が弱いと口にする。それは事実であり自覚もある。体が弱い者は比例して内蔵も弱い。となれば、当然スタミナもない。腹筋のトレーニングは少しでもスタミナを付けるための、洋自身が考えた取り組みである。


 着替えを終えて戻って来ると、真っ赤なバスケットシューズが壁に立て掛けられていた。先ほど洋が脱いだ靴下、それから汗臭くなったTシャツや短パン、タオルなどは既に信子が取り出して洗濯機に移していた。


 練習初日、やはり今日のようにリュックだけは居間に残して、洋は自室に向かった。洗濯物は腹筋と着替えが終わった後、自分で洗濯機に移すつもりだった。


 しかし、置いて行ったことを信子は自分に任せたと早合点(はやがてん)して、勝手に取り出してしまった。


 洋は信子の行為にちょっと怒(おこ)り気味に「そんなことはしないで下さい」と言って、この時は少し気まずい空気が流れた。しかし、信子の言い訳を寝る時に思い返して、自分も悪かったと翌朝信子に謝った。


 信子も、不用意であったことを謝罪した。多感な時期に同じ事をされたら、私もやはり怒っただろうと信子は言った。


 これを機会に、今後どうするかを話し合って、洗濯物は信子が取り出すことに決めた。リュックを置いて自室に戻ったのは、そう言う理由からである。


 おそらくは、正昭相手に行っていたことがつい習慣的に出てしまった結果なのだろうが、このような気苦労は母親でないと体験出来ないことだ。ましてや、いきなり大きな息子が出来たとなれば、戸惑うことは多々あるだろう。


しかし、母のやり甲斐を感じているのか、信子の表情はとても生き生きとしていた。


 案の定、夕飯はカレーだった。大きな牛肉の塊(かたまり)が三個もあって育ち盛りの洋にも食べ応えがあった。


 正昭の帰りは間違いなく遅くなるだろう。明日の土曜日は出勤日ではないようなので、帰宅はきっと0時を回ることであろう。

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