第二章 新しいユニフォーム 二 ハードな練習

 土曜日の授業は午前で終わり、通例、この日の練習はいつも午後一時過ぎくらいから始まる。


 洋はパンとコーヒー牛乳だけでお昼を済ませると、


「鷹取、先に行ってるな」


 と言って、早々に体育館へと向かった。


 洋にとっての練習が始まって、今日で六日目。洋はフットワークを交えながらのパスとシュートの実戦的感覚をかなり取り戻しつつあった。早々にコートに向かったのは、その感覚を少しでも早くイメージ通りのプレーに具現化出来るようにしたいからであろうか。


 洋は練習着に着替えると、ボールかごを用具室から出した。練習の準備をするのは当然一年生の仕事である。


 夏帆はまだ体育館に来ていなかった。洋が教室を出るときにはもういなかったので、おそらく更衣室で着替えている最中だろう。


 同じクラスとは言え、洋は夏帆とそんなに話をしない。やはり男子は男子、女子は女子でどうしても固まりがちになる。ただ、何か切っ掛けがあれば、男女の垣根はすぐに無くなり、話の輪が広がる。洋と夏帆の仲もそんな感じであった。


 そう言う意味では、夏帆は相変わらず明るく、その明るさ自体が切っ掛けとなり、いつしか男女を交えた話の中心にいることが多い。ただ、ここ数日、夏帆はふっと暗い影を見せることがあった。人によっては単に元気がない程度にしか思えないことであろうが、洋にはそれが不自然に思えてならなかった。


 夏帆が体育館に入ってきた。今日も真っ赤なTシャツを着ている。


 夏帆は自分を見ている洋に気がついた。笑顔を見せて大きく手を振った。


 洋も今日は大きく手を振り返した。いつもなら恥ずかしさが先に来て周囲を気にしながら遠慮がちに振るはずが、今日に限っては違った。夏帆に感じた暗い影が気になるからであろうか。


 しかし、夏帆はチアの仲間と楽しそうに話をしている。彼女達と一緒にチラッと洋を見ては笑い合っている。何がそんなにおかしいのかは分からないが、元気ならそれでいい。


 そこへ、鷹取が来た。彼の表情にはヤル気が十二分に溢(あふ)れていた。

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