第二章 新しいユニフォーム 二 ハードな練習

 山並バスケット部の慣例は、練習が始まるまで、各人はストレッチでウォーミングアップ、全員揃ったら、円陣を組んで気合いを入れると言うもので、練習を始めるのはその後(あと)からであった。


 練習後の円陣はキャプテンである日下部が仕切っている。彼が「並校(ナミコー)」と大きく声を上げると、その後(あと)全員で「ファイト・オー、ファイト・オー、ファイト・オー」と三回声を上げ、もう一度日下部が「並校」と言い、最後に全員で「ショイ」と言って一日の練習を締める。


 この円陣での掛け声は学校によって異なるであろうが、その中には日頃からそれを言っているメンバーにも意味の分からない言葉もある。並校でも最後の「ショイ」は元の言葉が何なのか、いつから使われているのか全く分からない。意味を問われたら、伝承だと言い張るしかない。


 それに対して、練習前の掛け声は持ち回りになっている。今日の出来事を何でもいいから大きな声で言って、その後全員で「ファイト、オー」と言うようになっている。これは藤本の発案で、その意図はお互いの腹を割ることである。何でも良いから本音をさらけ出せば、それだけ心の距離が縮まる。余計な人間関係を取っ払うには、良い方法である。


 洋は練習初日に早速その洗礼を受けた。洋の言った言葉は「数学、分かんねえ」だった。

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